表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
224/226

41 【探査】のメリーアン2

「げほっ、げほっ……」


 血の塊を吐き出しながら、リサが立ち上がる。


 が、そのダメージは深刻なようだ。


 両足はふらついているし、顔は真っ青だった。


「――やめろ」


 ヴィクターは二人の間に立ちはだかった。


「何? あんたはリサやジグの味方に回るっていうの?」


 メリーアンが目を細めた。


「保持者を三人も敵に回したくないんだけどなぁ。ねえ、よかったらあたしと組まない? あたしなら」

「目の前で味方を殺そうとした人間を信用できると思うか?」


 ヴィクターは表情を険しくした。


「私は……他者に厳しいタイプではない。他人が敵意や、あるいは侮蔑をなげかけてきても流してしまうタイプだ」

「……? いきなり何の話よ」

「私は他者と争うことが苦手なんだ」


 ヴィクターは言いながら一歩前に出る。


「だが今、私はあなたと敵対しようと考えている」

「……ふうん?」


 メリーアンがさらに目を細める。


 はっきりとした敵意をあらわす表情だ。

 と――、


「【螺旋竜滅弾(らせんりゅうめつだん)】!」


 光り輝く竜の形をした一撃が、横合いから飛んできた。


 リサの放った攻撃だ。


「無駄だって」


 ばしゅんっ。


 次の瞬間、光の竜は消滅してしまう。


「伝説の光竜王(ディグ・ファ・ローゼ)すら一撃で倒せるほどの威力を持つ、大規模破壊型光弾……だっけ、それって? けど、当たらなければ無意味なのよね」


 メリーアンはニヤニヤと笑っている。


 悪意と侮蔑に満ちた笑み――。


「あんたの『天の遺産』は……戦闘には、向いていないって……」


 リサは険しい表情だ。


「はあ? 自分の手の内を何もかもさらすわけないでしょ」


 メリーアンは口の端を歪めて笑った。


「『星の心臓』――その最深部に眠る『大いなる力』を得られるのは、ただ一人。途中で協力することはあっても、最後には自分以外の全てが敵になる――その敵を信頼してどうするのよ?」

「くっ……!」


 リサは無数の光弾を生み出し、放った。


「無駄無駄」


 次の瞬間、メリーアンの姿が消え、ふたたびリサの背後に出現する。


 どんっ!


 放たれた光弾がリサを貫いた。


「あ……があ……っ……」


 呆然とした顔で目を見開くリサ。


「ど、どうして、あたしの【魔弾】が……あたし自身を……」

「未来はあたしの味方。教えてあげられるのは、それだけよ」


 返り血に染まりながら、メリーアンが楽しげに笑う。


 どさり。


 リサは声もなく倒れた。


「あなたの未来はここで途切れる。じゃあね」


 言うなり、メリーアンは背を向けた。


「ヴィクターとローザ……だったよね? あなたたちも向かってくる? できれば戦いたくないんだけど。余計な消耗は避けたいからね」

「――あなたの目的はなんだ」


 ヴィクターは剣を構えた。


 相手は得体の知れない能力を持っている。


 単純に過去や未来を見るだけではないのだろう。


 でなければ、リサがああも簡単に敗れた意味が分からない。


「余計な消耗は避けたい、って今言ったでしょ? あたしはあなたたちと争う気はないの。あたしの邪魔をしないなら、ね」


 メリーアンが肩をすくめる。


「目的は……ごく個人的なことよ。誰もがそうでしょう? 大いなる力を得て、世界平和でも願うっていうの? あたしは聖人君子じゃない。俗っぽいただの人間」

「……そうだな。私も仲間の――友の力になりたいという個人的な動機で、前に進んでいる」


 ヴィクターが言った。


 その周囲にいくつもの分身を生み出し、備える。


 メリーアンの、正体不明の能力に。


「もう一度、さっきの『第三術式』とやらを使うか、メリーアン」


 メリーアンは無言でヴィクターを見据える。


 互いの間に張り詰めた空気が流れた。


 彼女の【探査】は未来を見ることができる。


 これから起きる出来事を、まさに『探査』できるわけだ。


 だが、それだけではリサが傷を受けた理由が説明できない。


 何か別の能力があるのか?


 それとも――。



(未来ではなく、もっと別のものも見ることができる……!?)


 だとすれば、それは何か。


 と、そのときだった。


「んー……やめておこうかな」


 突然、メリーアンが踵を返した。


「なるべく消耗したくないし、手の内も見せたくないし」

「…………」

「それに、あんたたちは――あたしの敵じゃない。無駄な戦いは避ける主義なの」


 振り返ったメリーアンがニヤリとした。


「そっちの二人はそれなりに手ごわいから、そろそろ脱落してもらおうと思ったけど、ね」


 言って、もう一度背を向けるメリーアン。


「じゃあ、そろそろ行くね。ジグが【侵食】を『止め』てくれたおかげで楽に進める。やっぱり持つべきものは『仲間』よね」


 去っていく彼女を、ヴィクターは追えなかった。


 ここで倒しておくべき相手だったのかもしれない。


 ここで倒さなければ、大きな禍根になった相手かもしれない。


 だが、動けなかった。


 得体の知れない彼女の能力に、恐怖を覚えていた。


 自分は、しょせん戦士としては三流だ。


 恐怖に、呑まれていたのだ。


 それが情けない――。


「私は……」


 敗北感に打ちのめされ、ヴィクターはうつむいた。




「さ、最後に……君に、頼みたいことがある」




 ふいに、ジグが声をかけてきた。


「えっ……?」


 驚いて振り返る。


 今、『最後』と言ったのか……!?


【お知らせ×2】

・コミック18巻、本日発売です! 広告下の画像から各種通販リンクが載っている公式ページに飛べますので、よろしくお願いします~!


・新作ラノベ『死亡ルート確定の悪役貴族~』(エンターブレイン刊)2巻が発売中&コミカライズ企画進行中です! こちらもよろしくお願いします~!

広告下の書影から公式ページにジャンプできます~!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑の☆☆☆☆☆評価欄↑をポチっと押して
★★★★★にしていただけると作者への応援となります!


執筆の励みになりますので、ぜひよろしくお願いします!


▼書籍版2巻がKADOKAWAエンターブレイン様から6/30発売です! 全編書き下ろしとなっておりますので、ぜひ!(画像クリックで公式ページに飛べます)▼



ifc7gdbwfoad8i8e1wlug9akh561_vc1_1d1_1xq_1e3fq.jpg

▼なろう版『死亡ルート確定の悪役貴族』はこちら!▼



▼カクヨムでの新作です! ★やフォローで応援いただけると嬉しいです~!▼

敵国で最強の黒騎士皇子に転生した僕は、美しい姉皇女に溺愛され、五種の魔眼で戦場を無双する。






▼書籍版2巻、発売中です!▼



ifc7gdbwfoad8i8e1wlug9akh561_vc1_1d1_1xq_1e3fq.jpg

コミック最新18巻、11/7発売です!

4e8v76xz7t98dtiqiv43f6bt88d2_9ku_a7_ei_11hs.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ