魔光石の神社
ちょっと短いです、
チーン――
「守護者の間に到着しました」
無機質な機械音とともに、目の前の扉が滑るように開いた。
扉の外に広がっていたのは、思わず言葉を失うような光景だった。
そこには、夜の空が広がっていた。星がきらめき、満月が照らす空。そして朱色の鳥居が立ち並び、提灯の明かりに照らされた――まるで“神社”のような空間。
「……え? 空……?」
世界樹の内部なのに。屋根もあるはずなのに。
私の戸惑いに、元気な声が答えた。
「「それは、魔法の力ですよーっ!」」
振り向くと、9本の尻尾をもつ狐が二匹。どちらもふわふわの毛並みを揺らしながら、嬉しそうにこちらを見ていた。
「えっと、あなたたちは?」
「私たちは――魔光石を守る」「最後の砦の」「「守護狐!」」
「私が金で!」「ボクが銀っ!」
どうやら金と銀というらしい。金はおっとりとした口調で、銀は元気いっぱいの少年っぽい声だった。
「よろしくね、金、銀」
「「こちらこそ、よろしく〜!」」
「私ね、魔光石を見に来たんだけど、場所ってわかる?」
「「もちろんっ!ついてきて!」」
二匹は境内を駆け抜け、奥にある本殿へと導いてくれた。
荘厳な木造の建物の前で、二匹がぴょんっと跳ねるように振り返る。
「「ここだよっ!」」
指差された扉を、私はゆっくりと開けた。
――その瞬間、息を呑んだ。
蒼く輝く菱形の石。それが、部屋の中央に浮かぶように鎮座していた。静かに、しかし確かな存在感を放ち、空気さえも震わせているようだった。
「……綺麗……」
「でしょ〜?」「でしょ〜?」
「……うん、本当に……。見惚れちゃうくらい」
気づけば、私は金と銀を両脇に侍らせたまま、ただひたすら魔光石を見つめていた。
どれくらい経ったのか分からない。まばたきすら惜しいと感じるほど、その光は魅力的で、心の奥にまで染み渡ってくるようだった。
――何分? いや、何時間?
「金、銀……ありがとう。案内してくれて。また来るね」
「「うん!絶対来てね!」「待ってるよ!」」
笑顔で手を振る二匹に別れを告げて、私は再びエレベーターのような魔道具へと足を踏み入れた。
チーン――
「現界に到着致しました」
扉が開くと、待っていたのはジルの少し呆れた顔だった。
「サラ様……。いったい、どこまでご覧になっていたのですか?」
「ごめん、ジル。ちょっと見惚れちゃって……でも、そんなに長くいたかな?せいぜい1、2時間くらいだと思うんだけど」
「いえ、サラ様が行かれてから――丸一日が経過しております」
「えっ……?」
頭が追いつかない。私の中では、ほんの少しの時間だったのに。
「きっと、魔光石の影響ですね。強い魔力を浴びると、感覚が変化することがあります。……それより、サラ様。お腹が空いていませんか? 朝食をご用意いたします。リビングでお待ちください」
「……あ、うん。確かにお腹ペコペコ……ありがとう」
リビングに向かうと、トリスをはじめとした動物たち、そして妖精霊たちに叱られ、心配された。
こんなに多くの存在に気遣われるのは、正直ちょっと照れくさい。
次からは気をつけないとね……。
「お待たせいたしました。冷めないうちにどうぞ」
ジルが運んできた朝食は、香ばしいトーストに、ハムエッグ、シャキシャキのレタスとトマトのサラダ。そして香り高いコーヒー。
「わぁ……美味しそう! それじゃ、いただきます!」
がつがつと平らげ、ようやく空腹が落ち着いた。
「ごちそうさま、ジル。すっごく美味しかった!」
「光栄です……。さて、今日はお休みになりますか? 丸一日起きていらしたのですから」
「う〜ん、そうなんだけどね。不思議と眠くないの。だから今日は、昨日の続きで森を見て回りたいな」
「かしこまりました。それでは、こちらを」
ジルが差し出してくれたのは、春の風を防げる薄手のコート。
「ありがとう、ジル」
「それでは参りましょう。私がご案内いたしますので、後ろをおついてください」
「うん、行こう!」
そして私は――世界樹の外、神秘の森へと足を踏み出した。