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2−2 恋愛マスターズ

七年付き合った恋人に振られた腹立ち紛れに、お祭りに出かけたら、当然のように周りはカップルだらけだった。例祭としての意味を知らなそうな、祭りを楽しみたいだけのカップルを見てたら余計に腹が立ってきた。それで神社でお賽銭を投げて思わず不届き者な願い事をしてしまった。


本当なら、商売繁盛を祈願するお祭りなんだけど、ご利益がよく分からないとか、何でも叶えてくれるとか言われてる月読命様なら商売以外の事でも聞いてくれそうな気がしたから、私を振ったアイツに罰が当たりますようにってお願いをしてみた。


ハッキリ覚えてるのはそこまで。『どうしたもんかなぁ』って声が聞こえたと思ったらなんか現実感がなくなって、気がついたら五千円も出して執事喫茶なんて所でアフタヌーンティーセットを楽しんでた。いや、お嬢様ごっこをしていたという方が正確かもしれない。


次の日から一週間、あの店を探して難波から今宮戎辺りを散歩しまくったけど、見つからなかった。

お財布から五千円は確実に減っていたし、小銭入れに薄黄色の小石が入ってたから現実だったとは思うけど、スマホにあの見事なディッシュスタンドの写真もかわいいウサギの写真も入っていなかった。おかげで、私はあの日の記憶に自信が持てない。


そして、時々アイツの事を思い出しては無性に腹が立ったりしている。友達からは早く忘れて次を探せと言われて余計に腹が立つ。友達なんて所詮は他人。私の気持ちなんて判らないだろう。


『お嬢様の気持ちを良く解ってくれる神様の居る神社が宇治にありますよ』


ふいにあの執事風店員さんの声が聞こえた気がして、電車に乗った。面倒な乗り換えをして宇治に着いたのは昼前だった。気軽に宇治って言われたけど、めっちゃ遠いやん!


JR宇治駅の前は整備されてて、分かりやすくて、キレイで、観光地らしい雰囲気があった。駅を出てすぐに不思議な造形物があると思ったら、茶壺型ポストって書いてあった。そう言えば宇治といえば宇治茶だなぁ。そう思ってぐるりと見舞わせば木造風だけど新しくてキレイな観光案内所が目に入った。


宇治に来てみたけれど、私は目的の神社の名前を知らない。折角だしきれいな観光案内所で聞いてみよう。観光案内所に入ると香ばしくて落ち着く香りがした。ほうじ茶っぽい香り。


沢山並んでいるパンフレットは英語や中国語に対応したものが並んでいる。いくつか日本語の物をパラパラと見たけど、目的の神社は判らなかった。


「すみません、失恋の神社ってご存知ですか?」


一人しかいない職員さんの手が空くのを待って、尋ねてみた。


「失恋の神様?橋姫様の事ですか?本当は橋の守り神様なんですけど、色んな伝承が混ざって、縁切りとか、恋愛成就とか言う人も居ますし、物騒な所では呪いの神様なんて言う人もいますね」


縁切りで呪いなら、今の私にぴったりだ。そこへの行き方を聞いたら歩いて十分くらいらしい。大通り沿いでも旧道からでも行けると聞いて、観光がてらに旧道を歩くことにした。

古い町並みを見るのは好きだし、そういう所を歩くだけでリフレッシュできる。


宇治の旧街道は、何と言うか古くて新しい不思議な道だった。『代官所跡』と札の立ってる建物は銀行として現在も活用されてるけど、銀行名が金属で壁に張り付いているのが古くて新しい。

民家の外壁に沢山の信楽焼が並んでいて信楽焼の由来説明があるんだけど、多分あの狸たちは新しそうなんだよなぁ。

昭和チックな床屋さんとか、博物館みたいになってるお茶蔵とか、興味の赴くままに歩いてたら気付けば一時間経っていた。


旧街道が大通りと交わる交差点に大きな赤い鳥居があって、地図ではその鳥居の向こう側に橋姫神社はあるから、さぞ大きな神社かと期待したけれど、あの大鳥居はその向こうにある別の神社の物らしい。


「ここかぁ」


道沿いの小さな木製の鳥居。民家の玄関と間違えそうな佇まいの小さな神社に、私の気持ちを解ってくれる神様は祀られているらしい。小銭入れから薄黄色の小石を出して握りしめ、それと別にお札を一枚。準備を整えたら一礼して鳥居を潜った。


鳥居を入ってすぐにある新しそうな立て看板を見ると源氏物語の橋姫の章の解説で、その奥に二つの祠がある。お賽銭箱も其々に置いてあってどっちにこの小石をいれるべきかと悩んだ。悩んで、右のお賽銭箱にお札を左のお賽銭箱に小石を入れて、右の祠の鈴御をガランガランと揺らした。パンッパンッと柏手を鳴らして目を閉じて頭を下げ、自己紹介をした所で言葉に詰まった。

私は何をお願いしに来たんだっけ?


何も言えないまま顔を上げると眼の前に長い髪で顔を隠して、頭に三本蝋燭を立てた女の人が立っていた。周りは有ったはずの鈴緒やお賽銭箱や祠がどこにも見当たらない、真っ白な世界になっている。この前の比じゃないレベルの不思議現象に驚いていると、女の人が一歩近寄ってきた。


「相談相手ハ、ワタシでヨイ?」


「えっ?」


ひび割れた声で喋りにくそうに発された言葉の意味を理解するのには少しの間が空いた。私が戸惑っていると、首を傾げたらしくふわっと長い髪が揺れた。長い髪で顔が隠されていて、ボロボロの白装束で、頭に蝋燭を立てているなんて完全にホラーなのに、なんか怖くない。すっと目の前に藁人形を差し出されるけど、やっぱり怖さはなくて、全く呪いが効かなさそう。ただ気持ちは解って貰えそうな気はする。この人が、あの執事さんが言ってた神様?


いやいやいやいや、神様が視える訳無いし!どうしたものか。


「其方に任せられるわけないでしょう?」


「そんな事言ってる貴方も無理だと思うけれど」


「折角私の名前を呼んでくれたけど、アタシは役に立てなさそうねぇ」


「私は失敗はしてないから、私の助言が良いんじゃないかしら?」


「「「「それだけはない!」」」」


気がつけば、私の周りは五人の女の人が取り囲んでいた。皆和装だけど、少しずつ雰囲気が違う。最初の人はボロボロ過ぎて時代の推測もできないけど、二人は平安時代っぽくて、一人はすごく古代っぽい。それで全員から突っ込まれた人は割と時代が近い、江戸町人風。


私は状況が判らなすぎて何も言えないけど、周りでは五人の女性が賑やかにお喋りを続けている。あっ、古代っぽい衣装を着ている人は喋ってなかった。目が合うとニコリと笑ってくれる。


「あなた達、いい加減にしないと、レオナさんが困ってらっしゃいますよ」


古代風の衣装を着た橋姫様の一言で他の四人はピタリと言葉と動きを止めた。ずっと俯いていた、眼の前の髪で顔を隠した女性はピクリと怯えたように肩を揺らした。よく分からないけど、橋姫様は五人いて、その中で一番強いのは古代風の衣装を着た神様って事かな。衣装的にも一番古い神様なのかもしれない。


「古い、とは酷い言い草ですが、間違ってはいませんからねぇ。それに『橋姫』と呼ばれる存在は五人だけではないですよ」


あれ?私、考えてることが声に出てたかしら?


「龍神様ハ心、読メル」


「龍神様?橋姫様ではなくて?」


「ねぇ、自己紹介も説明も、この子の悩みを聞くのも、ゆったり寛いだ場所が良いのではない?せっかくツクヨミからのお小遣いも貰ったし、女子会?でもしない?人の世界で」


江戸時代の町娘風な橋姫様が薄黄色の小石を親指と人差指で摘んでニヤリと笑うと、古代風の衣装を着た橋姫様がため息をついた。黄色の小石を取り上げて、何かを呟いて、小石に息を吹きかけた瞬間、辺りが水に覆われて、溺れると思った瞬間には辺りが神社の景色に戻っていた。


「ダイジョウブ?」


私の手を握って首を傾げる赤ら顔の女性が白装束の橋姫様だと直感的に判った。着ているのは地雷系と呼ばれる洋服だけど。ワインレッドのオフショルトップスにボリュームのある黒のミニスカート。ゴツ目のブーツと厳ついチョーカー。王道の地雷系だ。闇かわいい。


けど、やっと見えた顔は自信なさげで、頼りなさそうで、守ってあげたくなる感じ。あと、なんだかとっても私の心のモヤモヤを分かってくれそう。


「ありがとうございます。なんて呼んだらよいですか?私の相談に乗ってくれるんですよね?」


「えっ?あっ?ワタシ?相談役?名前は、スエコ」


スエコと名乗った瞬間、「ハッ」と息を飲む気配がして周りを見ると、他の四人の橋姫様たちもそれぞれに雰囲気の違う洋服を着て私を取り囲んでいた。


「ふふっ。これは面白い事になったわね。時間は有限ですし、女子会しに行きましょう」


綺麗めファッション、淡いベージュのハーフコートを着て上品に笑ったのはきっと古くて偉い橋姫様、スエコさんの事を信じるなら龍神様なのだろう。整った顔立ちにハッキリ系のメイク。仕事のできる女風というか、頼れる上司の様な見た目。私も含めた五人がつい「はい」と返事をしたのも仕方ない事だと思う。


連れ立って神社を出たのだけれど、地雷系ファッションのスエコさんは私の左手を握って離さなかった。

大きな赤い鳥居を通り過ぎて右へ行くと宇治川が流れている。そこに架かる大きな橋が宇治橋でそのすぐ傍に紫式部が石像として座っている。


「わたくしの自己紹介をしておきますね」


ゆったりとしたラベンダー色のニットに柔らかそうな黒のロングスカート、丸い黒縁メガネをかけた人は宇治川の上流の山を見つめながら『宇治の大君』と名乗った。


「今風に言えば、両片思いのまま死んだってやつね」と笑う表情があっさりとしすぎていて理解に困った。私の表情を見た宇治の大君は紫式部の石像を見上げた。


「実際の事は分からないわ。私はこの人が作り出した存在で、そこに思いを重ねた様々な女性の怨によって生まれたの。自分の事なのによく分からない存在なんだけど、あの山の麓辺りが私の最期だと思う。あの山を見ると心が温かくなるから。優しい愛情で最期に寄り添ってくれる人が居る、というのはとても幸せな事だと思うわ」


そう言うと私の右手を取ってニコリと微笑んだ。


『急ぐ必要ないわ。其方の最期はまだ何十年も先なのだから』


頭の中に直に囁かれたのはただの言葉ではないらしい。ふっと体から力が抜けた気がする。毒気というか緊張が解けたような感じ。私の中には七年を無駄にしたという焦りの気持ちがあったのか。浮気への怒りとか振られた悲しみだけじゃなかったのか。


「ねぇ、今の人は宇治と言えばお抹茶と思ってるらしいけど、煎茶も美味しいのよ」


私の右手を離した宇治の大君は一層楽しそうに宣言して歩き出した。左手は地雷系のスエコさんに握られたまま、付いていけば、私の後ろから三人の橋姫様もついてきた。


宇治橋を渡りきってすぐの道を右に曲がりまっすぐ歩いて、二手に分かれる所も迷いなく右の道へと進んでいく。私達が付いてきているか振り向きもしない宇治の大君からは、不思議な鼻歌が聞こえてくる。


右手にお屋敷と呼びたくなる日本家屋が見えたと思ったら、立派な門が有ってお茶の淹れ方を学べる観光施設らしい。迷いなく足を進める宇治の大君を龍神様が呼び止めた。それから私をじっと見つめる。


「なんでしょう?」


「申し訳ないんだけど、私達人の世のお金を持ってないの。お賽銭箱に貴方が入れたお金はお財布に戻してあるから、その……」


あんなに、頼りがいのありそうだった龍神様が眉を下げて小さな声で話すのがおかしくて、思わず笑ってしまった。ちょっと高級そうな場所だけど、本物の神様へのお賽銭だと思えば安いもの。もちろん今日の支払いは全て私持ちで良いと頷いた。


中に入れば机と椅子が並んでいて、そのうちの一つの机に案内された。他の机には外国人観光客が席に着いている。メニューの説明を聞く間もなく、宇治の大君が全員煎茶をと頼んだ。


目を丸めているのはどちらの橋姫様だろう?深緑色のコーデュロイのパンツに黒いレザーのジャケットというおしゃれ上級者な装いをしている。斜め前に座る彼女をじっと見ていたら視線に気付いたらしく、私の方を向いた。


「アタシの事はわかめって呼んでちょうだい。アタシの話もしたいけど、折角の美味しいお煎茶は楽しまなきゃ勿体ないよ」


パチリとウィンクを投げかけられた所で、全員の準備が整った。係の人の説明を聞きながら、急須にお湯を注ぎ、蒸らし、湯呑みに淹れて飲んでいく。歴史の中で洗練された淹れ方で飲むお茶は、普段自分が適当に淹れるお茶ともペットボトルのお茶とも全く違う味わいで驚いた。


昔はこんなに淹れ方が洗練されていなかったのか、それとも茶葉の製法が違ったのか、龍神様が一番味わいの違いに驚いていたのが面白かった。


「少しは観光もしよう?」


お茶の館を出ると細面で糸目の人が私の右手を取って歩き出した。白いもこもこのニットにチェックのティアードスカートが可愛らしい。けど、顔立ち的にはワカメさんみたいなカッコイイ系の洋服が似合いそうな気がする。


「私はキク。存在としては大君と似たような物だよ。とある書物に描かれた妖怪ってやつだね」


明るいトーンで自己紹介をしてくれるけれど、目つきは鋭くて周りの人を睨みつけている。妖怪って事はやっぱり人が嫌いで、祟とかを起こすのだろうか。


「所で、レオナを振ったのはどんな男だったの?男前だった?背が高い?喧嘩が強い?思い出話でも聞かせてよ」


「顔は普通で、背は私と同じくらい。喧嘩は強くないと思う。っていうか喧嘩からは静かに遠ざかるタイプね。事なかれ主義っていうか」


「思ってる事も言わないタイプ?」


ワカメさんも面白がる様な表情で口を挟んできた。そう言えば、私もアイツと喧嘩したことなかった気がする。あれは気が合っていたのではなくて、アイツが我慢してたってこと?


「どうやって出会ったの?わたくしの時代とは違うのでしょう?」


大君の言葉に思わず笑ってしまった。覗き見で一目惚れなんて、きっと平安時代でも特殊なんじゃないかと思う。私はありきたりな合コンでの出会いだったけど、この面々に解るだろうか?


「合コンだったんだけど、わかる?」


「歌会のようなものね。キクの時代で言うとなにかしら?」


「私は大丈夫。適度に覗き見してるから、合コンで理解できるよ」


そうやってお喋りをしている間に平等院の表門まで来ていた。キクがにっこり笑いかけて、龍神様がまた眉を下げる。六人分でも五千円もかからないから気にしないでほしい。さっきのお茶体験の方が高かった。


朱色の立派な門を潜って、庭園を散策しながらもさっきの話は続く。出会ってから付き合うまで半年くらいは仕事終わりにご飯に行くだけの関係だったと言ったら、ワカメさんに驚かれた。付き合ってからはだいたい私の家で過ごしていたと言えばキクさんが呆れた様な顔をして、合うのは二週に一回くらいと言えばスエコさんにため息を吐かれた。


「それで、レオナはその男の事好きだったの?私はねこの通りブス過ぎて誰とも付き合えず、結婚もできなかった事で周囲の幸せな家庭や恋仲の者を妬み羨んだ妖怪なんだ。でも、人を好きになった事はあるよ。恋仲になっても、愛おしいって感情を知らないのは勿体ないと思うんだ」


平等院を正面から眺めながらキクさんは静かに語った。風が吹いて池に映る朱色の建物が揺れる。自分がアイツを好きだったかという気持ちも、改めて問われれば確実ではなかった。


言葉を出せない私の右手をギュッと握ってキクさんは鋭い視線を向ける。


『真剣に愛していないのに、呪いたいなんて自分勝手じゃない』


頭に言葉が流れてくると同時に刺される様な痛みを胸に感じた。けれど痛みは一瞬で、気が付くとキクさんの姿が消えてる。


「あの子は帰しました。レオナさん体は大丈夫ですか?あぁ、スエコが守ったのですか」


龍神様が私とスエコさんを見比べて安堵の表情を浮かべた。スエコさんは小さく頷いたけど、一体何があったんだろう?


宇治橋の方へと戻りながら龍神様が説明してくれた所によると、キクさんは私に妖術を使ったらしい。普段は不誠実な恋愛をする者に対して使っている物だと言われて、納得する自分がいた。好きだったかと聞かれて答えられないのに呪いたいなんて不誠実と言われても仕方ない。


「キクさんに感謝を伝えてください。あと、ごめんなさいと」


龍神様は驚いた様な顔をしつつも頷いてくれた。そうして話しているうちに大通り、宇治橋まで戻ってきた。今、先頭を歩いているのはワカメさんだ。宇治橋の下流側へと渡り、下流の方をじっと眺めている。車通りと川の流れという質の違うゴオゴオという音が私達を取り巻いている。ワカメさんの寂しそうな表情を午後の日差しが照らす。


「ねぇ、お腹空かない?この先に有名なお店が有るらしいんだ」


川面から視線を上げて私の顔を覗き込みながら、左手を上げた。指された方の道は緩やかな登り坂になっている様に見える。この近くじゃダメなのかな。


「有名なお店って?何屋さん?」


「カフェ?っていうの?甘味も定食もあるらしいよ」


可愛らしい笑顔を向けられて、私が折れた。緩やかな登り坂だと思ったら、進むにつれて傾斜がきつくなっていく。やっぱり、あの辺りのカフェを提案しとけば良かったと思った頃、ワカメさんの目的のお店に着いた。有名なお茶専門のカフェだ。お土産屋さんが併設されてる、京都市内にもある有名お茶処。


皆がそれぞれにお蕎麦のセットを注文した。皆洋服の系統も違う通り食の好みも違うらしくて誰一人メニューが被らなかった。


「オイシイ」


湯葉蕎麦を食べながらスエコさんが呟いて、皆が頷いた。もちろん私も、セットについているお茶っ葉の佃煮は、初めて食べたけど不思議な感じ。佃煮にしては優しい味というか、お土産に買って帰ろうかな。


「アタシとスエコの事はどれくらい知ってる?」


お蕎麦を食べ終わって、ミニパフェに手をつけ始めた所で、ワカメさんが話しだした。向かいの大君さんと龍神様は表情を変えずにパフェを口に運んでいる。


「ごめんなさい。実は橋姫様という存在をよく知らずに来たの」


ワタシが答えると右手をワカメさん、左手をスエコさんに握られた。両隣からじっと見つめられる。


「ワタシ、呪いノカミ。宇治川で鬼二ナッタ。沢山ヒト殺シタ」


「アタシはそこまで苛烈になれなかったけど、死んでも死にきれなかったせいで、人に恐怖を与えたって所ね。他の女の家に行った夫を呪ったのがスエコ、帰ってこない夫を泣きながら待ってる間に死んだのがアタシ」


「鬼二成ル時、人の魂ナクシタ。親モ夫モ憎イ女モ皆忘レタ。人ヲ殺ス事ダケでイッパイ」


「アタシも似たようなものだね。夫の事を待ってた筈なのに、夫の名前も顔も声も忘れて、帰ってきてって気持ちだけになってた」


交互に喋る二人が一層強くワタシの手を握る。


『自分を失う様な真似しないで』


二人の声が重なって聞こえたと思ったら、頭がスッキリして、自然と婚活パーティーに行こうって気持ちが沸いてきた。アイツの事なんてどうでも良くて、ちゃんと好きになれてお互いを大切にできる結婚相手を探すんだ。


「さぁ、食べ終わったし帰りましょうか」


龍神様の声で顔を上げると私は橋姫神社に立っていた。橋姫さま、相談に乗ってくれてありがとう。

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