ヴァレリー・フォール
□□□□□□□□□□□□□■□□□□□□□□□□
セルジュは迫るグロンダン王国軍の兵士達を前に足を止めてしまう。彼らの迫力に気圧されてしまった。覚悟を決めて踏み出したはずの足は震えている。魔道銃を構える事も出来ず。迫る兵士達を、ただ見ている事しか出来ない。
「何してんだ!」
体が横から飛ばされて地面を滑る。痛みに感覚を思い出させられて口がにやける。頭上で発砲音が聞こえ、見上げるとヴァレリーがいた。
「…また」
「伏せてろ!」
魔道銃を構え、前を向いたヴァレリーが怒声をあげる。グロンダン王国の兵士達は銃口を避けるように別れ、散開したルブラン王国軍を追う。彼らの手には剣が握られていた。
一連の出来事に、ルブラン王国軍の先頭に出ていたセルジュとヴァレリーは取り残されてしまう。
「くそっこれが狙いだったのか」
振り返ったヴァレリーが魔道銃を向けるが、誤射を恐れて撃てないようだ。
グロンダン王国の兵士達が剣を掲げ、ルブラン王国軍に突撃する。それに対し、ルブラン王国の兵士達は散開しながらも迎撃していく。
魔道銃の前に倒れるグロンダン王国の兵士達。だが、仲間が倒れてもグロンダン王国の兵士達は、その足を止める事なく剣をルブラン王国軍に向けた。
セルジュは立ち上がり、グロンダン王国の兵士達の後を追おうと足を踏み出した。しかし腕を掴まれ、その場から離される。有無を言わさぬ力で引っ張られ、抗うことも出来ない。
「放してください」
「ダメだ」
「何故ですか?」
「お前こそ何故だ?何故前に出た?」
「それは...」
「ここで見ていろ」
咄嗟に何を馬鹿な事をと思うが、言葉に続かない。セルジュはヴァレリーの遠ざかる姿を見ている事しか出来なかった。
魔道銃の音と人が倒れる音が聞こえる。
セルジュは何の為にここにいるのか分からなくなって、手にある魔道銃を見る。銃弾ひとつで人を殺せる道具。簡単に人は死ぬのだと思う。ここでの命の価値はとても低い。ドニは分かっていたのだろうか、死ぬかも知れないという事を。
前を見れば、勇ましく散っていく命がある。グロンダン王国軍の兵士は魔道銃を前に剣で戦いを挑んでいる。自分もああいう風になりたかった。
音が止み、風が通りすぎていく。もう見える所にグロンダン王国の兵士は立っていない。セルジュの前でヴァレリーが頭を掻いている。
「何も出来ませんでした」
「ん?ああ」
「私の所為で、あの兵士も、友人も死んでしまった。なのに、私は何も」
「..そうか」
「私が、死ねば、良かった」
向こうの方では、レノー中尉が動ける兵士達を呼び掛けている。グロンダン王国の兵士達に生き残りがいないか確認するように指示を出しているようだ。
「セルジュ。お前は優しい奴だよ」
セルジュは顔を上げ、ヴァレリーの顔を見る。
「何も間違っちゃいねぇよ」
「そんな訳...」
「だから、泣くな」
頭に手を置かれ、ぐしゃぐしゃにされる。
「...」
自分の行いが生んだ結果が受け止められなかった。そんな結果など望んでいない。正しい行いだと信じて、良い結果が待つものと思っていた。だけど、結果はセルジュを苛んだ。
だから許したくても許せないで、責めたくても責めきれない、そんな優柔な気持ちを亡くしたかった。
ヴァレリーに横から背中を押され、レノー中尉のいる所へ向かう。
「なぁ。俺に子どもが出来たんだ。まだ会ったこともねぇんだけど、こんな俺でも父親になれるかなぁ?」
不意に発砲音が鳴る。音のした方向にはグロンダン王国の兵士の魔道銃を構えた姿があった。再びの発砲音。魔道銃を構えていたグロンダン王国の兵士が倒れた。
背中にあった手がなくなり、肩に重たく乗る。
「ダメみたいだなぁ...セルジュひとつ頼みがある、手紙を届けて欲しい....」
「ヴァレリーさん?」
肩から手が落ちて、支える間もなく倒れていく。ヴァレリーが撃たれたのだと分かった。
「誰か!ヴァレリーさんが!」
駆けつけた兵士が首を振り、セルジュの目の前がまた滲む。
□□□□□□□□□□□□□■□□□□□□□□□□
お読みいただき、本当にありがとうございます。
評価の方をしていただけると、大変参考になりますので、もし、よろしければお願いいたします。