8 はがれ始めた『最強』のメッキ《追放者SIDE》
追放者サイドです。次回はまた主人公サイドに戻ります。
湿地帯で、一人の戦士がモンスター『リザードナイト』と戦っていた。
戦士はギルド『王獣の牙』に所属する冒険者だ。
戦いは、劣勢だった。
「う、うわぁぁぁぁぁぁっ……!」
振り下ろした剣は簡単に砕け散り、逆にモンスターの反撃によって盾を壊されてしまう。
その戦士は悲鳴を上げて後退した。
「駄目だ、とても戦えない……っ!」
相手はリザードナイト。
ランクAに位置づけられる強力なモンスターだが、以前ならこの剣の一撃で簡単に両断できたはずだ。
相手の攻撃も、この盾でやすやすと受け止められた。
なのに、今は──。
「くそっ、剣も盾も寿命だったのか!?」
毒づきながら、戦士は逃げ出した。
以前なら簡単に勝てた相手に完敗する──屈辱だった。
別の場所では魔法使いの女が苦戦していた。
「『ファイアブラスト』! ……あ、あれ、発動しない!?」
彼女は戸惑いの声を上げた。
手にした魔法の杖には『魔力上昇』の強化効果がある。
その力を借りて、上級呪文を連打するのが彼女の得意とする戦闘スタイルだ。
だが今日に限って、それがうまく行かない。
普段なら十発以上連続発射できるはずの上級呪文を、今は発動させることさえできない。
まるで自分の魔力が大きく減ってしまったように。
あるいは自分の魔力を増大してくれた杖が、まったく機能しなくなったかのように。
「だ、駄目……魔法が使えないんじゃ勝ち目がないわ!」
彼女は早々に諦め、逃げ出した。
「じ、十五連続でクエスト失敗だと!? ふざけるなぁっ!」
『王獣の牙』のギルドマスター、バリオスが怒鳴った。
今はギルドマスターと三人の副ギルドマスターが集まり、緊急会議をしている。
「いくら武器や防具の強化がなくなった、っていっても……あまりにも負けすぎじゃないかしら?」
副マスターの一人、中年女剣士のグレンダがうなった。
「クエストの達成率が一気に下がったからな……今までは九割以上だったっていうのに、ここ数日は二割前後だ」
同じく副マスター、野性的な風貌の戦士コーネリアスが舌打ちする。
「情けない連中じゃ、まったく……儂などここ何日かはクエスト失敗の尻ぬぐいで各地を謝罪行脚しておる」
副マスター最後の一人、老僧侶のゲイルが忌々しげに言った。
「武器や防具の強化がそこまで重要だったのか? それがなくなったとたん、あまりにもクエストに失敗しすぎじゃないのか……?」
言いながら、バリオスの中に焦りや不安が湧き上がっていく。
「まさか──」
脳裏に浮かぶ、嫌な考え。
──今まで『王獣の牙』が高いクエスト達成率で破竹の快進撃で続けてきたのは──強化された武器や防具の力が大きかったのではないか?
──その恩恵は自分たちが思っていたよりはるかに大きく、恩恵がなくなった今では、もはや高ランクの依頼を達成できる人材はほとんどいないのではないか?
──そう、『強化された武器と防具』を失った今、自分たちは大陸最強ギルドという看板にはとても見合わない二流のギルドに成り下がったのではないか。
「ば、馬鹿な! 俺たちの栄光はこれからもずっと続くんだ! レイン一人がいなくなったくらいで、それが崩れてたまるか!」
バリオスは思わず立ち上がって叫んでいた。
だが──『王獣の牙』のクエスト失敗の連鎖は翌日以降も止まらない。
すでに大陸最強ギルドの崩壊は始まり、そして加速を続けていた──。