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5 初めてのクエスト

「ひいいいいいっ、バケモンだーっ!」


 ガラの悪い冒険者二人組は震えながら逃げていった。

 あのビビりようだと、このギルドにはちょっかいかけてこないだろう。


「あ、あの、大丈夫でしたか? すごい音がしましたけど……」

「平気平気。あいつらは逃げ帰っていったよ。かなりビビってたから、もうここにはこないんじゃないかな」

「ありがとうございます、本当に……」


 ニーナは深々と頭を下げた。


「それで、さっそく仕事の相談をしたいんだ」


 今の俺は職を失っているからな。

 早いところ、なんらかの収入を得て安心したいところだ。


「適当なクエストを紹介してもらえるとありがたい」

「わかりました、レインさん。どのような種類のクエストをご希望ですか?」

「そうだな……やっぱり、討伐かな」


 それが強化付与した剣や服の使いどころとしては、一番合っているだろう。


「あ、ドラゴン退治とか金になりそうなやつがあったら教えてくれ」

「えっ、ドラゴン……!?」

「もし依頼があるなら受けてみようと思って。こいつの性能テストも兼ねて、ね」


 鞘に入った銅の剣をポンと叩く。


「それは、まあ……依頼自体はありますけど、受ける方がいないので二週間ほど放置状態ですね」


 と、ニーナ。


「このクエストは他のギルドにも広く募集がかけられていますが、受ける者は今のところいないようです」

「手が空いている竜殺し(ドラゴンスレイヤー)級がいない、ってことか。なら、俺が受けるよ」


 ……ちょっと大胆かな、ソロでドラゴン討伐なんて。


 現在の俺の能力について整理してみる。


 まず素の能力(ステータス)

 剣はまるでダメだし、魔法も付与魔法以外は何も使えない。


 次に武器。

 こっちは圧倒的だ。

『銅の剣+10000』の威力は、少なくとも聖剣クラスと同等以上だろう。


 もしかしたら、神々が使用した神造武具クラスになってるんじゃないだろうか?

 ……いや、さすがにそこまではいかないか。

 ただ、圧倒的な攻撃力を秘めていることは間違いない。


 また、防御に関しても、相当に硬い。

 俺が着ている布の服は強化ポイントが『+3033』付与されている。


 その防御力は鋼鉄の鎧どころじゃない。

 あるいは、最硬と呼ばれるオリハルコン級かもしれないな。


「つまり要約すると、武器と防具だけがチート級で、それを操る俺自身は普通のスペック、ってことだな」


 ただ、その武器と防具(っていうか、ただの服だけど)の性能ゴリ押しだけで、たぶんほとんどのモンスターを簡単に狩れると思う。


 特に、剣。

 俺の腕じゃそう簡単に命中させられないかもしれない。


 だけど、この剣は衝撃波みたいなもので空間をも切り裂く。

 言ってみれば『範囲攻撃』だ。


 これなら、俺の剣の腕でも普通に命中するだろう。


「大丈夫だよ、きっと」


 俺は気楽な口調でニーナに言った。

 と、


「俺も行こう」


 受付にやって来たのは、がっしりした体格の中年男だった。

 手に持っているのは身の丈ほどの魔法の杖。

 どうやら魔法使いらしいけど、体格的には戦士の方が似合いそうな男である。


「『王獣の牙』から来た冒険者には雑魚に見えるだろうが、これでもいちおう『青の水晶』の序列一位でな。お前の力になれるはずだ、がはは」


 中年魔法使いが豪快に笑った。


「新入りをたった一人でドラゴン退治に向かわせるわけにはいかん。俺もついていく」

「いえ、たぶん俺一人で十分――」

「討伐クエストは何が起こるか分らんぞ。若いの、見たところお前は支援役をメインにやって来たんだろう? 直接戦闘の経験は少ないんじゃないのか?」


 どうやら、俺を心配してくれているらしい。


「おっと、名乗るのが遅れたな。俺はバーナード・ゾラだ」

「レイン・ガーランドです」

「お節介で悪いな、レイン。ただ、放っておけなくてよ」

「いえ、お心遣い感謝します」


 正直、前のギルドをあんなふうに追い出されたから、他の冒険者に対して身構えてしまう気持ちがあった。


 だけど、この人は、きっと純粋な善意で俺について来てくれるんだろう。

 その気持ちを無下にしたくない。


「分かりました。一緒に行きましょう」


 ──というわけで、新ギルドに加入して初めてのクエストは、最強モンスターのドラゴン退治になった。

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