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いつまでも咲く花をきみに  作者: 塩味うすめ
手紙の降る夜
11/32

答えのない問い

□□□□□□□□□□■□□□□□□□□□□□□□ 


 前任者と交代し、歩哨の任務に就いたセルジュはひとり草原の中に立っている。


 単独行動なのは、歩哨の範囲が戦闘に合わせて広がった為だ。何か異変があった際には、通信木という魔道具で連絡を取る事になる。

 通信木は、ある木の枝と幹で作られた棒状の魔道具で、枝と幹の間で簡単な信号を送り合う事が出来る。送り合うといっても幹側からは一斉に信号を送る事になってしまうので、個々の連絡には向いていない。 

 

 セルジュは通信木を手に、望遠鏡で国境線を見張る。

 見えるのは手付かずに広がっている自然だけで、何の動きも見られない。グロンダン王国軍が侵攻してくるとは考えにくい場所だった。

 

 思えば、戦闘から遠ざけられていた。「自分の手で追い返す」とか「死力を尽くして」等と言っている奴が戦闘に出れば、憎しみを増やす種にしかならないと思われたのだろう。

 だが、実際はそのようにシードされる必要もない小者に過ぎなかった。

 

『何も知らねぇくせに、粋がっている姿は滑稽でしかないだろ?』


 後方基地にいた時にヴァレリーに言われた言葉を思い出す。ドニの遺体を見て、虚勢を張った今の自分に相応しい。あの時は虚勢を張っているとは思っていなかったが。

 戦争についても。人を殺すという事も。人が死ぬという事も。そして、自分という人間についても。


「何も知らなかった」

 

 変わりのない景色。声は誰に聞かれる事なく消えていく。


 故郷を汚されたという思いを晴らす為に、志願してここまで来た。だけど、それは間違いで臆病者と断じたモリス・クーザンの方が正しかったのか。ヴァレリーの言ったように憎しみを持っても、報復をしようとしない事が情けなくないのだとしたら、自ら戦争に関わる事は愚かであったのか。考えるが、答えを出せそうにもない。

  

 望遠鏡の先に見える国境の向こう側は、ルブラン王国の土地と同じように魔道車に踏み荒らされている。

 

 何事もなく時間は過ぎていき、代わりの偵察兵がやって来た。セルジュは一言、二言の引き継ぎを済ますと前線基地へと戻る。詰め所ではヴァレリー達と顔を合わせたが、朝の話の続きをする事は無かった。意図的にその話題を避けていた。

 

 セルジュは宿泊所に向かい、ゆっくり歩きながら戦争について考える。戦争を拡大させない方法や、終わらせる方法、始まらせない方法。

 戦わず逃げるのはどうか。どこへ?いつまで?現実的に可能なのか。守りに徹するのはどうか。守りきれるのか?消極的で相手次第になってしまわないか。相手の言いなりになるのはどうか。争いは起きないかも知れない。でも、それで良いのだろうか?考えても、答えの出ない問いが増えていく。

 

「はぁ」


 息を吐いて、セルジュは上を向く。何もすっきりしないまま、宿泊所へと戻ってきた。ここに泊まる偵察部隊の隊員はセルジュの一人だけで、ヴァレリー達は他の宿泊所に泊まっている。宿泊所の中は静かで誰も居ない。他の部隊の兵士達は、まだ戦闘や防壁建造に出ているようだ。

 自分のベッドの隣、ドニのベッドを見る。まだ片付けられてはいない。荷物もそのままでモーターサイクルコートも掛けられたままだ。


 枕が歪んでいるのが気になり持ち上げると、一枚の紙が出てきた。紙にはドニの字で手紙のような物が書かれている。


“セルジュへ”


 書き出しの文章が目に入り、セルジュの手から枕が落ちた。


□□□□□□□□□□■□□□□□□□□□□□□□


お読みいただき、本当にありがとうございます。

評価の方をしていただけると、大変参考になりますので、もし、よろしければお願いいたします。

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