9 周囲の感謝
「いくぞ、『燐光竜帝剣』」
俺は愛用の剣に声をかける。
前方には全長五メートルほどの、岩の装甲に覆われた魔獣がいる。
地皇獣。
以前、『光竜の遺跡』で戦ったのと同種のモンスターだった。
「人間が……踏みつぶしてやろう……!」
ベフィモスが近づいてくる。
俺は反射的に周囲を確認した。
+10000の強化をした俺の剣は一撃で空間をも切り裂く超威力を備えている。
だけど、それだけに攻撃範囲が広く、密集地などで使えば多くの巻き添えが出るのだ。
幸い、今は人けのない場所だから問題ないが──。
俺は剣を一閃させた。
ほとばしる衝撃波とともに、ベフィモスが吹き飛ぶ。
「あ、素材……残ってるかな」
もう一つの難点は、よほど頑丈なモンスターじゃないと一撃で消滅させかねないこと。
ベフィモスは硬い装甲に覆われているだけあって、中枢部は無事だった。
「よかった。回収回収、っと」
ついでに強化ポイントも回収しておく。
こちらは+4000も得られた。
「よし、帰ったらギルドのみんなの武器防具を強化しよう」
得られた強化ポイントの半分を、そうやって武器防具の強化に費やすことにしているのだ。
もう半分は俺の武器や防具などの強化に使う。
相変わらずクエストは毎回楽勝で、苦労らしい苦労はまったくなかった。
こんなに順調でいいんだろうか、と思ってしまうほどだ。
「レイン、戻りました」
俺は『青の水晶』に帰ってきた。
とりあえず素材を受付窓口に持っていく。
「あ、お帰りなさい、レインさん~!」
ニーナが嬉しそうに手を振っていた。
帰るなり、いつも笑顔で出迎えてくれる彼女の存在は、俺にとって癒やしになっていた。
「ただいま」
「もう討伐してきたんですか。いつも早いですね」
ニーナが微笑む。
「被害を出さずにベフィモスを倒すことができたよ」
「それはよかったです」
「ってことで、これ素材」
「ありがとうございます」
俺がカウンターに置いたベフィモスの装甲の欠片を受け取るニーナ。
「ベフィモスの体は八割がた吹き飛んだけど、ある程度は残ってる。後で業者を呼んで素材を回収してもらってほしい」
「はい、こちらで手配しますね」
俺の言葉にうなずくニーナ。
「それから、いつもみたいにギルドのみんなの武器防具を強化したいんだ。後でアナウンスを頼めるかな」
「了解です」
「色々手数をかけるな、ニーナ」
「それが私の仕事です」
ニーナがにっこりと言った。
「働き者で偉いよ、ニーナは」
「一番働いているのはレインさんですよ」
と、ニーナ。
「あなたが強力なモンスターを片っ端から討伐しているおかげで、この辺りの住民はみんな助けられています。今までは、強いモンスターが出ると他のギルドに連絡を取ってA級以上の冒険者を派遣してもらったりしていましたから」
「そうか……」
「それにみんなの武器や防具を強くしてもらって、みんなのクエストが捗ったりもしていますし。知っていますか、レインさん。あなたが来てから、うちのギルドのクエスト達成率は倍以上になったんですよ」
「それって、武器や防具が強くなったから……なのか?」
「はい」
ニーナが笑顔でうなずく。
「だから──みんなが感謝しているんです。あなたに」







