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いつまでも咲く花をきみに  作者: 塩味うすめ
手紙の降る夜
1/32

ルリエーブル魔導具雑貨店 Ⅰ

■□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


 降り続く雨が、街を洗い流すように小さな川を作り、やがて地下へと流れていく。

 この雨が世界の汚れを落とすまで、降り続けるというのなら。私達は二度と青い空を見ることは出来ないだろう。

  


「雨を見ているのか?」


 サラが窓の外を見ていると不意に声が掛かる。聞きなれたその声はカウンターの上に置かれた一輪挿しの花瓶(インテリジェンスインテリア)から。 


「アイン。見て分からない?」


 世界には数多くの魔道具が存在し、物理法則を無視する不思議な力を持つ。現代文明の基盤を支え、アンコモンと呼ばれる消えない火、自転する歯車、溶けない氷といった物から、日常的に使われコモンと呼ばれる、光るガラス球、汚れを落とす紙、一掃きで周りのホコリを集める箒、減らない水瓶などがある。

 

 アインも魔道具のひとつで、名前はサラが付けた。尚、魔道具は地域によって『フェアリーズギフト』と呼ばれたり『デビルズワーク』と呼ばれる。

 

「サラ、分からないから聞いている」

「それもそっか。雨、止まないなと思って見ていたのよ」


 魔道具が発生する要因については諸説あるが、有力なのはヴェルヌ説である。自然物や人工物についた目に見えない生物が人や動物の思いと反応を起こし、不思議な力を持つようになるのではないか。というジュスタン・ヴェルヌ博士が提唱した微生物による思念の具現化説が、ルブラン王国をはじめとする各国で一般的だ。

 

 ただ、どのような物が対象になるのか、どのような思念と反応するのかは未だ解明されていない。また、不思議な力にどういったものが生まれるのかも研究中との事だ。サラは手にしていた魔道具雑誌を閉じた。 


 よく分からない不思議な物も、触れる機会が多くなり生活に馴染むようになると、その作られ方やどういった物なのかを知る事より、どのようにして使うかとか、どう役立てようという方向に考えるようになる。それが人間というもので、その類いに漏れずサラも魔道具を扱う商売をしている。


「おかしな事を言う。雨はいつか止むもの、止まないはずはないし、人が見てどうこう出来るものでもない。いや待て、人にはそのような力があるのか?聞いたことがないな。いや・・・」


 ひとりで考え事をはじめたアインから棚に並んだ魔道具へと視線を移す。一通り見回した後、サラは頬杖をついた。


「もう少しコモンがあった方がいいかな」


 店に置かれている商品は、ウェイストとされる物ばかりだ。魔道具にはアンコモン、コモン、ウェイストとあるが、魔道具の半数以上は、風が吹くと必ず飛ばされる帽子といった欠陥品のウェイストが占めていて、インテリジェンスインテリアのアインもウェイストに含まれる。

  

 一昔前までは、その希少さからアンコモンであったインテリジェンスインテリア。しかし、知能があると言っても、話す事が出来て学習能力があるだけで、人と変わらないものでしかなかった。

 さらには、未知の話を聞かせてくれると期待した者から詳しく調べられた結果、新たな発見がない事がわかると評価が変わり始める。期待はずれの役立たずだと。  

 

 それでも会話が出来て学習する能力は面白いからとアンコモンの扱いを受けていたのだが、時の女王マルグリッド・ド・リシャールの晩餐会での発言を機にウェイストに引き下げらる事になった。


『物に向かって話し掛けるなんて、友人のいない寂しい人がやることじゃない』

 

 以来インテリジェンスインテリアを持つ事は紳士、淑女にあるまじきと行為とされている。 


「サラ、サラ。聞きたいことがある」

「何?アイン」

「人には天候を操る力があるのか?」

「うーんと、確か。旧文明の頃に任意に雨を降らせる技術はあったみたいだけど、完全に操れたわけではなかったはずよ」

「不完全でも、雨を降らせる事が出来たのか...人とはすごい」

「ふふっ、そうね」


 人ひとりに大きな力はないけれど、集まれば想像を越える力を産み出せるのが人間というものだ。その力が、善い方向にしろ悪い方向にしろ。身近な所では、男と女の2人で新たな生命を産む事が出来る。だが、それが必ずしも善い事と言い切れないのではないだろうか。そんな思考へと至ったサラはカウンターに顔を埋めてしまうのであった。


■□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□


お読みいただき、本当にありがとうございます。

評価の方をしていただけると、大変参考になりますので、もし、よろしければお願いいたします。

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