6.三人揃っても教員未満
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風花を振り切って一足先に学校へ到着した。
話し込んでいたこともあって、校門を通過したのは八時ギリギリと普段より少し遅いくらいであった。
自転車を止めて生徒玄関へと歩いていくタイミングで声をかけられる。
「あ、柳君じゃん。珍しいねこの時間に玄関で会うなんて。二度寝でもしたのかい。」
「おお、おはよう桐生。二度寝なんて中学の時に散々して懲りてるんだよ。
少し面倒なやつに捕まっていつもより少し遅くなっただけだ。」
クラスのムードメーカーこと桐生 鳳清が俺に挨拶をしてきた。
サッカー部に所属をしている黒髪短髪の爽やかイケメン。
明るく体育会系のノリが少ない彼は陰キャにも平等に声をかけてくれる。
「柳くんに限って遅刻はないか。でも、連日の騒ぎで足が重い気持ちはわかるよ。大変そうだね。」
「他人事のように言いやがって。非常に苦労しているから役替りしてくれるならそうして欲しいところだよ全く。」
「いや、それはちょっと遠慮しておこうかな。でも、まだ元気そうで安心したよ。困ったことがあったら話してくれてもいいからね。」
「気持ちだけは有り難く受け取っておこう。っとなんか入ってるな。」
上履きの重さに違和感を感じた俺は少し上履きを傾けるとジャリジャリと音のする物体と紙切れが床に落ちていった。
「…事は意外と深刻なのかもしれないな。上履きに画鋲か。」
「お、涼弛に桐生か、おはようさん。…ってなんかあったのか、深刻そうな顔をして。」
後ろから声をかけてきた道哉が俺と桐生が固まっていたことを不審に思い顔を覗き込んできた。
「なるほどね、先の件に対しての典型的な嫌がらせってわけか。こりゃ涼弛の親友として見過ごせねえな。おい桐生、お前も手伝えや。」
「うん、協力させてもらおうかな小野君。見過ごせないし、さっき力になるって言ったばかりだしね。それにやっていることが小学生よりもひどすぎるよ。」
「待てよお前ら。そんなことしなくたってオレ一人で…
「涼弛」
初歩的な嫌がらせに対して別に二人の手を煩わせる必要なんてない。
一人で解決すればいいと思っていたが道哉は俺の言葉を遮る。
「これは嫌がらせなんて言ったが普通にいじめだ。しかもお前がなにをした。
なんも悪いことをしていないのにそんなことをされて俺が怒らないわけないだろ。」
「僕だって目の前でクラスメイトが傷つこうとしているんだよ。
こんなところ見過ごすなんてできるわけないじゃないか。」
道哉の言葉に桐生も同調し、二人は起きたことを解決しようと俺に協力の姿勢を見せる。
人を巻き込みたくないと思っていたが、二人とも引く様子を見せなかったので俺も一人で解決をすることを諦めた。
八時を過ぎた生徒玄関では目立つため、俺たちは一年フロアの空き教室へと場所を変え、画鋲とともに落ちた紙切れを二人に見せることにした。
城泉寺泉にこれ以上近づくな。次は直接手を下す。
「ま、タイミング的に城泉寺さん関係しかないわな。桐生、こういう低俗なことをしそうな連中になんか心当たりはないか。」
「そうだね、サッカー部でも噂になっていたくらいだし、心当たりは多すぎるかな。
少なくとも女の子の字って感じはしないよ。何度か手紙をもらっているからね。」
「おーモテるイケメン様は言うことが違うわ。
ま、桐生の言う通り男の嫉妬って考えることが自然だろうな。
問題はここからそいつをどう特定するかだが…。」
真剣に考え込む二人に対して俺は戸惑っていた。なんでここまで人の事情に踏み込めるのだろうか。
踏み込んだっていい結果が返ってくるわけがないのに。
そんな事を考えていたら、空き教室内にいる俺たちに怒声が飛んでくる。
「お前ら、とっくにチャイムは鳴ってんだぞ。こんな空き教室で何をやってんだボケ。」
「…芒野先生、時代が時代なんだから生徒に暴言なんて大騒ぎになりますよ。」
怒鳴り声を上げてきた我がクラスの担任に向かって桐生は冷静に返答をする。
そんなに関わりが深いわけではないが、こいつも道哉と同じく肝の座ったやつだと思った。
「小野、確かに生徒に暴言はご時世柄大事件だな。ただ、規律は規律だ。
よりにもよって、普段の素行的にそれを理解しているはずの生徒が三人揃ってこんなところで何をしているのかって話だ。
とりあえず話してみろ。俺は怒らないから。」
芒野先生の事情聴取が始まった。
既にファーストコンタクトで怒っている先生から、怒らないから話してみろという言葉を聞いて誰が信用するのかと俺たちは思った。
だがそれでもごまかすことはできない状況だったので俺から話すことにした。
事情を把握した芒野先生はこの件に対しては宣言通り怒ることなく、耳を傾けてくれていた。
「事情はわかった。柳、とりあえずそのメモってのを見せてみろ。」
ひとまず俺は先生の言うとおりに上履きに入っていたメモを渡す。
ついでに昨日自転車カゴに入っていた紙切れも渡すことにした。
「…なるほどな、人の恋路に陰湿な嫌がらせとは、女々しい奴もいたもんだ。
とりあえずこれは一度預かるから昼休みに生徒指導室に来い。
一限が始まるからゆっくり話せるタイミングにするぞ。」
そういって先生は出席はおまけしておいてやるなんて言いながら空き教室を去っていった。
「入学当初から暑苦しい先生ってのは変わらねえな。
ま、実はもっとドライな先生だと本当は思っていたが、解決の糸口は見えてきそうだな涼弛。」
「うん、僕も昼休みは一緒に行くからとりあえず教室に行こうか。」
芒野先生が去った後、ひとまず俺たちは教室へ向かった。
クラスメイトは珍しい組み合わせに首をかしげていたが、桐生の自転車がパンクしていたところで
二人に助けられたと説明をしてくれたことで変に詮索されることもなかった。
一人勘のいい当事者が納得しない表情をしていたなんて、余裕がない俺たちが気づくことは難しかった。
明日分も15時に予約投稿済みです。
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