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43 進むもの、集うもの

 ヴィクターはローザと共に進み出した。


「巨大な『力』がこっちから湧き出してる……たぶん、最終階層っていう場所なんじゃない?」

「そこまで行く途中にみんなと合流できるだろうか?」

「分からない……でも、他のみんなもそこに向かう可能性は十分あるんじゃない?」

「もともとレインたちに合流することを目指していたし、そうなるな」


 ローザの言葉にうなずくヴィクター。


「あなたの【探索】の魔法が頼りだ。よろしく頼む」

「ええ。とりあえず、あたしから離れないでね」


 言ってローザはヴィクターの手を握った。


「はぐれないように、こうしているから」

「い、いや、しかし……」


 これでは、まるで子供扱いだ。


「ちょっとでも離れたら迷子になるでしょ?」


 言いながら、なぜかローザの顔は少しだけ赤らんでいた。


「?」

「とにかく、手を握って進みましょ? いい?」

「承知した」


 温かな手だった。


 こんな状況だから、余計にそう感じる。


 隣に誰かがいてくれることがありがたい。


 こんな地の底でも――心細い気持ちが薄らぎ、気持ちが和らぐ気がした。




 しばらく進むと、床に大きな穴が開いていた。


「これは……」


 落とし穴、でもなさそうだ。


 いや、よく見ると、穴自体に違和感があった。


「少しずつ穴が広がっている……?」

「違うよ、これ……床が溶けていく感じ。もしかして、侵食されてるんじゃない?」

「侵食――そうか」


 先ほどの怪物……『侵食』がこの『星の心臓』自体を徐々に侵食しているのだとしたら。


「ここ全体が消えてなくなってしまうかもしれない」

「でも、今はこれを利用できるんじゃない?」


 ローザが言った。


「この穴を通れば下に行けそうだし」

「なるほど」


 この場所から、より深い階層まで一気にショートカットできるかもしれない、というわけだ。


「ここに飛び込めば……」


 ヴィクターはゴクリと息を呑んだ。


「あ、でも、さすがにこんなところから降りたら死んじゃうよね……」


 ローザが震えている。


「いや」


 ヴィクターが首を左右に振る。


「私の剣で風を起こし、衝撃を殺せば――おそらく大丈夫だ」

「……けっこう度胸あるよね、ヴィクターさんって」

「むしろ私は臆病者だと自覚しているよ」


 ヴィクターは微笑んだ。


「ジグとリサを救うためにも、先に進んでおきたい」

「……だね」


 二人はうなずき合う。


「で、でも、やっぱり不安だから手をつないでてね」

「分かった」


 おびえるローザの手をヴィクターはしっかりと握った。


「行くぞ」


    ※


「みんな……!」


 ゴルドレッドに追い詰められた俺の前にリリィ、マーガレット、マルチナの三人がそろっていた。


「来てくれたのか――」


 これ以上ないくらいに頼もしい援軍だった。


「こうして、また戦えることを嬉しく思います、レイン様」


 リリィが微笑んだ。


「いきなり追い詰められてるじゃねーか。だらしねーな」


 と、マーガレットが笑う。


「あたしたちが来たからには、もう大丈夫だねっ」


 マルチナは朗らかに叫ぶ。


「……だからなんだというのだ」


 ゴルドレッドが俺たちを冷たい目で見回した。


「味方が増えたところで、しょせん『天の遺産』を持つわけでもない、ただの剣士たちだろう」


 言いながら、十数個の小石を拾う。


 戦いの余波で砕けた床の一部だ。


「伝説級の剣を持つ者もいるようだが、俺の【変化】の前には敵ではない。君たちの誰も――俺のいる場所まで到達はできない」


 言うなり、奴の周囲に緑色の何かが出現した。


「小石を『天星兵団』に『変え』た。星の力を持つ生命体を完全に作り出すことはできないが……これだけそろえれば壁には十分だ」


 緑の戦騎兵――ちょっと前に戦った、あの兵隊たちか。


 ゴルドレッドは床の小石を拾っては新たな『緑の戦騎兵』に変え、また拾っては変え――。


 あっという間に三十体ほどの騎兵を作り出した。


「さすがにポイント消費が激しいから無限に生み出すわけにはいかないが……君たちに対抗するには十分すぎるほどの軍勢だ」


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