砂漠の足
後藤を探索に向かわせたのは失敗だった。誰もがそう思っているであろう作戦会議で皆が頭を悩ませる。クラスメイトもそうだが、今の議題は深刻な水不足にあるからだ。
「困ったな。持ってきた水は今日で底を尽くだろう。どうにかして水を確保できないものか」
「そだね~。コンビニで例えると、ミネラルウォーターが品切れした状態だもんね~」
清宮よ、それはコンビニじゃなくても同じだ。つ~か暑過ぎて言葉が出ねぇ……。
「フン……そうだな。会長の言う通り、今日中には何とか確保したいものだ。フン……」
「優姫、怒ってるでス?」
「な、何でもない、百地が予想以上にヘタレでガッカリしただけだ!」
「「「あ~」」」
数人からフに落ちたと言わんばかりの声が漏れ、あからさまに呆れた様子の京介が耳打ちしてきた。
「お前、昨日の夜に宝蔵院の部屋に行かなかったろ? だから怒ってんだぞ」
「え? まさかあれ、本気だったのか!?」
「やっぱ気付いてなかったか……。多分だけどな、今こうして呑気にしてられるのも親友のお陰だってのは理解してるんだよ。言わば命の恩人ってやつな。だからこそ親友に引かれたんだろ、ったく羨ましい奴め」
「そうかぁ?」
「くぁ~、これだから童貞野郎は……」
「どどどど童貞ちゃうわ!」
バレてるけど一応否定はしておく。ここ大事だぞ? 無言は肯定したとして受け取られるからな。(←バレてるなら意味なくね?)
「んな事より親友よ、後でちゃんとフォローしてやれ。生憎と俺は女子たちからは敬遠されてっからさ、クラスの女子たちはお前に任せるぜ」
そうだった。始業初日に京介の奴はエクレールをナンパして泣かせちまったんだ。それから宝蔵院には相手にされないし、清宮には然り気無く避けられてたりする。まったく、惜しい奴を亡くしたものだ。
「親友よ、俺のことを脳裏で死人扱いしなかったか?」
「気のせいだろ」
「まぁとにかくさ、女子との距離感には注意しとけってこと」
「経験者は語るってやつだな」
「一言多い!」
京介のお陰で鈍い俺でも理解できた。つまりはこうだ。
【宝蔵院の好感度が激しく減少し、その他女子の好感度が僅かに上昇した】
できる事ならやり直したい! そして前日の俺に言い聞かせるんだ、自信を持てと!
だが過ぎてしまった事は仕方ない。この失敗を糧にして次のチャンスを待つとしよう。
「……コホン。続けて良いかな? 同じ失敗を繰り返さないためにも次の探索は2人に行ってもらおうと思う」
「なるほどです会長! 脳筋の後藤をサポートするためですね!?」
「うむ、薫子くんの言う通りだ。これ以上テキーラは要らないのでな」
「あ? テキーラ最高じゃんかよ」
そりゃお前だけだよ後藤。俺たちは水が欲しいんだよ水が、ナチュラルウォーターが!
「それで会長、誰をサポートに付けるおつもりで?」
「それはもちろん――」
★★★★★
「――って、結局俺かよ!」
そう、選出されたのは俺、主人公百地である。できることなら拠点で錬成を続けたかったんだけどな。相変わらず日照りがキツイし引きこもり最高や。
「おせぇぞ百地、さっさと歩けよ」
「いや、お前が速いんだよ。いつの間にか100メートルくらい離されてるし、何でそんなにフットワークが軽いんだ?」
「あ? 見てなかったのかよ。こうやんのさ!」
言うや否や、後藤は拳を砂に叩きつけ、小さな竜巻を起こして大ジャンプを披露して見せた。下が砂だから着地も安心ってか?
「どうだ、すげぇだろ?」
「すげぇのは分かったけど俺を置いてくなよ!」
更に大ジャンプをかまそうとする後藤に慌てて駆け寄っていく。戦闘はコイツが頼りなんだ、離れるわけにはいかない。
「そもそもレーダーは俺が持ってんだぞ!」
「な~に言ってやがる。今度は北に進むって言っただろうが。方角は合ってんだろ?」
「合ってるけど、どんだけ離れてるか分からな――ん? ちょっと待て、意外と近いんじゃないかこれ!?」
後藤にしがみついて大きくジャンプすると、北に有ったクラスメイトの反応が一気に近くなったんだ。
そして高く上がった時に気付いた。少し先にオアシスがあることに。
「見ろよ百地、オアシスだぜオアシス!」
「ああ。クラスメイトの反応もここにある」
水と一緒に発見できたのは大きい。
ザプ~~~ン!
「ふぃ~、気持ちいいぜぃ!」
「おいこら後藤、水浴びならあっちでやれよ。水筒にお前の汗が入るだろ。会長のはともかく、女子たちにお前の汗を飲ませてたまるか」
「でもこっちが水浴び用って書いてあるぞ?」
「え?」
黒マジックで書かれた張り紙が近くの木に貼られていた。しかもこの張り紙はチラシの裏を利用したもので、明らかに現代日本のチラシそのものだ。
「お前も入れよ百地! ふ~ぅ、最っ高だぜ~~~!」
「だからお前、いい加減……」
ザパァ!
「「て、敵だぁぁぁ!」」
いい加減遊ぶなと言おうとしたが、すぐ近くで何者かが水中から顔を出したのを見て、俺と後藤は絶叫した。
「クソッ、こんなところに敵かよ! 相手してやるからちょっと待ってろ!」
「服着てる場合か! 早く倒せ!」
「バカ言うんじゃねぇ! フル○ンで戦えってのか!?」
「誰もお前の股間なんか興味ねぇよ! それよりさっさと敵を――」
――が、次の瞬間その場の緊張が一気に崩れる。
「ん? なんだ、百地と後藤じゃないか。こんなところで何してんだ?」
聞き覚えのある声に俺と後藤の動きが止まる。よくよく見ると声の主はクラスメイトの1人、村林だった。
「「村林!? 何でここに?」」
「綺麗にハモってんなおい。まぁカクカクシカジカだ」
イソイソと服を身に付けつつ状況説明をし始めたこの男は村林尊。幼馴染みのいる野球部と従兄弟のいるサッカー部を兼任している奴で、こっちに来た理由も俺たち同様。妙な空間で神の話を聞き、気付いたらここに居たんだとか。
「なるほどな。俺たちと同じってわけだ」
「何? 他の連中も集まってんの? じゃあ俺も連れてってくれ。クラスメイトに保護してもらえって神に言われてたんだ」
「分かってるって」
これで残りのクラスメイトはあと6人。一年近くあるタリムリミットで上々の滑り出しだ。
「……よし、近くには居ないな。今のうちに行こうぜ」
オアシスを出る直前、村林が妙にソワソワしているのに気付く。いや、何かに怯えていると言った方が正しいか?
「拠点までは2、3キロってところだ。歩きゃすぐに着く距離だし、何をそんなにビビってやがんだ?」
「いや……それがさ、昨日の夜に見ちまったんだよ」
「見たって……何をだよ? ドラゴンがテキーラで晩酌でもやってやがったか?」
「真面目な話だ。ボロボロな布切れを羽織った連中が馬車を引き連れてウロウロしてやがるのをこの目で見たのさ」
茶化すように後藤が問い詰めることで判明した。つまり村林は幽霊を見たと言いたいらしい。
「それってオアシスを探していた商隊じゃないのか? なんなら食料を分けてくれたかもしれないだろ」
そう俺が切り返すも、村林はブンブンと首を振って否定する。
「違うって! 奴ら夜だってのに灯りもなしに歩いてやがったんだぜ? しかもオアシスを視認しているにも拘わらずスルーしやがった。ありゃ間違いなくアンデッドだ」
そりゃ不気味だな。アンデッドと思うのも頷ける。
「分かったよ、さっさと引き上げ――」
ブワッ!
「ウップ! 急に砂嵐が!?」
オアシスを出た途端に砂嵐? しかもあれだけ晴れていたのにいつの間にか雲ってやがる。
しかもこの天候、只の砂嵐じゃないことに後藤が気付く。
「村林、お前の言った通りかもしれねぇ。砂嵐の中心に妙な連中が見え隠れしやがる」
「そ、それってまさか……ヒィ!?」
目を凝らした村林の顔が青ざめる。昨夜見たアンデッドが見えたらしい。
「後藤!」
「任せろ――うぉぉぉりゃぁぁぁ!」
砂嵐に対抗し、来る時に披露した自家製竜巻を発生させた。意外にもこれが効果的だったようで、中心に居たアンデッド共を上空へと巻き上げ、例の砂嵐も消滅した。
ボトボトボトボトッ!
荷馬車ごと巻き上げたアンデッドが落下ダメージを負い、ボロ切れから伸びた骨をカタカタ言わせて踠いている。うっわ、スケルトンってやつじゃんこれ……。
「おっしゃ、トドメ刺すぜ~」ボキボキ
「おいおい、そんなに踏みつけちゃ罰が当たったりとか……」
「俺より村林に言ってやれ」
「村林に? あ……」
「ふざけんなふざけんな! 俺を脅かしやがってよぉ!」ゲシゲシ!
これは仕方ない。昨夜は1人だけで怖かったんだろうし。そんな村林に死体蹴り――と言えるのかどうかは謎だが、死体蹴りをされアンデッドたちは消滅していった。
「これで恐れるものはなくなった。早くみんなのところに行こうぜ!」
途端に元気になる村林。若干呆れつつ踵を返そうとした俺は踏み留まる。アンデッド共は消滅したが、衣類や馬車はそのままだ。
「これは……」
「どうしたんだよ百地? まさかソイツらが着ていたボロ切れを持っていくとか言わないだろうな?」
「止めてくれよ、俺は夜に見た光景を思い出したくない」
「違うって。俺が気になったのは……」
ズバリ馬車である。
「「馬車?」」
「うん。上手くいけば車が造れるんじゃないかってさ」
俺は希望を胸に馬車へと手を触れる。そうだ、車さえ手に入れば移動は容易。
「いける!」
馬車→戦馬車
「うお!? 荷台がコンパクトになって木製から鉄製になったぞ!」
「いや、まだだ、まだ足りない」
これだけじゃ馬車と変わらない。もっとスタイリッシュでカッコよく、美しいフォルムを想像するんだ。
戦馬車→✕→投石器搭載馬車?
違う、そうじなない。兵器を積んだ馬車じゃないんだ。
戦馬車→✕→戦車?
これも違う。今欲しいのは快適に移動できる手段なんだ。
戦馬車→車?
これだ! よ~し、後は車種を絞りこんでカラーもイメージ通りに……
ジュワン!
「できたぜ!」
「「おおっ!」」
戦馬車→ランドクルーザー
やっぱ砂漠を移動するにはコイツだな。黒塗りで光沢のある輝きは美しいの一言。
「これなら拠点まであっという間だろ」
「っしゃあ! 早く出せよ!」
「シートベルト、シートベルトっと」
ではでは、いざしゅぱ~~~つ!
「…………」
「おいこら百地、さっさと動かせよ!」
「いや、それがな……」
「あ? なんだよ?」
「ガソリンがない……」
「「…………」」
どうすっかなこれ……
キャラクター紹介
宝蔵院優姫
:クラスで1、2を争う程の黒髪をストレートロングにした美少女。成績は常に上位の文武両道にして剣道部の部長も勤めている。異性にはさほど興味はなかったのだが噂好きな清宮の恋愛話を聞き、最近では興味が出てきた模様。
清宮光
:クラスのムードメーカー的な存在で、茶髪をセミロングにした陽キャ美少女。誰にでも明るく接してくるため、男女双方から人気がある。物事をコンビニで例える癖があるのだが、的を得ている例えが少ないのはご愛嬌。
エクレール・帝野
:イギリス人の父と日本人の母を持つハーフの女生徒。口数が少なく物静かな性格で、代弁してくれる清宮の隣にいることが多い。宝蔵院や清宮に勝るとも劣らない美少女で、3人合わせて三大美女と言う者も居るのだとか。