12.未練
夏の夜。
……いえ、夏の早朝。
何とも奇妙な会談が執り行われました。
(怪談……じゃないよ。──え? 知ってるって?)
(……)
……えっと、参加者は5名。
1人はガイコツ。
1人は化け猫。
それから3人の人間。
──違う違う。
えー……コホン。言い直します。(キリッ)
1人はガイコツ。1人は化け猫。
そしてもう1人、お化けがいるじゃないの。
…………。
あぁ、……紫子さん? 紫子さんのことですか?
紫子さんは、ああ見えても
れっきとした人間で──
──違う違う。
お化けなのは──
「一ノ瀬さん?
私はちゃんと最初から、分かっていたの。
ですから、隠す必要はないんです」
紫子さんは居間のソファーに
腰掛けながら、ふわりと微笑みました。
お茶の用意をしていた一ノ瀬さんの手が
ピタリ……と止まる。
「分かって……いた?」
「はい」
「……」
何を……とは、一ノ瀬さんは聞かない。
そうかも知れないと、半ば
勘づいてはいたから。
はぁ……と一ノ瀬さんは
溜め息をつきました。
「だったら何故、俺に近づいたの」
「──お菓子のためです」
「……」
キッパリと答えた紫子さんに
一ノ瀬さんはぐうの音も出ない。
「……いやでも、俺、気持ち悪──」
「──今日のおやつが楽しみです」
「……」
言葉を奪うように答える紫子さんに
圧倒されて、一ノ瀬さんは
言葉をなくしてしまいました。
「──おやつ……」
ポツリ……とガイコツ──もとい梨愛さんが
呟く。
「そうだ。
……あれが食べたいな。
むぅちゃん。私、オレンジゼリーが食べたい」
「え?」
「ほら。むぅちゃんが初めて私にくれた
おやつ。
オレンジの皮のカップに入れた、
オレンジ色のふるふるゼリー……」
「……覚えていてくれてたの?」
驚く一ノ瀬さんに、梨愛さんは
可愛らしく微笑みました。
「……私は、むぅちゃんのおやつ
好きだから」
「梨愛……」
「ふふ。私も一ノ瀬さんのおやつ
好きですよ」
紫子さんも負けじと参戦。
「あの! あのあのあの。ボクも……
ボクも一ノ瀬さんのお菓子、
大好きです……!」
自分のしっぽをにぎにぎしながら、
玉垂も参戦。
「……(可愛い)」
「……(可愛い)」
「……(可愛い。けどいつ食べたの? By一ノ瀬)」
「……あ、えっと、じゃあ丁度その問題のゼリー
作り置いていたから持ってくるね」
そう言って、一ノ瀬さんは台所へと
消えて行ったのでした。
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「あのぉ……。
むぅちゃんは……死んで
しまったのかしら……?」
一ノ瀬さんが台所へと消えてから
梨愛さんがポツリ……と呟きました。
「……はい」
その言葉に、紫子さんもポツリ……と
言葉を返す。
「私たちが出会った時には、既に──」
紫子さんは、出された紅茶を
飲みながら、ふぅーと息を吐く。
「交通事故だったようです。
この世に未練──があるようには見えません
でしたけど。でも、あの世には
まだ逝けないようです……」
そう言う紫子さんの言葉に、
梨愛さんはフフフと笑う。
「そんな事はないのよ?
むぅちゃん、とてもパティシエに
なりたがっていたから……」
だから今もここに居てくれた──
梨愛さんは、どことなく、
嬉しそう。
「……。
あの……梨愛さんは──?」
紫子さんは尋ねます。
「ん? 私?」
梨愛さんは少し考える。
──考えて、それから小さく微笑んだ。
「ふふ。
私も未練があったから」
「未練──」
「そう。未練──」
大好きなあの人の傍に
いたかったから──。
そう言って梨愛さんは、
一ノ瀬さんが消えて行った
台所の方を見たのでした。
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
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