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いつまでも咲く花をきみに  作者: 塩味うすめ
手紙の降る夜
15/37

消えたもの

□□□□□□□□□□□□□□■□□□□□□□□□


 セルジュは、夜戦の片付けを行う兵士達をひとり座って見る。レノー中尉の指揮の元、兵士達が動いている。あっちでは負傷者が魔道車に乗せられていて、こっちでは死を(いた)む者達が祈りを捧げている。

 ヴァレリーの命を奪った魔道銃はルブラン王国軍の物だった。グロンダン王国軍に襲われた時に兵士の一人が落とした物が使われたのだ。落としたのは新兵で今はリュドヴィック少尉の所で泣き崩れている。


 すべては、ヴァレリーをあの場所に居させてしまった自分の所為だ。

 

 その原因は、自棄になって前に出たからで。ドニが死んだからで。前線に来る事を希望したからで。戦場に行くことを志願したからで。


 生きていたから。


 魔道車が走り去り、レノー中尉が動ける兵士を呼び掛ける。空は明るみ始めていて、こんな時でもなければその鮮やかさに目を奪われていた事だろう。


「皆、聞いて欲しい。私達は今夜ここで行われた戦いに勝利した。だが、代償として私達は27人の仲間を失った。誰もが生きるべき存在だった」


 目に写るのは兵士達の背中。耳にはレノー中尉の言葉が届く。


「悔やんでも、過ぎた事は変わらない。出来る事はこの先を変える事だけだ。まだ戦争は終わってはいない。私達はこの夜を乗り越えて先に進む」


 日が顔を出し、一日の始まりを告げる。




「前線基地が燃やされました」


 帰還したセルジュ達を待っていたのは、労いでも慰めの言葉でもなく、嘆きの言葉であった。前線基地は倒壊した建物と焼けた匂いに覆われていた。

 前を見れば、先程まで消火していた者達がまだ使えそうな物はないかと探していて、戻ってきた兵士達が手伝いに動いていく。皆、昨日から寝ておらず疲れを隠せていない。

 レノー中尉や上官達はレミ少佐の所に集まっている。この火災について、話し会っているのだろう。消火していた者達の話によれば、少数のグロンダン王国の兵士達が火をつけて回ったそうで、中にはリヌス王子の姿もあったとの事だ。

 

 瓦礫の中から取り出した物が分けられる。焼けた物、煤けた物、水に濡れた物。帽子や靴等の衣類の中にはモーターサイクルコートもある。食材も使える物とそうでない物が見られた。

 セルジュは備品の仕分けを手伝っていた。焼けた枕を手に取る。ドニの手紙も燃えたのだろう、失われる前に読めて良かったと思う。


「手紙」


 セルジュは、ヴァレリーの泊まっていた民家へと急ぐ。建物の燃焼具合には差がある。しかし、見えてきたのは黒く炭化した木材の山であった。


「.....」


 呆然と足を踏み入れる。炭がくずれ、灰が巻き上がる。見つけなくてはならない。炭を掻き分ける手が熱く、着けていた手袋がボロボロになる。 


「おい!危ないぞ」

「もうそこには何もない!」

「こっちに戻れ、木材が崩れるぞ」


 セルジュの行動を見た者達からの警告が入るが、取り合わず探し続ける。ヴァレリーの最期の言葉を聞いた者は自分しかいないのだから。

  

「セルジュ。戻れ」

「もういい」


 肩を掴まれ、強引に立たされた。オレリアンとリオネルの二人が辛そうな表情で見ている。


「いや、でも。私はヴァレリーさんに頼まれたのです。手紙を探さないといけないのです」

「手紙?」

「はい。届けて欲しいと」

「...セルジュ、この有り様だ。もうその手紙は」

「いえ、探します」

「セルジュ!」


 悲痛な声に、振りほどこうとした視線が重くなる。世界の重力が増したように、沈黙が深く、沈んでいく。


「集合です!司令部前に集まって下さい」


「行こうか…」


 黒い灰が、音もなく宙を舞う。


□□□□□□□□□□□□□□■□□□□□□□□□


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