ドニ・ミッテランの手紙
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セルジュ・オランドへ。君が今、この手紙を読んでいるという事は僕は死んでしまったという事なのだろう。
なんてね。ごめん、一度こういった書き出しをしてみたかったんだ。
診療所に入ったと聞いて、お見舞いに行こうかと考えたんだけど、君の事だ「こんな所に来る暇があるなら、グロンダン王国軍を一人でも多く倒す方法を考えろ」と言うだろうと思い直して、止めた。
あの日君達が持ち帰った情報で、グロンダン王国軍が150以上の兵力を集めている事が分かった。
いよいよだ、いよいよだよセルジュ。この手でグロンダン王国の奴らを撃ち倒す事が出来るんだ。
司令部は明日には銃撃戦が始まるとの見解だ。今まであった様子見のような物とは、比べ物にはならない激しい戦いになるはず。今度こそ銃弾を喰らわせて、僕達の悔しさを思い知らせてやるつもりだ。
僕は君に後方基地で出会ってから強くなれた気がする。というのも僕は弱い人間だった。意外かい?そうでもないかな?
僕は、いつもオドオドして人の顔色を窺うような、気の弱い子どもで、大人になってもそれは変わらなかった。
お金を貸して欲しいと言われれば貸した。それで返ってこないのはまだしも、馬鹿にされた事もある。そんな扱いを受けても、何も言い返せず笑ってごまかして生きてきた。
周りに合わせて生きる事しか出来なかった。悔しい思いや、悲しい気持ちは無かった事にしていた。一日の終わりに溜め息をつく毎日、ずっと変わりたいと思っていた。
そんな時、フエフトが戦場になったという話を聞いたんだ。争いの場に参加すれば、変われるかも知れないと僕は兵に志願した。
後方基地で、君はいつも故郷を踏みにじられた事に怒っていたね。悔しい思いを素直に現していると思った。
だから、僕は君に近づいた。君に合わせていれば変われるだろうと思ったから。
そして、それは覿面だった。僕は強い口調でグロンダン王国軍を非難しはじめる。僕は変われた。そう思った。
だけど前線基地に来て、君とは違う部隊に配属された辺りから違ってくる。セルジュと一緒にいる事が少なくなって、僕は元通り気弱な人間になってしまったんだ。
セルジュに合わせていただけだった。
結局、僕は周りに合わせて生きているだけだと気付いてしまった。
でも、でもだよ。君に合わせていたとしても、僕は変わりたいという思いでここまで来たんだ。僕は自分の思いや気持ちを大事にできる人間になったんだ。そうだろ?
君のおかげで強くなれた。そう信じている。
それを証明するためにも、銃撃戦で活躍して見せるよ。
追伸。この手紙は、僕が無事に帰ってこれなかった場合の保険です。君に感謝を伝えられないのは嫌だったから。
ありがとう。
ドニ・ミッテラン
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手紙の字は所々、揺れていた。震える手で書いたのだろう。
自分のベッドに腰掛け、ドニの事を思い出す。いつだってセルジュの言う事を否定しなかった。同じようにグロンダン王国に対して、憎しみを持っているものだと思っていた。
「ドニ...」
そう言えば、ドニがどこの出身かも知らない。勝手に同郷だと思い込んでいた。
もう一度、手紙を読み返す。
揺れた字が滲む。自分はドニに感謝されるような人間ではない。何も知らず、息巻いていただけだ。それが、ドニをこの前線にまで連れてきてしまった。
今となっては、もう虚勢を張ることすら出来ないのに。
「ごめん…」
ドニは、どんな思いでこれを書いたのだろうか。隣のベッドを見ても、答えは返ってこない。
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