プロローグ
タイトル変えました。2025.8.28
ふと、目を閉じてみる。
遠くで鳴り続けるクラクション、巨大なビル群の壁面にホログラム状に映し出される広告の嬌声、街中で工事でもしているのか正体不明の巨大な金属音。そしてなにより、雨粒が地面のアスファルトに弾ける音――。
それらが何十にも重なって、一つの騒音として鼓膜へと響き渡っていた。
直後、何かが立ち止まっていた体にぶつかり、思わずよろめいてしまう。
『――チッ、邪魔くせぇよ』
「あ、すみま……」
思わず謝ろうと振り返るも、あまりにも速い流れの人ごみのなかでは、肩をぶつけた当人を見つけることは叶わなかった。
行き交う人々の格好も普通のソレではない。
ほとんどが体の一部を機械化させており、なかにはフルフェイス型の外部ガジェットのようなものを装着している者もいた。光源を帯びたガジェットに、奇抜で毒々しい色のジャケットを着こなしており、それは機械と人間との境界線が融解していることを示していた。
「…………」
見上げれば、毒々しいピンクの「MOTEL」と蛍光色で主張する看板に、なにか銃器の宣伝と思われるホログラムがビルの上で回転している。空は見えず、代わりに配線や巨大なパイプ管が張り巡らされた天井が街全体を覆いかぶしていた。
『にしても、今日の排水スプリンクラーは盛大だな。そろそろ雨季だったか?』
『アア、らしいナ。たぶン上層か中層で、大規模な配管工事でもやっているんダロ』
道路脇に並ぶ屋台のせいで、食べ物の臭いと人の臭い、そして雨の臭いが、思わず鼻を抑えたくなるくらいにまじりあっていた。
彼らはそんな劣悪な環境にも関わらず、これが日常だと言わんばかりに駄弁っている。
どこまでも続く人々の喧騒と、雨でぬれたネオンの輝き。それらの放つ毒々しい光は、いつまでも行き交う人々の顔を染め上げている。
どこか、どうしようもなく遠い場所に来てしまった。
そんなあまりにも見知らぬ土地で一人なのだという孤独。胸の奥をざわつかせるどうしようもない寂寥感が、いつまでも俺を立ち尽くさせていた。
雨も、ネオンも、鳴りやまない――。