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いつまでも咲く花をきみに  作者: 塩味うすめ
手紙の降る夜
19/37

リヌスの球根

□□□□□□□□□□□□□□□□□□□■□□□□ 


 アンリが上機嫌でルリエーブル魔道具雑貨店から出ていく。その後ろ姿を見ていたのか、アインが面白くなさそうに言う。


「一週間も前からアルク共和国に行くのか」

「そうなったわね」


 交通費と宿代も出すと言われたが、それは丁重にお断りした。同業である以上貸しは作りたくない。


「一緒に行く必要があるのか?」

「あるから一緒に行くのよ」

「あの人達か?」

「うっ」

「いい加減、慣れた方が良いのではないか?」


 アインの言うことは最もなのだが、苦手な人はどうしたって苦手なのだから仕方がない。サラは、責められたのが悔しくて言い返す。


「アインだってアンリさんの事、苦手じゃないの?」

「嫌われているとは思うが、苦手ではない。それに言い合うのもそんなに悪い気はしない」


 アンリは、他のインテリジェンスインテリアを毛嫌いする人と違って、アインの存在を完全に無視したりはしない。元より、そんな人はアインがいる事を知ったら「品のない店だ」と言って二度と来ない。

 自分を不快にさせる存在と関わりたくないのは普通だと思う。サラにとって、あの人達は貴族にとってのアインのような存在なのだろう。 

 

「そんな風に思えるなら、いいけど」

「しかし最低でも一週間出掛けるのか、日持ちする花を用意しといて欲しい」

「はいはい。全く永遠に咲く花があればいいのに」

「そう言って、持ってきたリヌスの球根は一度も咲かなかったじゃないか」

「そうだったねぇ」


 以前サラがアインのお土産に買ってきた【リヌスの球根】。フエフトで行われた戦争を知るきっかけにもなった魔道具。旅の先で見つけたそれは、あのリヌス・ファン・ロイスダールが育てていた物だと言われ、今まで腐らずに花も咲かせないままの状態であるとの事だった。

 サラは、リヌス・ファン・ロイスダールの事を知らなかったが「花が咲いたら、見たことも無い程に綺麗な花をつけるか、永遠に咲き続けるだろう」という謳い文句に誘われて購入する。

 

 しかし、家に帰って植えてみた所。いくら待っても、一向に発芽する気配がない。あの手この手を尽くしたがどうにもならなかった。

 

 この時にサラは色々と調べ、戦争やリヌスについても知る事になる。最もリヌスが育てたという事実は公式に記録されてはいなかった。

 グロンダン王国の歴史書の一文に[A.S.949 7月8日 ルブラン王国とロイス平和条約を結びフエフト戦争終結。戦争犯罪者リヌス・ファン・ロイスダール死去]とあっただけだ。 


「3万フランも騙された」

「まだ騙されていないわ。現にリヌスの球根は腐っていないもの、ほら」


 サラは振り返り、後ろの棚を指差した。そこには球根が一つ座っている。


「正真正銘のゴミだ」

「またそういう事を。魔道具だし、何か特殊な条件が必要なだけよ。そうだ49年前の手紙で何かわかるかも」

「届かなかった手紙に何が出来るのものか」


 そう言った、アインの声はどこか寂しげに聞こえた。



「ありがとうございました」

「またのお越しを」


 嬉しそうな顔をしたお客さんが、扉を開けて帰っていく。お目当ての魔道具を買うことが出来たのだろう。こういう時、店を開いていて良かったと思える。

 明日から一週間は店を閉めなくてはいけないのは心苦しいが、巡り合わせと思って諦めてもらうしかない。


「今日の夜には出発するからね」

「わかっている」

「ちゃんとお土産買ってくるから」

「変な魔道具はいらない」

「もう」


 アインにはアンスリウムの花を飾っておく事にした。鮮明な赤の色が美しい。時計を見ると、アンリが迎えに来る時間迄まだ少しある。鞄にはいくつかの魔道具が入っているが、サラは他に役に立ちそうな魔道具は無いかと店の中を見てまわる。

 


□□□□□□□□□□□□□□□□□□■□□□□


お読みいただき、本当にありがとうございます。

評価の方をしていただけると、大変参考になりますので、よろしければお願いいたします。

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