1.寝耳にお嬢様の告白②
初投稿になります。
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朝にあった城仙寺のアポイント以外は普通の日常であった。
強いて言うならばやたらと絡んでくる悪友が体調不良で休んでいたことくらいだろうか。
それ以外に特になにも大きなことはなく、座学だらけの水曜日は放課後を残すだけになった。
ということにしておきたい。
昼休みのタイミングでクラスメイトたちには何があったのか度々聞かれてはいたが、俺も理解が追いついていないので適当にあしらっておいた。
そして放課後。
「…さすがにバックレるのはだめだろうしな。」
毛頭そんな気もなかったが、面倒くささのあまりついぼやいてしまうが、約束は約束だ。
しっかりと行かなければ相手にも失礼になってしまう。
帰りのSHRが終わったタイミングで課題のない明日も使う教材だけは置き勉を決め込んで教室を出る。
周りも朝の件を気にはしていたものの、クラスメイトもそれぞれ放課後の予定があるようで追求や野次馬になるまでは至らなかった。
すでに城仙寺は教室内にいなかったので俺も教室を抜けて中庭へ向かう。
昇降口脇の通路を進むと中庭へ続く道が存在し、既に城仙寺は中庭に向かって前を歩いている状況であった。
態度は悪いが品行方正な所作で優雅に歩く姿は初見で見れば間違いなく育ちのいいお嬢様であると言えると思う。
中庭の奥の方にあるベンチに彼女が腰を掛けようとした瞬間に、後ろから歩いてきた俺に気づいたようでこっちに向かってくる。
「改めて今朝は申し訳ありません。お休みのお邪魔をしただけでなく放課後のお時間まで頂いてしまって。」
「いや、気にすることはないよ。次気をつけてくれればいいから。」
「そうですか。まあいいですわ。今回の非礼については改めてお詫びさせていただきます。」
「だから気にすることはないんだけど…。それで話ってなんだろうか。」
非礼を感じているなら正直あの場面で話しかけてほしくはなかったという言葉はぐっとこらえて、とりあえず要件だけ聞いてこの場を立ち去ろうと思っていた。
1分ほど。…いや30秒ほどだろうか。
普段ははっきりと物事を言うあの城仙寺が言葉に詰まりながら何を伝えようか
迷いながら立ちすくんでいる姿が珍しすぎたので、どの程度時間が経っているのかなんて正直覚えていない。
次第に覚悟が決まったようで、こっちに向き合いながらようやく言葉を発した。
「柳君、私はあなたに好意を寄せていますの。私とお付き合いしてくださらないかしら。」
告白だった。
ベタといえばベタだが、このご時世で学校で呼び出して告白をするという事象が存在したとは入学して聞いたことがなかった。
しかも、あのご令嬢が俺に告白をするほどの好意を持ったことに対して何よりも驚いた。
しかし俺の返す言葉は既に決まっていた。
「…悪いな。城仙寺とは付き合えない。」
「はい?お付き合いができないですか。私のことを嫌悪されていましたか?」
「いや、嫌いなわけがあるか。かといって好きというわけでもない。
あまり関わりがないクラスメイトだから呼び出しだって驚いたほどだからな。」
今朝は寝かけのテンションだったのでなんとも思っていなかったが、よくよく考えると城仙寺とは入学してから二学期の終わりかけになるがあまり関わりがないはずだ。
それなのに告白を受けたどいうことかを自分でも飲み込めていないでいた。
沈黙が長かったせいか、理由を言えば諦めるだろうと思い改めて俺から口を開く。
「城泉寺、俺はな、普通の学校生活を送りたいと考えているんだ。
城泉寺の気持ちは受け取っておくが、俺の目指すありふれた学校生活には異性と付き合う
という項目は入っていないから申し訳ないがほかを当たってくれないだろうか。」
「え、なんですかそれ。私のことが好きとか嫌いとか、そういった問題ではないですの?」
「別に城仙寺のことが嫌いなわけではないし好意があるってこともない。
俺にとっては学年の有名人。ただそれだけの人物だ。」
「私はあなたのことをお慕いしていると申していますの。
…自分で申し上げるのも気が引けますが、私とお付き合いしてあなたに損はさせませんわ。」
人を振るというものも心が痛むので、早く終わらしてしまいたいが、やけに押しが強い。
困ったことだが、理解をさせるしかないな。
「たしかに城仙寺を彼女にしたい男子生徒も多いと思う。
クラスメイトには男女隔たりなく接してくれるし、決め事の際にはお調子者を盛り上げながらも話を脱線させることもなくうまくまとめてくれる。
おまけに成績も優秀で城仙寺財閥のお嬢様で、…男からこういう評価をするのは気分を害すかもしれないがスタイルもいいだろう。」
「好きでも嫌いでもないと言うわりには私のことは結構評価していただいているのですのね。」
彼女は少しはにかみ、顔をやや赤らめながら俺の評価に対して反応をした。
繰り返しになるが、彼女に好意を持っている人間が告白を受ければふたつ返事で付き合っているだろう。
それくらいに彼女はすごい人だと思っている。
性格面には難があるとは思うが芯の通った女性であり、外見も長く透き通った銀髪に華奢ではあるがスタイルもかなりいい。
モデルとグラビアアイドルを足して二で割ったような身体をしている。
そうは評価できるが、それでも俺自身としては断りの意志を示さなければならない。
「城仙寺はクラスの中でも目立つんだよ。この半年間意識せずに学校生活を送っていても城泉寺は話の中心になりやすい。
嫌でもどういう人間かはわかるつもりだが、付き合うかどうかは別。俺には俺のポリシーがあるんだ。」
「ポリシーですか。ではあなたがそこまで言うのならここは一旦引かせていただきましょう。」
なんとか乗り切ったな。彼女はそういって正門へ向かうように歩いていく。
すれ違う瞬間、完全に諦めてくれたんだろうとホッとしたとことで彼女はこっちに向き直ってきた。
キスでもできそうな距離感に驚いて俺が二歩ほど退くと彼女はまた二歩距離を詰めてこういい放ったのだ。
「あなたのことは諦めたわけではありませんわ。絶対に振り向かせてみせますわね。私、一度決めたことは曲げませんの。覚悟しておいてください。」
そういって今度は本当に彼女は中庭を去っていく。
去り際に何かを呟いていたかのようにも見えたが、突拍子もない行動に呆然としていた俺はその呟きを聞き取ることができなかった。
そして意識を取り戻して不意に呟いてしまった。
「どうしてこうなった。俺はただ普通の学校生活を送ろうと決めていただけなのに。」
呆然と立ち尽くす中、冬の風がこれから変わる学校生活の転換を知らせる合図となった。
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