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ある日の転移

「「「砂漠だーーーっ!」」」


 そう、周囲は見渡す限りの砂漠、これ以上ないくらいに砂漠一色で、俺こと百地湖太郎(ももちこたろう)を含むクラスメイトたちは砂漠のど真ん中で孤立していた。


 なぜ孤立しているかって? 大変良い質問だ。話せば長くなるんだが、ズバリ俺たちは異世界に転移してしまったのだ!(←滅茶苦茶短くね?)


 だがいつまでも立ち尽くしちゃいられない。転移する前の妙な空間にいた神様とやらに言われたんだが、この世界は魔法ありの魔物ありの噂に名高い冒険者ギルドもありという三拍子揃ったファンタジーな世界なんだとか。周囲の安全を確保して、生活基盤を安定させるのは基本中の基本。俺たちの異世界ライフが今、幕を開けようとしている!




「――で、これからどうすんだよ……」


 照りつける日差しを片手で遮りながら、親友の都田京介(とだきょうすけ)がポツリと漏らす。陽キャなコイツもこの状況は楽観視出来ないらしい。


「なんて~か、今ってコンビニで例えると、突然地方に移転しちゃったみたいな~? これって右も左も分からなくて大ピンチってやつじゃん? 困っちゃうよね~!」


 全然困ってなさそうな陽キャ美人の清宮光(きよみやひかる)があっけらかんと笑う。クラスではムードメーカー的な存在で、こんな時でも明るさを絶やさないのはありがたい。ちなみに清宮よ、その例えはコンビニじゃなくても当てはまるぞ……。


「落ち着くんだ諸君! こんな時こそ一致団結し、冷静な対行動が必要とされるのだ。あの妙な空間で神様は言った、ボクらに1つずつ特別なスキルを与えると。物は試しだ、さっそくスキルを使おうじゃないか。ちなみにボクのスキルは勇者(ロード)で、敵が現れると全能力が跳ね上がるらしい。戦闘なら任せたまえ!」

「会長~! とっても素晴らしいスキルです! 幸いわたくし薫子はアーチャーという後方支援型のスキルですので、これで会長のハートを――じゃなかった、援護をさせていただいますね!」


 もっともらしい事を言っているのは生徒会会長の高浜甚平(たかはまじんべい)。よくあるメガネクィ――を素でやってるので、シチュエーションによってはムカつくこともしばしば。

 そんな会長を潤んだ瞳で見惚れているのは副会長の根田椰薫子(ねだやしかおるこ)。会長の高浜が好き過ぎて、奴との恋路を邪魔する奴は皆○しにしそうな雰囲気を漂わせているが、誰も邪魔をする気はない。


「でもよ、根田椰のスキルじゃ弓がなけりゃ意味なくね?」

「はぁん? さては都田、わたくしにケチつけて恋路を邪魔する気ですね? そうなんですね!? そう言う貴方は何ができると言うのです!?」

「フッ、聞いて驚け。この都田京介、スナイパーのスキルを身につけたらしいんだ。拳銃の扱いなら任せろ!」

「なるほど、じゃあ現状は都田ッチと薫子(ルコ)ちゃんは役立たずって事だね!」

「「…………」」ズ~~~ン


 京介と根田椰の争いに清宮が終止符を打った。いや、打ったと言うよりトドメを刺したと言った方が正しいか。


「……コホン、彼らの装備は追々考えるとしてだ。清宮くんはどんなスキルかね?」

「あ、ウッチの番? ウッチのスキルは火属性の魔法適性みたい。火属性なら何でも御座れ~って感じかな? 以上で~す!」


 会長に促される形で公開した清宮は火魔法を扱えるらしい。明るい性格の清宮には大変シックリくるな。


「次は姫ちゃんね~」

「私か? 私のスキルは剣聖(けんせい)だ。剣を握るとズバ抜けた剣技を披露することができるようだな」


 清宮の次に公表したのは大和撫子な雰囲気の宝蔵院優姫(ほうぞういんゆうき)。頭脳明晰で運動神経抜群。おまけに剣道部部長という正に文武両道の完璧美女だ。

 自分にも他人にも厳しい性格で、曲がった事が大嫌い。そんな彼女は意外にもお笑い好きで、授業中に何度か思い出し笑いをやっちゃってるという。

 うん、突然笑い出すから別の意味で怖かったりするな。


「なるほど~。じゃあ剣がない姫ちゃんも役立た――」

「私のことはもういい、次に行ってくれ!」

「オケオケ。次、エクレアちゃん!」

「ア~、ワタシのスキルですネ。役に立つのか不安ですけド、風の魔法に適性があるようですネ」


 片言の日本語とボディランゲージで教えてくれたのは、イギリス人ハーフのエクレール・帝野(みかどの)。清宮や宝蔵院に負けないくらいの金髪美女だ。

 そんな彼女のスキルは風魔法。清宮に続いて2人目の魔法適性者だな。


「エクレアちゃんエクレアちゃん、風使えるなら微風吹かせて~。こんなジリジリした天気だし、涼しくなりたいな~なんて」

「ア~、ソレは無理ですよヒカル。ワタシたちみたいな魔法の適性者ハ、マジックポイント――通称MPと呼ばれている魔力が必要なのデス」

「そうなの!? ――あ、ホントだ、火をイメージしたけど出ないや」


 これは思わぬ欠点だな。完全物理法則の世界から来た俺たちはMPとは無縁。何らかの方法で補う必要がある。


「おいコラ清宮、お前も役立たずじゃねぇか!」

「右に同じです!」

「え~ん、姫ちゃ~ん。都田とルコちゃんがいじめるよ~ぅ!」

「自業自得だ。反省しろ清宮」

「ガ~ン!?」


 ガ~ンって口で言ってるあたり、まったく反省してなさそうだな。まぁ可愛いから許すぞ俺は。(←その考えは改めた方がいい)


「……ったくうっせ~なぁ。せっかく気持ちよく寝てたってのに、ギャアギャア騒ぐんじゃねぇよ、ふぁ~ぁ!」


 呑気にアクビをしつつ立ち上がったのはクラスで唯一のヤンキー、後藤拳悟(ごとうけんご)

 口と同時に手が出る奴で、京介や会長とたびたび衝突している。それでもクラスメイト思いで根は良い奴だ。


「後藤くん! キミという奴はこんな時にまで昼寝とは!」

「こっちは今日の飯すらままならねぇってのに呑気にしてんじゃねぇ!」

「んだようっせ~なぁ……。こっちは寝起きなんだよ、デカイ声で捲し立て――んあ?」


 砂嵐が収まったところで後藤が何かに気付く。すると次第に目をパチクリさせ、震える手で俺たちの背後を指した。


「お、おま、おま、おまんん……」

「ご、後藤くん! キミという奴はこんな時になんて卑猥な言葉を!」(←どう考えてもお前の思考が卑猥)

「ちげぇよ、後ろを見ろお前ら! バケモノがこっちを見てやがんだ!」

「「「は?」」」


 切羽詰まった後藤の言動に触発され俺たちも振り向く。そこ居たのは鈍器のようなデカいハサミを両サイドに抱えた巨大サソリだった。



「キシャーーーッ!」



 うぉう!? もしかしなくても大変ご立腹でいらっしゃる? まるで昼寝の邪魔をされた後藤みたいな反応だ。


「分かったぞ、ボクらの声に気付いて砂の中から出てきたに違いない!」

「さすが会長! わたくし薫子も同じ考えです!」

「ありがとう薫子くん! では諸君、我々のスキルであのサソリを倒すんだ!」




「「「どうやって?」」」

「……え?」

「すみません会長、わたくし薫子は弓がなければ使えない子のようでして……」

「あ……」

「俺は銃がないとな」

「う……」

「剣のない私もお払い箱だ」

「お……」

「ウッチとエクレアちゃんはMPが有りませ~ん。という訳で会長――」




「――ガンバ!o(^o^)o」

「ほげぇ!?」


 前に出される会長。いくら戦闘能力が3倍に成るとは言え、元が弱いと……


「な、ならばボクが相手になろう。食らえ、正義の鉄拳!」



 ガン!



「ぐぉぉぉぉぉぉ!? 痛いぞぉぉぉぉぉぉ!」

「シャッシャッシャッ!」


 言わんこっちゃない。勇敢にもサソリに殴りかかるも奴の甲殻は硬く、会長のヘナチョコな拳は簡単に弾かれてしまった。気のせいか敵のサソリに笑われてる気もする。


「ハッ、退いてろ会長。素手のやり合いなら俺に任せな。何せ俺のスキルは熱き拳と唸る脚(ステゴロ)なんでな、コイツでブチのめしてやらぁ!」



 ドガァ!



「キ、キシャァァァ!?」


 振りかぶった後藤の拳がクリーンヒットし、ハサミの1つを弾き飛ばした。


「しゃあ! どうだバケモノ、もう1つのハサミもブッ壊してやんよ!」

「キシャア!」


 しかし喜んでいられたのも束の間。真向勝負では分が悪いと悟ったサソリは、尻尾の針を振り上げてきた。


「よ、避けるんだ後藤くん!」

「おおっと!」



 ドスッ!



 後藤が立っていた位置にサソリの針がブッ刺さる。避けられたからいいものの、毒にでも掛かったら助かる見込みはない。


「くぅ、歯痒い! 何とか後藤くんを援護できないものか……」

「そうだ親友、お前のスキルは何だ?」

「いや、俺のスキルは強化錬成っていう錬成術だ。残念ながら戦闘には――」

「そんなことを気にしてる場合かね! 後藤くんの命の灯火が今にも消えようとしているんだぞ!?(←お前より長生きしそうだがな) 仲間を助けずして何がクラスメイトか!」

「わ、分かったよ」

 

 会長の言う通りだと思った俺は、無我夢中で近くにあるものを手に取った。そうする事で錬成可能なものが脳裏にリストアップされるんだ。


 砂→砂岩、硝子、砂利

 

 砂じゃダメだ、もっと……もっと有効なものを……


 鞄→テント、マジックバック、結界石




 んん? 結界石だって? 詳細プリーズ!


 結界石……小範囲な結界を張り、敵と認識した相手の攻撃を一切受けなくする。効果は24時間。


「これだぁ!」


 俺は自分の鞄を素材にし、リストに有った結界石を即時に錬成した。


「親友、そんな石っころでどうすんだ!?」

「大丈夫、俺に名案がある」


 出来立てホヤホヤの結界石を手に前へ出る。これを発動している間に撃退方法を模索する――つもりだったのだが、京介が余計なことを漏らした。


「下がれ後藤! 親友が何とかしてくれるってよ!」

「おう、後は任せた!」

「おう、任された――」




「――って……え? どゆこと?」


 1人だけ巨大サソリの前に取り残される俺。


「いやいや待て待て、なんか想像してたんと違うから!」

「怖じ気付くなよ親友!」

「この(いくさ)、キミにかかっている!」

「気合い入れてけや!」


 くそぅ、予定では俺を中心に結界を発動して皆の安全を確保、「さすが百地」って誉め称えられているところだったんだ。それが何故にこんなことに!


「ももッチ頑張~! ウッチは信じてるよ~!」

「百地くン、頑張って下さ~イ!」

「男に頼るのは(しゃく)だが、この場は致し方ない。頼むぞ百地」

「会長の次くらいには期待しておきます」

 

 よ~し、予定通りだ。女子からの評価は上々。後は結果を残すだけ!(←チョロいやっちゃなぁ)


「キシャァァァ!」



「うひぃ!? やっぱ怖ぇぇぇ! こっち来んなバケモン!」



 ポイッ!



 この時投げたのは結界石。そう、俺の切り札だ。落ち着いて手元で発動させれば良かったんだが、バケモノの圧に負けてつい投げつけちまった。そして結界石は運悪くサソリの口へと入っていき……



 パクッ!



「食われた!?」


 何てこったい! これじゃ何にも出来やしねぇ……。


「今だ親友! あのサソリは予定通りに吸い込んだぜ!」

「さぁ百地くん、トドメを刺すんだ!」

「やっちまえぇぇぇ!」


 クソクソクソッ! 予定通りじゃねぇっつ~の! だが今さらミスったと言える雰囲気でもねぇ! こうなりゃヤケだ!


「結界発動!」



 ドッパァァァァァァン!



 俺が叫んだ瞬間、サソリの体内から結界が発動し、サソリは木端微塵(こっぱみじん)に弾け飛んだ。


キャラクター紹介


百地湖太郎ももちこたろう

:本作の主人公。都田京介とは地元が同じことから親友となった。大人しく真面目な印象を持たれがちだが、如何にして授業を効率よくサボるかを常に模索している。

 クラス転移時に授かったスキルは唯一の非戦闘スキルである強化錬成だったが、逆に自分にしか出来ないことが多くあることから女子の人気を一人占めしようと画策中。

「来たぜ、俺の時代が!」


都田京介とだきょうすけ

:主人公の百地を親友と呼んでいるクラスメイト。容姿はソコソコだがチャラい性格から女子からの人気は低いという可哀想な男。

 授かったスキルはスナイパーで、主人公が銃を錬成できれば彼が日の目を見る日も近いかもしれない。

「俺のサイドワインダーを受けてみな!」


シェルタースコーピオン

:砂漠に住む巨大サソリ。普段は砂の中で身を丸めているが、獲物を感知すると砂の中から姿を現し捕食しようとする。

「弾ける青春!」ドッパァァァァァァン!


ベストコンビネーション

:湖太郎と京介がパーティ内にいるとステータスが上昇する。羽目を外し過ぎないよう注意。









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