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異世界とか悪役令嬢とか実はSSランクとか。第一

作者: 宝井奏多

素人です。

魔石は戦闘で魔獣から一つだけドロップするもの。

それをゆっくりと時間をかけて砕ききめ細かい粉にする。そうして、自分の体液でのばして絵の具にした。

何故そんな面倒臭い事を、と言われたら魔力が極端に少ない故の苦肉の策。偶然がもたらした産物。自分が死ぬ寸前に発見した方法だったと答えるしかない。


その色彩を魔色と呼んだ。今は体液じゃなく魔力を帯びた花を搾った液体でのばす。魔色は筆で描いたらそこでやっと魔法が発露する。赤い色で炎を、青い色で水の魔法を放てるのだ。特殊過ぎる魔法は魔力無しの希望でありたった一つの支えであった。


この世界は弱肉強食。過去現代未来ずっと変わらない。

俺が生きた〝元〟の世界だって同じだ。

だから、勇者パーティに裏切られ下克上や悪役令嬢の仕返しがあったり時を遡って、とよくある、ざまぁがあるのも驚きはしない。


俺は絵描きだ。魔力無しといっても微量な魔力はある。日常生活には困らない。

ただ実戦的な魔力には程遠くギルドでパーティを組んでくれる奴らも居ない。

そんな、異世界の片隅で〝元〟でも〝今〟でも劣等感をやり過ごし細々と生きた日常話。










「わたくしを描いてくださるかしら」


ハッとする美しい貴族らしい少女。カランと入口のベルが鳴ると同時に何か急いだ様子で話し出した。

つり気味の大きな瞳は青。真っ直ぐのばされた長い髪は金髪。恐らく変装はしている様子だが貴族感が拭えない。

少し遅れて入ってきた女性はメイドか、世話人か。

少女は腰に手を当てもう一度言った。


「わたくしを描いて欲しいの!貴方の絵は生きてるようだって聞いたわよ!」


「…いらっしゃいませ。」



何処から聞いたかわからないが俺は人物画を描くのは好きではない。が、以前どうしても遠い国で暮らす親族に元気な姿を見せて安心させたいという女冒険者がいた。

その依頼にはどうしても、という強い気持ちと定期的に魔石を用意するという条件があったからだ。

彼女の名はアメリア。冒険者で知らぬ奴は居ない程とてつもない手練れで大剣使いだ。

約束は守られ、今も定期的に魔石の補充をしてくれている。

彼女が口を滑らせたか?


「すみません、俺は人物画を描くのは苦手なんです。」


「うそよ、動く絵なんて他ではやってないわ!」


間髪入れずつついてくる少女に付き人もわたわたし始める。


「貴方様の絵を拝見させて頂き、お嬢様は…」


母に絵を送りたいと思ったそうだ。病気で臥せって中々会うこともできないからせめて元気な姿を、と。可能であれば母と自分が絵の中だけでも一緒にいる構図を希望しているという事だった。


「話はわかりましたが、」


描けません。と言うと少女は泣き出した。

ポロポロと零れ落ちる涙に俺ははぁ、と短く溜息が出た。


「他の人物画が得意な方を紹介しますよ。」


「嫌よ。描いてくれないならアメリアにもう魔石を渡さないよう言いつけるわよ!」


思わず片手で頭をかかえる。まさかアメリアの知り合いどころか恐らく用心棒をしていると予想。


「…わかりました。どうなっても知りませんよ。」


やった!と貴族の少女アイリスは喜んで付き人に抱き着いた。お嬢様、と嗜められるとまた貴族らしい佇まいで改めて依頼を受けた。


問題がある。アイリスは本人を見て描けるが母親をどう描くか、それこそ娘も会うのに簡単ではないのに。


「問題無いわ!次にお会いできるのが三日後よ。」


絵の交渉と面会の予定を合わせてきたアイリスは得意げにしていた。通りで譲らない訳だ。







「…自由に動いてください。あ、止まって、…また動いてください。今度は左を向いて…あぁそうです。」


アイリスは俺の指示通りに動いたり止まったりまるでカラクリ人形だ。お気に入りの真っ白な生地が美しいドレス姿。

正直なところ本当に人物画は描きたく無い。

魔力が画材に持っていかれる。沢山の色も使う。

描いて描いて、そうして、力尽きて三日。気力も魔力もギリギリで今度は母親だ。


「…少し恥ずかしいわね。よろしくお願いします。」


アイリスの母は頬が少しこけて目元も少し窪んでいた。

だが、絵には親子の元気な姿を彩らせる。

母親には動きの指示ができない代わりにアイリスと会話をしながら笑ってもらった。


「アイリス、ありがとうね。」


「…わたくしがお母様を愛していることを残したいと思っただけですわ。」


あら、私もアイリスを愛しているわ。と、にこりと笑う。

美しい親子愛を描く。


薄めた赤で唇を。太陽に輝く金で髪色を。

空のような青で二人の瞳を。色白の肌で握り合う手。

親子は絵の中でとても美しく動いた。



そして、俺は三日間寝込む。

目が覚めたらアメリアに言ってやるのだ。

勇者パーティを卒業し、単独で依頼を受けるのは結構だが仕事の依頼斡旋をしろとは言っていないぞと。

にこにこと笑い合い、時々咳のある会話を耳にしながら俺は意識を手放した。

動く絵の出来上がりだ。



沢山の作品の中読んでくださりありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 表現できず心苦しいのですが、作品の空気感が好きです。
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