4.西野川
西野川は、目と鼻の先です。
道を挟んだ向こう側に、長く大きな
土手が見えて、
所々に作られた階段から下の河原の方へと
降りられるようになっています。
1番近くのその階段を降りると、
西野川では1番広い河原へと繋がっています。
梨愛さんは、恐らくその川の
その場所のことを言っているのだと判断し
落し物を探す場所がすぐ近くだった事に
一ノ瀬さんはホッとしました。
だって思わず『いいよ』なんて言いました
けれど、今は既に真夜中なんですよね。
今から探しに行くとなると、帰りはきっと
遅くなるに違いありません。
いえ、もう既に遅い時間なんです。
そもそもこんな嵐の夜に
『落し物を探して』──なんて
本当なら有り得ないんですけれど
惚れた弱みとでも言うのでしょうか?
何としても叶えてあげたい──
一ノ瀬さんはそう思ってしまったのでした。
それにしても、もし、探しに行くのが
遠くの方だったら困ったことになっていました。
だって一ノ瀬さん。車を持っていないから。
ずっと前に事故に遭って以来
車に乗るのが苦手なんです。
免許を取るなんて、もってのほか。
だから車がないんですよね。
しかもこんな夜中のド田舎で、
公共の乗り物なんてある訳もなく──
「待ってて、すぐに見つけるから」
だから、歩いて行くより他ないのです。
一ノ瀬さんは直ぐにそう言うと
電話を切って、外へと出ました。
外は真っ暗闇。
ずっと降り続いた雨のせいで、
近くの川……西野川から聞こえる水音は
恐ろしい程に凄まじい。
時々見える遠雷が、更に不気味さを
増しました。
ゴォゴォ……と流れるその流れは、
何もかも飲み込んでしまいそうな
そんな感じすらします。
激しいその流れは、普段はとても
穏やかなのです。
それもそのはず。
上流の方にはダムがあって、
そこで川の水量を調節しているのです。
ですからいつもは、とても穏やかな川。
澄んだ綺麗な水が流れ、魚もたくさん
住んでいます。
──魚釣りをしたら、
たくさん釣れるだろうな。
小さい頃は、よくそう思って橋の上から
川の底を覗き込んだりもしたけれど、
結局一ノ瀬さんは、その
お祖父ちゃんとは釣りに行くことは
なかったのでした。
「……」
一ノ瀬さんは苦笑する。
何故なら一ノ瀬さんのお祖父ちゃん
葉月さんは、泳げなかったから。
だから、水場に近づくのを極端に
嫌がったのです。
当然、一ノ瀬さんにも言っていました。
──『川には絶対近づくな!』
って。
だから小さい頃は、
魚釣りどころか、近づく事すら
出来なかった川なのでした……。
──土手のところだと思うの。
白くて細長い石。
3つ……それが3つ、あるはずなの……。
一ノ瀬さんは梨愛さんが言ったことを
思い出しながら土手へと降りる。
「……ホントは、近づかない方がいいんだけど」
一ノ瀬さんは、そうポツリと呟きました。
それもそのはず。
大雨のせいで、いつもより増水した川の水は
明らかにヤバかったんですもの。
普通なら、こんな所には絶対来ないのに、
大好きな人のお願いごとに
思わずふたつ返事できてしまった……。
俺ってホントは、バカなんじゃ
ないだろうか……?
川の水は、はまるで黒い大蛇のように
うねり狂う……!
土手まで水しぶきが飛び、
いつも穏やかな西野川は
違う川のように唸りを上げた。
カッ──!
ゴロゴロ……ゴロゴロ……
「っ!」
しかも苦手な雷まで轟いている。
上に下にと、龍が暴れているようで
一ノ瀬さんは思わず足を止める。
「…………」
──絶対、見付かりっこない。
正直、一ノ瀬さんはそう思いました。
だってそうですよね?
白くて細長い3つの石?
『落とした』と言うから、それは持ち運べそうな
そんな大きさに違いありません。
そしてそれは、落ちたことに気づけない、
そんな大きさ。
もしかしたら、指位の大きさでしょうか?
いえ、もっと小さい?
そんなものが、この真夜中の荒れた天気の中
探せるはずがない。
それなのに、それなのに──
「……あ、あった──?」
ソレはまるで、闇に輝くホタルのように
白く淡く輝いていたのでした。
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
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