10.ホントは、見つかりたくなかった。
一ノ瀬さんは、軽く息を呑んで
紫子さんと一緒にいた、瑠奈さんを見ました。
そして一ノ瀬さんと目が合ったその瞬間、
瑠奈さんは静かに
意識を手放してしまったのです──!
……なんとも呆気ないものでした。
けれどそれも、そのはずなのです。
だって昨日からの雨で増水しまくっていた
近くの川から、有り得ないほどの早朝。
そんな朝早くに、
泥だらけの一ノ瀬さんが音もなく
上がって来て、そうかと思って見ていたら
その背中に……な、なんと!
白骨死体を背負っているじゃないですか──!
「……」
そんなの誰だって驚きます。
そもそも全く驚いた様子のない
紫子さんが、おかし──
『ちょっ、失礼ねっ! 誰が白骨死体よ! 誰が!!』
…………。
……せっかくナレーター頑張ってたのに
まさかの梨愛さんににらまれて、
私(ナレーター)は青くなる。
……う。すみません。
分かりましたよ。言い直しますよ。
白骨死体……もとい、ガイコツを
背負った一ノ瀬さんが現れたからですっ。
『そうそう。ガイコツ!
ガイコツって、ちゃんと
言ってくれないと……!』
…………。
やっぱりそこですか? 怒ってるの。
いや、だからね、そーじゃなくてね、
この状況で、反応のない紫子──
『…………おま、
ガイコツだったらいいんだ?』
梨愛さんの言葉を受けて、
今度は一ノ瀬さんは唸る。
どっちも一緒じゃねぇか……と言いたげです。
はい。私もそこ、ツッコミたいところですが、
怖いので大人しくしているんですよ?
それなのに、敢えてそこ
ほじくり返すわけですね……?
と言うか、あれですよ?
勝手にナレーションと話さないでくれます?
と言いますか、ナレーターの仕事に
割り込んで来ないで頂けます?
……まあ、でもそれ言ったら後が怖いから、
あえて言いませんけれどね?
でも察してね?
……だって、相手、ガイコツですしね?
『肉』ついてませんしね……?
幽霊ですしね?
『いやいや、そもそもなんで『ガイコツ』なの。
幽霊なら普通に霊体でいいだろ!?』
けれど一ノ瀬さんは止まらない。
更に輪をかけて梨愛さんに挑みかかる。
……でもそれ、ごもっとも。
私も思いましたよ。
普通に霊体だったのなら、生前の姿を
留めていたはずですしね?
そもそもガイコツですと、表情が読みにくくて
やりづらいのですよ。……はい。
だけどその一ノ瀬さんの言葉に
梨愛さんはプゥ! と顔を
膨らませました。
……多分。
多分ね、膨らませたと、思うのよ?
だって梨愛さんガイコツだから
よく分からないんですもの。…………。
『もう! むぅちゃん?
世の中のお化けで1番可愛いのが
ガイコツだからです!』
『…………そうか?』
キッパリと言い切った梨愛さんに、
一ノ瀬さんはモゴモゴと文句を言って
目をそらす。
……そうですよね、お化けに
可愛いとか可愛くないとか基本
ありませんしね……?
一ノ瀬さんは一ノ瀬さんで
大好きな彼女が、まさかの
ホネホネ人間になって戻ってくる……
なんて思ってもいなかったから、
心の中は複雑です。
さっきなんて、思わず『じゃあ、立って』なんて
言ってしまったけれど、
そりゃ、自力で立てるわけありませんよね?
だって筋肉ついてないんだもん。
ホネホネの梨愛さん。
──慣れたら本当に立てるのかな……?
そんな疑問が湧いてきます。
だけどそんな事言ってもいいのだろうか?
「……」
ツッコミどころが満載で、尋ねたいことも
たくさんあったけれど、一ノ瀬さんは
なんて言ったらいいのか分からず
ひとまず大きな溜め息をついて
心を落ち着かせたのでした。
「とにかく、紫子さんもウチに入って?
……瑠奈さんには悪いことしちゃったな」
なんて言いながら、ぽりぽりと頭を搔く
一ノ瀬さん。気絶してしまった
瑠奈さんを申し訳なさそうに
見下ろしました。
とにかく落ち着いた場所で、紫子さん達に
今の状況を説明しないと、絶対に
誤解しているハズです。
だってガイコツですよ? 等身大の。
しかも雨に打たれて泥だらけ……。
どう贔屓目に見ても、
犯罪臭がつきまとう。
「……」
家に誘いはしたけれど、一ノ瀬さんは
悩みました。
(だけど紫子さん、
この状況でウチに上がってくれるかな……?)
いいえ、だからちょっと待ってって
私さっきから言ってますよね?
まずはそこです。
そこなんですよ! 一ノ瀬さん!!
そこを言いたかったんです。私は。
いいですか?
明らかに今の状況は、驚くべき状況なのです!
一ノ瀬さんだって思ったでしょう?
犯罪臭漂う状況だって!
でも見てください?
紫子さんが驚いているように
見えますか?
……いいえ、断じてそのようなことはありません。
紫子さんは、明らかに
驚いていないんです──!
驚いていないように見える紫子さんって、
それこそ、おかしくありません?
「……」
けれど、そんな事に悩んでる暇もありません。
いくらここが田舎だと言っても、全く人が
通らないわけじゃないのです。
紫子さんだけでなく、他の人からも
見られてしまっては、言い訳が難しくなるのは
目に見えていました。
ですから一ノ瀬さんはすぐに膝を折り、
慌てて瑠奈さんを抱えあげようとしたのです。
背中には、ガイコツ梨愛さん。
その上、気絶している人を抱え上げ
移動させるのは、意外に骨の折れる作業です。
(あ。狙って言ったわけじゃないですよ?)
けれどそれを紫子さんが止めました。
「あ。大丈夫。
瑠奈さんは、違う人に──」
「──え?」
(『違う人』?
まさか誰かを呼ぶ気なんじゃ……)
紫子さんのその言葉に
一ノ瀬さんは焦る。──と同時に、
変な気配を背後に感じたのです!
「!?」
ハッとして振り返ると、そこには──
『でっかい猫』……が立っていたのでした。
「────」
一ノ瀬さんは
思わず立ちすくんでしまったのでした。
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
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