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いつまでも咲く花をきみに  作者: 塩味うすめ
手紙の降る夜
17/37

オランドの依頼

□□□□□□□□□□□□□□□□■□□□□□□□

 

 マルテ大陸の南西に位置する島国、アルク共和国。山羊の手紙はその国から各国へと出回っている。ルブラン王国でも、決まった時期に手紙の束がやって来ていた。

 サラは2年前に馴染みの魔道具問屋で、聞いた話を思い出す。


『49年の時を超えてな。数千枚の届かなかった手紙が、一の年の7月7日に現れる』


 そう聞いて、驚いたものだ。

 当時の世界人口が約一億人なので、一の年と二の年の2年間で届かなかった手紙がそんなにあるとは思いもしなかった。  

 

「山羊への手紙はアルク共和国で手に入ります」


 サラの回答に、オランドが微笑む。


「試すような質問をして、すまないね」

「いいえ。その、何かあるのですか?」

「うむ。それなんだが、次の7月7日に現れるイネス・フォール宛ての手紙を手に入れたいのだ。お願い出来るだろうか?」


 今は4月。だから充分に間に合う。しかし、数千枚の手紙の中からひとつの手紙を見つけることが出来るだろうか。返答に躊躇してしまう。


「報酬は依頼料金で10万フラン。達成した場合は追加で400万フラン払おう」

「やります」


 400万フランは店の1年分の利益に近い。サラは提示された額に、一も二もなく飛び付く。今月が始まって一週間だが、店の売り上げは芳しくなかった。


「ありがとう。但し、これは他の魔道具店にもお願いをするつもりだから、競い合うことになるかも知れない。無論7月7日には、私もアルク共和国に行く。それでも構わないかな?」

「他の魔道具店...」


 魔道具業界には2つの大きな商会がある。ルコント家が代表を務めるアンブル商会とメルシエ家が代表を務めるフィル商会だ。ここオーベルにもそれぞれの支店がある。

 ルリエーブル魔道具雑貨店のような店もあるが、魔道具店と言えばアンブルかフィルであった。


「アンブル商会とフィル商会にも依頼するのですか?」

「そうだね。私はあの手紙を手に入れる為に出来る限りの事をするつもりだ」


 オランドが遠い目をして窓の外を見る。雨はもう上がっていて、雲の向こうには陽が射している。

     

「では、7月7日にアルク共和国で会おう」


 依頼料の10万フランを置いて、オランドが店から出ていく「ありがとうございました」パロットベルの声に耳を傾けて。

 見送りに出たサラは、離れていくモーターサイクルコートの背中を見る。

 7月。コートの必要がない季節。サラはそれまでに情報を集めなくてはと、胸の前で両手でこぶしを作った。


 店に戻り、すっかり黙ってしまったアインをテーブルから、いつもの定位置に戻す。


「あんな話を信じるのか?イネス・フォール宛の手紙が現れるかどうかなんて分からないはずだ」

「言われてみれば、そうね」

「サラは考えが足りないのではないか?」

「失礼ね。そんな事言うアインには、報酬が入っても何もなしよ」

「いや、それは」

 

 必死に言い訳を考え始めるアインを放置して、さっきまでオランドと座っていたテーブルの上を片付ける。

 嘘をつくような人には見えなかった。アインの言う通り、特定の手紙が現れるかどうかなんて分からない。だけど、オランドは信じていた。期待とか希望の言葉が相応しい状況で、そんな印象を少しも感じさせなかった。

 だから、考えが足りない訳ではないとサラは自分を擁護する。


 しかしこの後、情報を集めだしたサラは、別の意味で考えが足りなかったと思い知る事になる。

 

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お読みいただき、本当にありがとうございます。

評価の方をしていただけると、大変参考になりますので、もし、よろしければお願いいたします。

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