始まりの軌跡
思い立ったが吉日!とばかりに投稿しました。
何分、初めてのことなので少々心配ですがどうぞよろしくお願い致します。
初めまして。
私は、いや、違うな。どうもしっくりこない。
僕、俺、吾輩、拙者、______もう埒が明かないので我でいいや。
我の名は『夢幻道化師』。一応、あの有名な【仮面享楽】の幹部をしている。
是非、ジェスタと呼んでくれたまえ。
え、そんなの知らない?…って、我のこと知らないの!?
そ、そんな…。我、そこそこ有名なはずなんだけどなぁ。
しかも、【仮面享楽】まで知らないなんて…。
自信なくすわぁ。
ほ、ほんとに知らない?
我、一応この世界のお伽噺に登場するんやで。
「悲嘆の泉」に出てくる悪役『夢幻道化師』って言ったら世界で一番有名な悪役の名前や。
此の世界の人間はな、幼い頃からこのお話をずっと聞かされて育つんやで。
悪いことしたら、『夢幻道化師』に魂を食べられるっていう脅し付きでな。
どや、少しは思い出してきたかいな?
……あ、え、こ、これも知らない?
あんさん、あんた一体どっから来たんですかい?
ヴォスヌール大陸?
ムルメリア大陸?
サウシード大陸?
…それともまさか無大陸?
え、どれでもない?
あ、よ、良かったぁ。これでもし「無大陸」って答えられてたらあんさんのこと消さなきゃ行けなかったんですもん。
それで結局、どこから来たんさかい?
なになに、……「地球」、ですかい?
面妖なお方やな、あんさんは。
それは多分、迷い人っちゅー名前の種族やな。
結構珍しいんやで。
我もまだ4人しか見たことないんや、あんさんで5人目や。
どうりで、我のことも知らなかったみたいやな。
まぁ、あんさんとここで出会ったのも何かの縁や。我が此の世界について紹介したるわ。
此の世界の名前は特にないから好きに呼んだらええで。
まあ、多くはハウリア、とかメアシアとか言われてるんやけど、それってどうしてもそれぞれの崇める宗教の神がちゃうから全世界共通の呼び方はないんや。国単位で変わるから、あんま気にせんほうがええ。
で、この世界には4つの大陸があってな。今我とあんさんがいる此処はヴォスヌール大陸や。
もっと詳しく言うんならヴォヌール大陸【シヴァ大高原】ちゅうところやな。
ヴォヌール大陸の人外魔境って言うたらいちばん危険な場所なんやで。
え、なんでそんな場所にいるのかって?
あんさんは「地球」っちゅー所から飛ばされて、それが偶々【シヴァ大高原】だっただけやよ。
他の迷い人も街の中だったり、人外魔境だったりと人によって様々や。
あ、違う?我がどうしてここにいるかってこと?
まあ、我がここにいるのは単なる暇つぶしやな。ここは静かで良いところやよ。
偶に有象無象が彷徨いてるけど我の近くにはほとんど寄ってこないし。
コホン、話を戻すで?
さっきチラッと話したんやけど、
ヴォヌール大陸の他にも
ムルメリア大陸やサウシード大陸と言われる大陸があるさかい。
これは少し余計やけど、何で世界には名前が付いていないのに大陸には名がついているのかって疑問に思わんかった?
え、思ってない?
そんなつれないこと言わんといてくださいよ。一応、知っておいた方がええから説明しておくとなぁ。この3っつの大陸にはな、それぞれに絶対的な統治者がおるんや。その者の名前から名付けられておる。
だから統治者が変われば、大陸の名前も変わる。
そんな仕組みやな。
で、最後の一つ。これがまた厄介でなあ、「無大陸」っちゅーねん。
もうわかったやろ?
この大陸には支配者がいないんよ。いや、いなくなったと言った方がええかもなぁ。せやから「無大陸」も本当の名前やない。ただの呼び名やな。
あそこに住んでる連中はな、平等によって世界を平和に導けると信じている気狂いの集まりや。
だから統治者もおらへん。
ま、そこらへんはまだそんなに知らんくても問題ないやろ。
で、次やけど。「地球」には【固有能力】ってあったかいな?
え?【魔法】じゃないのって?
あんさん、その言葉よう知っとりますなぁ。もしかたら、あんさんのいる世界にも【魔法】は存在したのかも知れんのやな。全くの無からそんな概念が存在することなんてないですもん。
他の迷い人さん達も何故か【魔法】は無いかと我に必死で聞いてきましたわ。
なんでも、「俺ツエーしたい!チートは!?」とかなんとか……
せやけど、残念ながらあんさんの想像してる【魔法】はこの世界にはありやせん。
あぁ!あんさん、そんなに落ち込まなくても…
その代わりと言ってはなんですが、【固有能力】と呼ばれるものが此の世界にはありましてな、あんさんにも宿っているはずや。
その力は固有という言葉が付くだけあってな、能力、威力共に千差万別なんや。つまりどういうことかというと、人それぞれの【固有能力】があるっちゅーことやな。同じ【固有能力】は一つとしてこの世界に存在せん。
ん、ようわからん?
ああ、わかりやすく例えるとするならな、身体能力を劇的に向上させることのできる能力があるとするやろ?
その能力自体は決して珍しいわけではないんや。そうやな……人間千人のうち一人くらいはおるかな?ぐらいはいたりする。
……十分珍しいだろって?
うう〜ん。けどな、能力によってはもっと少ないのもおるで、その割に効果は独特やけどな。
で、話を戻すけど。
今言った身体能力を劇的に向上させるっちゅーのはあくまで効果に過ぎんのよ。
もっと詳しく言うとな、「劇的」って誰から見てそう判断したのか?っちゅーことや。
歴戦の戦士から見た「劇的な」身体能力とどこぞの田舎に住んでいる村人から見た「劇的な」身体能力の基準の高さが違うのは当たり前やろ?
前者のほうが求めるクオリティーは高くなるはずや。逆に、前者から見て微妙だったパフォーマンスは後者から見て間違いなく絶技だ。と感じられる人間の方が多いのは当たり前やろ?
…で、何が言いたいのかっちゅーことやけど
歴戦の戦士から絶賛された、身体能力を「劇的」に向上させることのできる能力者と
どこぞの村人から拍手喝采を浴びた、身体能力を「劇的」に向上させることのできる能力者とが
戦ったらどちらが最後まで地に足がついてるかってことや。
な、結果は一目瞭然やろ?
つまりな。極論やけど、この世界にはあんさんのいた「地球」と違って人間の共通した「価値観」ってものは存在せん。
「地球」では同種族の人間を一人殺したぐらいで最悪の場合自分が殺される側になるんやろうけどな、
この世界では人ひとり殺した程度では誰も見向きもせん。
「人を殺すことは悪いコト」っちゅー人類共通の価値観、認識がこの世界にはないんや。
あ、勿論貴族に庶民が手を出したら即刻殺されるで?
この世はある意味弱肉強食や。オヨヨ…貴族のその日の気分次第で今まで何人の平民が殺されてきたか…
数えるのも馬鹿らしくなるわ。
まあそんなわけで、人類の共通の価値観がないこの「世界」で
身体能力を「劇的」に向上させることのできる能力者、もっと平たく言えば全く「同じ」効果を持つ能力者はおらん。
人類共通の「同じ」価値観ってものがないんやから、当たり前やけどな。
こういうことを解決するために「地球」では「数字」が誕生したんやろうけど、残念ながら、この世界ではまだその概念はあんまり普及してなくてなぁ。無いわけじゃないんやけど、そういった教育を受けられるのは上流階級の人間だけやし。
まあ、もし万が一いたとしても「デンシャ」とかの「コウツウ」の発達していないこの世界でその全く同じ効果を持つ能力者が出会って戦う可能性はとにかく低いのは分かるやろ?
せやから能力に優劣はつけられん。
……あんさんも気いつけてぇな?「地球」とおんなじ価値観をこの世界で持っていても、それはあんさんの鎖になるはずや。あんさん達迷い人の考え方は「無大陸」の連中と似ているからなぁ、この世界にとっては邪魔なんや。
この世は弱肉強食。弱き者は淘汰され、強き者が良くも悪くも正しい世の中。
せやから、もし…あんさんが今の「地球」の価値観そのままやったら……どうなるかは分かるやろ?
____そう言って素顔の見えないナニカ__は僕に仄暗く笑った。
■■■
僕は考えが甘かったんだ!
とこの時になってようやく気付かされた。
これが俗にいう異世界転移ってやつか‼と浮足立っていた先程までの僕はおらず、今は只々、目の前の気味の悪いナニカ____に怯えるしか無い。
間違いない。この世界で僕は「弱者」だ。しかも最底辺の。
そして、目の前にいる存在__は間違いなく「強者」だろう。
眼の前の存在が、僕のことを少し煩わしく思っただけできっと僕の体は魂ごと砕け散り、跡形もなくなるだろう。…そう、今しがた向けられた笑みを見て分かってしまった。
そもそも、なぜ僕は疑問に思わなかったのだろうか。目の前の存在は初対面の僕に対して、何故か最初から妙に親切だった。
この世がもし本当に眼の前のナニカの言う通り弱肉強食の世界であるはずならば、絶対的な「強者」である眼の前の存在は最底辺の「弱者」である僕に対して、そんな親切なことをするはずがないのだ。
道端に捨て置いても石のようなちっぽけな障害物にもならないような存在___それが今の僕。
それが、僕に話しかけてきた理由__それは何だ?
分からない。
「強者」からの哀れみからくる慈悲?
そんなわけ無い。眼の前の存在はそんなに生易しいモノではない。
どちらかといえば、喜んで人を殺める側の人間だ。
考えろ
考えなくては。恐怖のあまり僕の脳内ではひっきりなしに警鐘が鳴り響いている。そう、正にその答えを見つけられなければ、眼の前のナニカから僕の生き残る道は無い__というように__
考えろ
考えろ考えろ
考えろ考えろ考えろ………______
そう、呪いのように唱えていると脳内に幾つかの光景がフラッシュバックした。
『あんさん、あんた一体どっから来たんですかい?』
『それは多分、迷い人っちゅー名前の種族やな。
結構珍しいんやで。
我もまだ4人しか見たことないんや、あんさんで5人目や。』
『他の迷い人も街の中だったり、人外魔境だったりと人によって様々や。』
『あ、違う?我がどうしてここにいるかってこと?
まあ、我がここにいるのは単なる暇つぶしやな。ここは静かで良いところやよ。
偶に有象無象が彷徨いてるけど我の近くにはほとんど寄ってこないし。』
『せやから、もし…あんさんが今の「地球」の価値観そのままやったら……どうなるかは分かるやろ?』
突然のことにハッとしながらも必死に思考を巡らせる。それは正に窮地に降り注ぐ光のような速度であった。
そうだ、よくよく考えれば。
眼の前の存在は僕に一度も名前を聞いて来なかった!
ナニカが僕に対して興味を抱いたのは__僕の出身を聞いてからだ。
「地球」___そう、僕が迷い人であると分かってから、僕にこの世界のことを教えようとしてきた。
ん、待てよ?
この世界には交通の便が無いんだよな?しかもナニカは千人に一人の頻度で現れる特別な力を持った能力者に対しては珍しくない。と断じたのに迷い人の僕は珍しい、まだ4、5人しか見たことがない___とも言っていた。
それならば
どうして、交通の発達していないこの世界で、この眼の前の存在は__迷い人の僕にとってこの世界の始まりの場所とも言える場所に偶々眼の前の存在は居合わせたのだろうか。どう考えても偶然の結果だとは思えない。
そして、「地球」から来た僕の__迷い人の価値観に対してもナニカは警告を発している。
まるで、この世界にはその価値観でいてもらうと困る__とでも言うように。
それと、あと一つ___統治者のいない「無大陸」に対して、強い嫌悪感を示していた。
もし僕が無大陸の出身だと答えたならば、すぐさまにこの世から抹消されているほどには。
…これだけが、分からない。「無大陸」と「地球」の価値観との関係性__
眼の前の存在が、僕に求めていることは明白だ。
「地球」の価値観をこの世界で広めてくれるなと___それをするならば、僕をこの世界から消し去ることも厭わない__そういうことだ。
それは、理解した。というより理解せざるを得なかった。あんな殺気を巡らせた瞳で微笑みかけられたら誰でも嫌でも理解するしか無いだろう。
しかし、それと無大陸とはどういった関係があるんだ?『「地球」の考え方と「無大陸」の考え方は似ている』ってどういうことだ?
ここでようやく、眼の前の存在に目を向ける余裕ができた。
真っ白な仮面の奥からこちらを興味深そうに覗く瞳には先程までの殺気の余韻すら伺えない。
寧ろ面白そうに__愉快なものを見たという色を滲ませている。
それは正に___「弱者」に向ける笑みそのもの。自分の命はこの眼の前の存在に握られているのだと____自分の命が風前の灯火だと否応なく分からせられる笑みだった。
見なければよかったと後悔したのも後の祭り。
途端にあの殺気に満ちた笑みが浮かんできて動悸が激しくなる。
ハッ、ハッ、ハッ、ハッ_______
落ち着け。
アレは、あの笑みは僕を試すモノだ。
ナニカは僕が正確に現実を理解しているか___自分が「弱者」であることを理解できているかを確かめようとする笑みだ。
そして、恐らくだが僕は第一関門を突破している。
それはたった今眼の前のナニカの様子から確認できた。
それだけで先程の行動は間違っていないはずだ。
考えろ、もっと考えるんだ___
そう必死に自分へと言い聞かせる。
僕がナニカから生き残るためには、「無大陸」と「僕らが今現在持っている当たり前の認識」との共通点にあるはずだ。
『あそこに住んでる連中はな、平等によって世界を平和に導けると信じている気狂いの集まりや。』
これらから、連想される答えは____
思わず、瞳を閉じる。
ここで答えを間違えれば僕は間違いなく死ぬだろう。しかし答えなくてもまた同じ道を辿ることになるのだ。
それならば、少しでも生き残るための道を自分で模索するべきだ。
そう、ここは困っていれば誰かが必ず助けてくれる__人間は誰しも生まれながらに平等だと謳われる___そんな生易しい「地球」ではなく
自分で、自分の力だけで道を切り開いていけない「弱者」は「強者」の餌食になるしか道はない弱肉強食の世界なのだから。
そう、今の僕のように_______
改めてそう自覚した僕は自分の力でこのナニカに答えを示すことで道を切り開こうと勇気を出し____口を開きかけたところで「以上、説明は終了や!他になんか聞きたいことある?」と存外明るい声音で言われ、「…は?」と唖然としたのだった。




