2 大いなる敵
「大いなる敵……?」
マルチナの言葉に眉を寄せる俺。
「それって……魔王とかじゃないよな?」
まさか、さっきブリジットさんが言っていた半ば冗談みたいな話が、本当に……?
「魔王じゃないよ。だけど、それに匹敵するかもしれない存在ね」
「魔王に匹敵……」
ごくりと息を呑む。
「光竜王ディグ・ファ・ローゼ。古の最強竜が復活しようとしているの」
厳かに告げるマルチナ。
周囲の冒険者たちが怪訝そうに彼女を見ている。
俺も戸惑いの方が強い。
光竜王なんて聞いたことのない名前だった。
「超古代の伝説だから一般には伝わってないけれど、かつて神や魔王に匹敵する力を持った竜がいたの」
マルチナが語った。
「それが光竜王よ。目覚めてからたった数日で世界の八割を滅ぼしたという史上最凶のドラゴン。古の勇者レーヴァインによって封じられ、今は活動を停止している」
「おとぎ話みたいだな……」
「事実を伝承されている一部の人間を除けば、まさにおとぎ話ね」
俺のつぶやきにマルチナがうなずく。
「で、そのドラゴンが目覚めようとしているのよ」
「目覚めるとどうなる?」
背後からたずねたのはミラベルだった。
「うわ、びっくりした!?」
驚いたように跳びあがるマルチナ。
「君、今までどこにいたの!? 気配をまるで感じなかったんだけど……」
「『なるほど──あたし、分かっちゃった。伝説級の剣同士が共鳴しているのね』って言ったところから」
それ、マルチナが登場したところだよな。
最初からずっと気配を消していたのか。
そういえば、俺も彼女の気配を感じなかった。
てっきり席を外したのかと思ったけど。
「他人の背後に立つのは好き」
「変な趣味ね……」
「生殺与奪の権を握ってる感がゾクゾクする」
「……ちょっと危ない趣味ね」
眉を寄せるマルチナ。
それから気を取り直したように、
「ま、いいか。説明を続けるね。太古、光竜王は伝説級の剣を三本使って封印したとされているの。その中心となったのが、君の持つ『燐光竜帝剣』ね」
「俺の剣が……」
そんな伝説があったのか。
「まあ、伝説級の剣なんだから、そういう伝説がくっついてても不思議はないよな」
「そして残りの二本のうちの一つが、あたしが持つ『蒼天牙』。もう一つは『紅鳳の剣』という剣よ」
マルチナが言った。
「あたしがここに来たのは『燐光竜帝剣』を持つ剣士に会うためと、もう一つは『紅鳳の剣』を探すためなの」
「ん、ミラーファってどっかで聞いたような名前だな……」
俺は記憶をたどる。
少しして思い出した。
「そうだ、確か『光竜の遺跡』で──」
──ほう……『紅鳳の剣』に選ばれし騎士か。
そう、ベフィモスがリリィの持つ剣を見て、そう言っていた──。







