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拠点とテキーラ

「うんめーーーっ! エビと殆ど変わらねぇじゃんコレ!」

「ふむ、見知らぬ地での食か。とても興味深いな」

「も~ぅ、表情固いよ姫ちゃん。こんなに美味しいんだからもっと喜ばなきゃ。コンビニで例えると、お弁当と一緒にスイーツまでレンジに放り込まれたくらいの衝撃だよ?」

「これでビールが有れば最高なんだがな」


 危機が去り、錬成した石造りの簡易拠点で昼飯に食いつく俺たち。食っているのは先ほど倒した巨大サソリで、後藤が持っていたライターをガスバーナーにしてこんがりと焼き上げたってわけ。これであと数日は食料に困らなそうだ。


「課外授業で水筒を持ってきたのが功を奏した形だな」

「はい。会長の日頃の行いが良かったからです。間違いありません」

「フフ、照れるじゃないか薫子くん」

「会長♪」


 こらそこ、只でさえ暑いんだからイチャつくなら他所でやれ。


「ングング……ふぅぃ~、満足満足! でよ、腹ごしらえも済んだことだし、ちょいと探索してみねぇか? 他のクラスメイトも捜さなきゃならねぇしよ」

「うむ、都田くんの言う通りだ。ボクらには人命救助という大変に重要な任務があるからな」


 あの妙な空間で神に言われた事がある。本来俺たちは転移事故でバラバラになるはずだったのを、可能な限り1ヶ所に集めたと。集められなかったクラスメイトは1年間のみ神の加護により不死になること。

 つまり俺たちは、1年を過ぎる前に世界に散らばったクラスメイトを救出しなければならないんだ。


「モモッチ、例のドラ○ンレーダーは今も持っているの?」

「これか?」ゴソゴソ


 懐から取り出したのは神から貰ったクラスメイト探知レーダーだ。これで大体の方角と距離が分かるらしく、7つの反応が画面に表示されている。

 というか清宮、ドラ○ンレーダーと言うのは止しなさい。色々と引っ掛かるから。


「おっしゃ! なら俺がササッと見つけてきてやるぜ! 百地、そのレーダー寄越せ」

「え? まぁいいけど。まさか後藤、1人で行くつもりか?」

「しゃ~ねぇだろ? 現状で戦えるのは俺だけだ。会長の勇者スキルは有効そうだが元が弱くちゃ意味がねぇ。筋トレで鍛えてる間に年が明けちまう」


 そうなんだよなぁ。せめて会長がムキムキマッチョだったら――



~~~~~


「ムン!」


 バシュゥゥゥゥゥゥ!(←服がはち切れる音)


「見たまえ諸君! 今日もボクの身体は美しいぞ~~~ぅ! さぁ、皆で元気よく乾布摩擦だぁ!」


~~~~~



 ――いや、見苦しいから却下だな。


「あ、そうだ! 後藤、今付けてるメリケンサックを貸してくれ」

「バカ。戦うんだからコイツは必要だろ」

「そうじゃないって。ソレを強化錬成できないかと思ってさ」


 後藤のステゴロは強いが、武器を強化すれば更に効率よく戦えるはず。


「錬成!」



(loss)メリケンサック

(new)ナックルガード



「おお? これなら攻撃にも防御にも使えるぞ! サンキュー百地!」

「待てよ後藤、俺のターンは終わっちゃいないぜ――更に錬成!」



(loss)ナックルガード

(new)ミスリルの小手



「すげぇ、さっきよりも豪華な見た目に!」

「まだまだぁ――錬成!」



(loss)ミスリルの小手

(new)武神の小手



「何だこれ!? 身体が熱くなってきやがったぜ!」

「ああ、それはな――」


 武神の小手……戦を司る神たちが愛用していたと言われている伝説の小手。攻撃力もさることながら、身に付けるだけで反射神経と気配察知がアップ。また多数の敵を相手にする際、敵の動きが超絶スローに見えることもある。


「――って感じらしい」

「マジかよ! お前って只の陰キャじゃなかったんだな」

「一言余計!」

「じゃあちょっくら行ってくるぜ!」


 まだ右も左も分からないしな。後藤の活躍に期待しよう。


「ところでジンベ~会長、私たちはどうするの~? ただお留守番してるだけ~?」

「そうだな、我々も近場の探索を――と言いたいところだが……」


 前話でも言ったが(←メタいなおい)、見渡す限り砂漠しか見えないんだ。似たような景色が続いているし、下手に動くと直ぐに迷子になっちまう。

 探索に出ている後藤だけは例のレーダーで俺たちの居場所が分かるって感じだ。


「じゃあやっぱりお留守番? む~ぅ、せっかく魔法で活躍できると思ったのになぁ~。こんなのコンビニで例えると、1000枚以上のプリントがコピーされるのを只待ってるだけのようなもんじゃん」


 1度にそんなにコピーできんの? いや突っ込むところはそこじゃないな。そもそも清宮、それはコンビニじゃなくても同じだ。


「ヒカル、下手に動くのはお薦めしないでス。今は後藤さんの吉報を待ちましょウ」

「う~ん……でもさぁ、やっぱ魔法使いたいじゃん? そうしたらあのサソリにだって対抗出来たと思うんだぁ。エクレアちゃんだって魔法使いたいっしょ?」

「ソれハ……ソうですけれド」


 魔力――つまりMPがなければ魔法は使えない。魔法が存在しない世界にいた俺たちは当然のようにMPを持たないんだ。清宮とエクレールはさぞガッカリしたろうな。


「姫ちゃんもそう思わない? 剣があれば誰か斬ってみたいとか思うっしょ?」

「物騒なことを言うな。それではまるで、剣を握ったら性格が変わるサイコパスみたいではないか」

「え、違うの?」

「違う!」

「ちょいちょい、冗談だからそんなに怒んないでよ。ねぇねぇモモッチ、何か上手いこと錬成できな――ええっ!?」


「ふぃ~、やっと1部屋できたぜ」


 振り向いた清宮が言葉を失う。俺は清宮たちが話し込んでるうちに、石煉瓦(いしれんが)の部屋を完成させていたからだ。

 ソファーとベッドは石造りだが砂が詰まったクッションとシーツを上に被せ、テーブルと窓は強化ガラスを使用している。石の扉が開けにくいのは我慢してほしい。


「すっご~い! これなら砂漠で暮らすのも悪くないかも!」

「うむ、清宮くんの言う通りだ。やるじゃないか百地くん!」

「いや、さすがに居座る気はないぞ? できることならもっと住み心地のいい場所に住みたいし」

「でもすげぇよ親友! もち最初の部屋は俺のだよな!?」

「ん? 決まってないぞ?」



 ヒュ~~~~~~ゥ



 言った瞬間に一迅の風が吹き抜け、クラスメイトたちに戦慄が走る。そう、誰が最初の部屋を使うのか、それを巡って争わねばならないからだ。

 誰かがゴクリと息を飲む。誰が最初に動くのかを注視しているのだ。やがて重苦しい空気の中、1人の生徒が口を開き……」


「姫ちゃん、さっきから何言ってんの?」

「……コホン、只のナレーションだ。演劇の練習にピッタリなのでな」


 そういえば宝蔵院は剣道部と演劇部を兼ねていたな。さすがは文武両道ってやつか。

 よし、今度から宝蔵院に一人称で語ってもらうか。(←ダメです)


「というかな、どうせ人数分作るつもりだし、誰が最初でも構わんって」

「違う、そうじゃない、俺は一番という響きが好きなんだ。だからこの部屋は譲れないんだ!」

「そこまで言うなら仕方ない。みんな、すまんが最初の部屋は京介に譲るよ」

「さっすが親友!」

「でも試作段階だから、後に作った部屋の方が出来が良いだろうけど」

「…………」


 フッ、バカめ。俺が女子から不評を買う行動を取るはずないだろうが。更に言うと、俺の部屋は女子たちの隣に作ろうと思っているんだ。後出しジャンケン最高だな。

 女子たちのリクエストには最大限に応えることで評価はうなぎ登り。さすが百地――略してサスモモが流行り出すに違いない。フッ、全て計算通りだ。


「あ、そうだ! どうせならモモッチには石煉瓦だけ作ってもらって、各自で部屋を作るっていうのはどう?」

「え?」


「うむ、良い考えだと思うぞ清宮。男子と女子の部屋は離さなければならないしな」

「ええ?」


「デしたら私たちの部屋は2階に作るのがベストかと思うでス」

「えええ……」


「あのぅ、わたくし薫子は会長と同じ部屋でも……。ねぇ会長?」

「そ、それは……うむ、1人が不安だと言うのならやむを得な――」

「それって会長がいつも禁止だ~って言ってる不純異性交際にあたるんじゃ~?」

「まさか高浜、自分の部屋で年頃の女子と夜を明かすつもりではないだろうな?」

「ダブルスタンダード、ヨろしくないと思うでス」

「会長! テメェだけ良い思いしようったってそうは行かねぇぞ!?」

「う……す、すまない薫子くん。やはり部屋は別々に……」

「そうですか……」


 みんなに責められ泣く泣く根田椰との同棲を諦める会長。コイツは見た目通りムッツリだからな。しかしある意味共闘できなくもないのが事実。


「京介、それから会長、ちょっと提案があるんだが……」

「何々……おおぅ、それは!」

「よし、その作戦にボクも乗ろう!」


 よし、上手く行ったぜ。

 ん? 何を提案したかって? それは夜になってのお楽しみだ。


「じゃあモモッチ、どんどん素材作ってちゃって~!」

「お、おう、任せとけ!」


【クラスメイト全員の好感度が上昇】



★★★★★



「できた~~~!」

「ハイ、出来ましたでス」


 地平線の向こうで日が沈みかけたところで、ようやく俺たちの拠点が完成した。

 1階は俺たち男4人の部屋と全員が集まれる広々としたリビングに加え、トイレとバスルームまで完備した。残念ながら水を流す手段がないので、実用化するのはまだ先になるが。

 そうそう、実用化と言えば、拠点をぐるっと石の防壁で囲んだ上に内側には堀を作ったんだ、侵入者防止用にな。早くここにも水を流したいものだ。


「そういえば親友、あの焼いたサソリの残りはどこ行ったんだ?」

「それなら地下室だ。地下なら日も当たらないし、食料が長持ちするだろ」


 地下室には食料だけじゃなく、この世界で見つけた珍しい素材を確保するつもりだ。


「は~い次~、次はウッチたちの部屋を特別に紹介するよ~!」

「お、見せてくれんの?」

「特別だからねトダッチ。じゃあ3階へゴ~ゥ!」



「――って、ちょっと待って欲しい。1つ聞いていいかな清宮くん」

「なになに? スリーサイズは教えないよ~?」

「それは残念だ……いやいや、そうではなく、何故に2階を空き部屋にして3階に作ったのだね?」

「ああソレ? ソレは……」


 清宮が答える前に宝蔵院が口を開く。


「貴様ら男子が夜に忍び込んでくる可能性を危惧したからだ」

「「「え……」」」

「どうせ百地が提案したのだろう? 俺ならスキルを使って自由に出入りできるとか言ってな、この犯罪者予備軍め!」


 やべ、昼間2人に提案したのが完全にバレてーら!


「ま、待ってくれ宝蔵院、俺と会長は巻き込まれただけなんだ!」

「と、都田くんの言う通りだ。百地くん、キミはなんてハレンチな奴なのだ!」

「ちょっ、お前ら裏切るなって!」


 ヤバいぞ、このままだと俺の評価が右肩下がりだ。何とか誤魔化さないと……


「……で、どうなんだ百地よ?」

「落ち着け宝蔵院、俺が夜這いなんて誤解もいいところだ。俺がやろうとしたのは、2人だけの空間で色々と真剣に相談できればと思ったからなんだ」

「……ほぅ?」

「同性に話せないことの1つや2つ、誰だって有るだろ? ましてやここは異世界。だからな、異性であり尚且つ信頼できる相手と腰を据えて話したかったんだよ」

「そうだな、場合によっては腰を振ることになるかもだしな」

「そうそう――って、余計なこと言うな京介! ……コホン。とにかくだ、話し合いは大事だと俺は思うんだ」

「…………」


 さぁどうだ? ラノベにありがちな台詞を引っ張り出してきたつもりだが、結果はいかに!?


「なるほど。お前の言うことも一理ある。お互いに不安を解消できるに越したことはないからな」

「そ、そうだろう?」


 いよっしゃあ! ピンチを切り抜けたぜ!


「して百地よ。お前が信頼できると踏んだ相手は誰なんだ?」

「え……」

「今宵は誰の元に行こうと考えていた?」

「そ、それは……」

「……どうなんだ?」ピキピキ


 あれ? これって誘導尋問じゃね? しかも宝蔵院の額に怒りマークが浮かんでるし、やっぱりバレてるやん! これじゃあ俺が狙ってる女子を名言しろって言われてるようなもんじゃねぇか!


「ほら、ハッキリ言え」

「そ、そうだな……」


 マジでヤバい、どうしよう。根田椰はないにしても、清宮や帝野って答えたら宝蔵院に鉄拳制裁されそうだ。

 ああイカン、過呼吸で死にそう!


「ほ、宝蔵院!」

「は!?」

「「「え……」」」


 くそぅ、宝蔵院待ってくれと言おうとしたのに、言葉が続かなかった! しかもこれ、メッチャ勘違いされる展開じゃね!?


「そ、そうか……も、もも、百地は私の元に来ようとしていたのか……な、なるほど……」

「あ、あのぉ……宝蔵院さん? やけに顔が赤いようですけど……」

「いや、なんでもない。なんでもないが、百地よ!」

「はいぃ!」

「その……なんだ……」


 な~んかモジモジしてらしくないな。まさかとは思うが照れてるとか? いや、生真面目な宝蔵院に限ってそれはないか。


「が……がが……」

「がが?」

「が、頑張る……のだぞ?」

「え……そりゃまぁ、うん……」


 いったい何を頑張ればいいんだ? いや怖くて聞けないし、ここは話を合わせておこう。


【宝蔵院以外の好感度が減少し、宝蔵院の好感度が上昇した】


「お~い、帰ったぞ~~~! いやぁ大漁大漁、ほらよっと!」



 ドサドサドサァ!



 帰るなりサボテンの塊を放り投げる後藤。


「後藤くん、無事だったか。しかしこのサボテンは……」

「ああ、東に進んだらコイツらが生えててよ、晩酌には丁度いいだろ?」

「丁度いいだろって……キミィ、クラスメイトの捜索はどうなったんだね?」



「さぁ?」

「「「…………」」」



 この日の収穫。


 サボテンによる大量のテキーラ。


キャラクター紹介


高浜甚平たかはまじんべい

:ムッツリスケベをひた隠しにしている生徒会長。副会長の根田椰から好意を寄せられているのを知っているが、あくまでも紳士を装っている。バレるのは時間の問題かもしれない。

 所持スキルの勇者ロードは戦闘時に自身の能力を3倍にする。


根田椰薫子ねだやしかおるこ

:生徒会副会長。三つ編みにメガネという真面目そうな外見通り、遅刻や提出物の遅れは皆無な女子。しかし会長の高浜甚平が絡むと一変、彼の敵はわたくしの敵とばかりに根絶やしにかかる。そんな彼女が想いを寄せる会長と結ばれる日が来るかは不明。

 所持スキルのアーチャーは弓の扱いをプロ級にする。


後藤拳悟ごとうけんご

:クラス唯一のヤンキーで喧嘩最強。口よりも拳で語るのを得意としている。だが根はいい奴で、クラスメイトのピンチに自分が前に出るような性格。

 所持スキルのステゴロは素手での戦闘能力を大幅に上昇させる。


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