41 【探査】のメリーアン2
「げほっ、げほっ……」
血の塊を吐き出しながら、リサが立ち上がる。
が、そのダメージは深刻なようだ。
両足はふらついているし、顔は真っ青だった。
「――やめろ」
ヴィクターは二人の間に立ちはだかった。
「何? あんたはリサやジグの味方に回るっていうの?」
メリーアンが目を細めた。
「保持者を三人も敵に回したくないんだけどなぁ。ねえ、よかったらあたしと組まない? あたしなら」
「目の前で味方を殺そうとした人間を信用できると思うか?」
ヴィクターは表情を険しくした。
「私は……他者に厳しいタイプではない。他人が敵意や、あるいは侮蔑をなげかけてきても流してしまうタイプだ」
「……? いきなり何の話よ」
「私は他者と争うことが苦手なんだ」
ヴィクターは言いながら一歩前に出る。
「だが今、私はあなたと敵対しようと考えている」
「……ふうん?」
メリーアンがさらに目を細める。
はっきりとした敵意をあらわす表情だ。
と――、
「【螺旋竜滅弾】!」
光り輝く竜の形をした一撃が、横合いから飛んできた。
リサの放った攻撃だ。
「無駄だって」
ばしゅんっ。
次の瞬間、光の竜は消滅してしまう。
「伝説の光竜王すら一撃で倒せるほどの威力を持つ、大規模破壊型光弾……だっけ、それって? けど、当たらなければ無意味なのよね」
メリーアンはニヤニヤと笑っている。
悪意と侮蔑に満ちた笑み――。
「あんたの『天の遺産』は……戦闘には、向いていないって……」
リサは険しい表情だ。
「はあ? 自分の手の内を何もかもさらすわけないでしょ」
メリーアンは口の端を歪めて笑った。
「『星の心臓』――その最深部に眠る『大いなる力』を得られるのは、ただ一人。途中で協力することはあっても、最後には自分以外の全てが敵になる――その敵を信頼してどうするのよ?」
「くっ……!」
リサは無数の光弾を生み出し、放った。
「無駄無駄」
次の瞬間、メリーアンの姿が消え、ふたたびリサの背後に出現する。
どんっ!
放たれた光弾がリサを貫いた。
「あ……があ……っ……」
呆然とした顔で目を見開くリサ。
「ど、どうして、あたしの【魔弾】が……あたし自身を……」
「未来はあたしの味方。教えてあげられるのは、それだけよ」
返り血に染まりながら、メリーアンが楽しげに笑う。
どさり。
リサは声もなく倒れた。
「あなたの未来はここで途切れる。じゃあね」
言うなり、メリーアンは背を向けた。
「ヴィクターとローザ……だったよね? あなたたちも向かってくる? できれば戦いたくないんだけど。余計な消耗は避けたいからね」
「――あなたの目的はなんだ」
ヴィクターは剣を構えた。
相手は得体の知れない能力を持っている。
単純に過去や未来を見るだけではないのだろう。
でなければ、リサがああも簡単に敗れた意味が分からない。
「余計な消耗は避けたい、って今言ったでしょ? あたしはあなたたちと争う気はないの。あたしの邪魔をしないなら、ね」
メリーアンが肩をすくめる。
「目的は……ごく個人的なことよ。誰もがそうでしょう? 大いなる力を得て、世界平和でも願うっていうの? あたしは聖人君子じゃない。俗っぽいただの人間」
「……そうだな。私も仲間の――友の力になりたいという個人的な動機で、前に進んでいる」
ヴィクターが言った。
その周囲にいくつもの分身を生み出し、備える。
メリーアンの、正体不明の能力に。
「もう一度、さっきの『第三術式』とやらを使うか、メリーアン」
メリーアンは無言でヴィクターを見据える。
互いの間に張り詰めた空気が流れた。
彼女の【探査】は未来を見ることができる。
これから起きる出来事を、まさに『探査』できるわけだ。
だが、それだけではリサが傷を受けた理由が説明できない。
何か別の能力があるのか?
それとも――。
(未来ではなく、もっと別のものも見ることができる……!?)
だとすれば、それは何か。
と、そのときだった。
「んー……やめておこうかな」
突然、メリーアンが踵を返した。
「なるべく消耗したくないし、手の内も見せたくないし」
「…………」
「それに、あんたたちは――あたしの敵じゃない。無駄な戦いは避ける主義なの」
振り返ったメリーアンがニヤリとした。
「そっちの二人はそれなりに手ごわいから、そろそろ脱落してもらおうと思ったけど、ね」
言って、もう一度背を向けるメリーアン。
「じゃあ、そろそろ行くね。ジグが【侵食】を『止め』てくれたおかげで楽に進める。やっぱり持つべきものは『仲間』よね」
去っていく彼女を、ヴィクターは追えなかった。
ここで倒しておくべき相手だったのかもしれない。
ここで倒さなければ、大きな禍根になった相手かもしれない。
だが、動けなかった。
得体の知れない彼女の能力に、恐怖を覚えていた。
自分は、しょせん戦士としては三流だ。
恐怖に、呑まれていたのだ。
それが情けない――。
「私は……」
敗北感に打ちのめされ、ヴィクターはうつむいた。
「さ、最後に……君に、頼みたいことがある」
ふいに、ジグが声をかけてきた。
「えっ……?」
驚いて振り返る。
今、『最後』と言ったのか……!?
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