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5.柳の下にドジョウは二匹いる

初投稿になります。

誤字脱字や感想などがございましたら、お気軽にご連絡頂けますと幸いです。

(おど)されたとしても告白を受けたとしても時間は全ての人間に平等に流れている。

うなだれながらも涼弛はいつもどおり学校へ向かっていた。


不安があったものの実害がないうちから怯えていては何も解決しないのはわかりきっていたので、諦め半分である。

いつもと変わらぬ通学路を自転車で走っていたところ、目の前に見知った顔が信号待ちしていたので、声をかけた。



「おはよう、風花(ふうか)。今日は遅いんだな。」


涼弛(りょうじ)じゃん、おはよー。今日から朝練がなくなったんだよね。うちの学校のコートに霜が降りちゃって使い物にならないのよ。」



彼女は小野 風花(おの ふうか)。小野という名字の通り道哉(とうや)の双子の妹であり、彼女ともまた小学校時代からの付き合いである。

中学時代から軟式テニス部に所属をしており、高校でも続けている。

長い金髪を(なび)かせながらラケットを振る姿は爽やかなスポーツ女子といった印象で、彼女の明るく活発な姿は男女問わず人気がある。



「ああ、うちの高校のテニスコートは人工芝じゃなくて土のコートだったもんな。」


「そうそう、クレーコートっていうんだけどね。

硬式テニスは人工芝なのになんで軟式は土なんだろうって、冬になってからこんな落とし穴が待っているとは思わなかった。

今度叔父様(おじさま)に文句を言ってやるんだから。」



そう風花はため息をつきながら話す。

学校経営に小野家が関わっているわけではないが、俺達が通っている藤原学園は風花や道哉の親戚が理事長をしているらしい。

だからといって小野家が優遇されているということもないし、俺も最近知ったことだったが。


そんなことを思い出しながら青に変わった信号を見てペダルを()ぎ出そうとしたときに、風花は自転車から降りて話を振ってきた。



「あ、そういえば涼弛。大分有名人になったじゃない。

私のクラスの1Dでも耳に入ってきたし、道哉からも聞いたよ。常泉寺(じょうせんじ)さんの件。」



自転車から降りるということは、登校中に質問攻めにする魂胆(こんたん)が見え見えだったが、

ここで逃げたほうが分が悪いと感じ俺も自転車を降りて会話に応じることにした。



「道哉から聞いているのであれば別に風花から聞くこともないんじゃないか。」


「えーいいじゃん。折角の()()()の春の到来にワクワクを隠せないのだよ風花ちゃんは。」


「道哉にも話してはいるが俺はそんなつもりはない。異性との関わりなんて最低限でいいんだよ。」


「…そっか、あんたも根に持つタイプよね。昔はいい意味で恋愛なんて知らなーい。

関わる人は皆友達だー。って感じだったのにね。」


「ほっとけ。人間関係が増えたところで面倒くさいだけなんだ。

ある程度気の知れた奴らだけ集めて学校生活を謳歌(おうか)していたほうが楽なんだよ。」


「ある程度ね。そういって私と道哉意外は挨拶するくらいで友達なんて作ろうとしないじゃない。

そんなんだから枝垂柳(しだれやなぎ)なんて暗いあだ名をつけられるんだよ。」



風花の説教も何度目だろうか。自転車を押しながらわかりきったような顔で俺に(さと)してくる。

自慢ではないが俺は友達と呼べる人間が高校の中では道哉と風花くらいだ。


クラスメイトに対してはある程度挨拶もするし、認知はされているが友達と呼べるレベルの人間はいない。

入学当初や学校行事のタイミングではそれなりに交友を深めた人間もいたが、どうあがいてもそういったグループには女性生徒も多かった。


女子生徒と必要以上に距離を取る癖が出てしまい、フラフラと当たり障りのない会話をしながら必要以上に関わらない。

その姿勢にやる気を感じられなかったのかついたあだ名が枝垂柳とは。

幽霊でも見えているのだろうか。



「枝垂柳で上等だ。なんてったって普通はいても一匹のドジョウが俺の下には二匹もいるんだからな。」


「二匹のドジョウ?」


「おまえらだよ。俺がどう変わってもおまえらだけは友達でいてくれる。それだけでも十分だ。

まだ学校生活は長いんだから二人の友達がいればひとまずはいい。ゼロからのスタートじゃないんだからな。」


「ふーんどこまでいっても友達か。

…って道哉はともかくとして、美少女を捕まえてドジョウなんて酷くな…おい、逃げるな!!」


ドジョウなんて比喩(ひゆ)をすれば当然風花が怒ることなんて目に見えていたので、俺は風花の言葉を聞く前に自転車に乗って先に行くことにした。



その先に待ち構えていた展開なんてこの時にはわからない。まだ厄介な事に絡まれるなんて想定もしていなかった。

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