4.出る柳は打たれる
昼休みのイベントに満足したのか放課後に城泉寺は絡んでこなかった。
一人で帰ろうとしたところでニヤニヤとした悪い笑みをした悪友に鞄を掴まれしょうがないから道哉と帰ることにした。
「さてと、りょーじくーん。何から聞くべきか。」
「…お前に話すことはなにもない。結果なんてわかってんだろ。俺は城泉寺と付き合う気はないんだ。そっとしておいてくれ。」
「そうは言うけどよ、涼弛。お前だってそろそろ前を向いてもいい頃だろ。いつまで中学時代の話を引きずってんだよ。」
「その話を引きずっているつもりなんてない。俺にだって普通に人と関わっていきたいとは思っている。
ただ、相手が相手だよ。それに、俺は城泉寺に好意を持たれるようなことはしてないから謎なんだ。」
俺にだって恋愛をしたいという気持ちもある。いわゆる普通の恋愛をしたい。
徐々に惹かれ合ってお互いに幸せになれるような関係を築きたいところだが、そういった思いを裏切った展開に困惑している。
そしてなぜここまで好意を持たれているのかが未だに謎に包まれている。
直接聞く選択肢を忘れるほどに彼女のペースに飲まれているのが現状だ。
そもそも昼休みの道哉の立ち回りさえなければそういう機会もあっただろうにというボヤキも出てくるが、とにかくわからないことが多いのである。
「ま、恋愛をなんてそんなもんだろ。海賊女帝だって恋はハリケーンなんて言ってるぞ。」
「馬鹿野郎、世の中には理由があるんだよ。嵐がだって突然は来ないんだからそんな流れと勢いで丸め込まれんぞ。」
「はあ、相変わらず理屈っぽいんだよ涼弛は。ま、それでも一つだけはっきりしたことがある。」
「なんだよ。」
「別にお前、城泉寺が嫌いってわけじゃないってこと。それと恋愛に興味がないわけじゃないってことだよ。
これだけわかれば俺は明日からは学園生活をさらに楽しんで送れそうだぜ。」
能天気にはしゃいでいる道哉の話を聞きながら自分に問いかける。
本当に城泉寺が嫌いじゃないか。これの答えはその通りだろう。
正確に言えば好きでも嫌いでもなく、よくわからないといったところだ。
二つ目に恋愛に興味がないか。これについては自分でもよくわらない。
異性と関係を深めることに恋愛感情が必要なのかは昔から疑問に思っている。
仲がいいならそれでいいのではないか。男女問わず交友関係を広く持つことが悪いことではないと去年までの涼弛ならそう思っていた。
その考え方の在り方に迷っている最中で、この疑問については答えを用意できないでいた。
「まあどっちにしろ、そういうつもりはないってことだけは伝えておくつもりだよ。」
力なく俺は道哉に向かって再度自分の出した結論を伝える。
道哉もこれ以上は無駄だと感じたのか、まあ好きにしろと会話を流す。
体調のこともあってか、道哉は珍しく母親が送迎をしてくれていたようで、駐輪場と校門の分岐点で別れた。
帰るために自転車カゴに鞄を入れようとしたところ、カゴの中に違和感を感じてそれを手にした。
B5サイズの紙が二つ折りになって入っていた。俺は開いて文章に目を通す。
城泉寺泉へ近づくな。
たった一文の殴り書き。
そのささやかな一文だけで平穏が遠のくことを想像し、涼弛は顔をしかめながら帰路へつくのであった。
毎週月曜日と金曜日の11時更新予定です。
続きを見ていただける方はブックマークをしていただけますと幸いです。