11.混沌《カオス》
「あ、あのあのあの……ぼ、ボク、ボクは……」
真っ黒だったから気が付かなかった。
いや、それ以前に存在感が──。
「……」
でっかいのに見えない。
はっきりそこにいるはずなのに、
何だかボヤけて見える、だけど
有り得ないほど
でっかい猫──。
「」
驚いて目を見開く一ノ瀬さんに、
必死になって説明をしようとする
玉垂(デッカイ猫)。
そして、それをものともせず。
「ほら。玉垂? 早く瑠奈さんを
担ぎ入れちゃって?」
「え?
…………あ、うん」
早く早く……と手を叩く紫子さんの
その言葉に玉垂は素直に従う。
黙々と瑠奈さんを抱え上げると、
そのまま一ノ瀬家へと踏み込んで
行きました。
さぁ、ここで『紫子さんシリーズ』を
読み続けていた人なら、ご存知かと思うんですが
一ノ瀬邸は竹藪に覆われているのです。
ちょっとやそっとじゃ、侵入することは
出来ないシロモノなのです。
しかし、相手は玉垂。
家の周りを守るように茂っていた竹も
なんのその。
バキッ、バキッ、バキッ、……と踏み分けて
あっという間に道を作ってしまったのでした。
「おおー。さすが玉垂」
と紫子さん。
パチパチ……と手を叩きます。
「…………パンダかよ」
そして思わず唸る一ノ瀬さん。
「きゃあぁ。なんて可愛いの?
こんなにも大きな猫ちゃんがいるなんて
思ってもみなかった──!」
ぺいんぺいん……と長いしっぽで地ならし
していた玉垂は、そんな梨愛さんの
歓声に『エヘヘ』と頭を搔いて振り返る。
けれどすぐに、それがガイコツから
発せられる声だと分かると、ぞゎゎゎゎ……と
毛を逆立てて怯えたのでした。
全く、忙しい猫ちゃんですね。
でも分かりますよ? その気持ち。
それをなんとも言えない表情で
見送る一ノ瀬さんに向かって、
紫子さんは一喝する。
「あの……一ノ瀬さん?
勝手に入ってしまいますよ?
玉垂なら玄関、壊せますけど──?」
「え? あ、す……すみません……」
紫子さんの物騒な物言いに促されて、
一ノ瀬さんはハッと我に返り
仕方なしに家の門を開けました。
さすがに玄関を壊されるのは
困りますからね。
「……」
ガラガラガラ……──。
引っ越したばかりのその門は、本当なら
竹林が鬱蒼と生い茂り普通に入ることは
かなわない。けれどそれでもいいか……と
一ノ瀬さんは思っていました。
だってきっと客なんて来ない。
来たとしても今の自分に
その対応なんて出来やしない。
だったらひっそり佇むのも悪くない。
「……」
けれどそれが、今や玉垂に踏み敷かれ
見事な通路が出来ました。
「──」
……これは、喜んでいいのか、悪いのか。
「えっとね、一ノ瀬さんには
いつもお菓子をご馳走になってるでしょ?
だからそのお礼にって思って、
せめて門のところだけでも竹を取り払って、
通りやすくしようと思ったの。
もちろん、私たちだけじゃ無理だから
玉垂にお願いして来て貰ったの。
……あ、それから玉垂が育てた
夏野菜が採れたから、採れたてを持ってきたの。
キュウリはね、私が漬けてみたの。
私は美味しいとは思うんだけど……」
矢継ぎ早に言いながら
紫子さんは、申し訳なさそうに
肩を竦め、待っていたタッパを
抱きしめて見せました。
「……ありがとう。
でも──」
一ノ瀬さんは背中の梨愛さんと
紫子さんを見比べました。
──当然ですよ。
明らかに今の状況は、おかしな
状況なのですもの。
採れたて夏野菜なんて、この際どうでも
いい訳です。
クマのようにデッカイ猫の存在も気には
なりますが、どう考えても
生きているには程遠い
一ノ瀬さんの背中にいる、見た目が
ガイコツの梨愛さんのこの存在。
どう説明しようかと一ノ瀬さんが
悩んでいると、紫子さんは、ようやく
その事に気づいたようで『あぁ!』とばかりに
手を打ちました。
それから爽やかに、ニッコリ微笑みます。
「私もガイコツ好きですよ♡」
「……」
──いや、そーゆー事じゃないよね?
一ノ瀬さんは心の中でそう突っ込みながら、
大きく溜め息をついたのでした……。
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
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