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39 ジグ、決意の術式

 ジグが【侵食】に向かっていく。


 ゆっくりと、覚悟を決めた顔で。


 一方の【侵食】はモヤ状の体でたゆたっているだけだ。


「接近するのは危険そうだな……遠距離から【停止】をかけることはできないのか?」


 ヴィクターがリサにたずねた。


「できるぞ。だけど、直接手で触れるのが一番効果が高い」


 と説明するリサ。


「ジグは最大効果の【停止】をかけるつもりだと思う……」


 一人で進んでいくジグを見つめ、つぶやく。


「ならば、私たちはそこまでの援護が仕事だな」


 ヴィクターが即断する。


「リサは【魔弾】で援護をお願いする」

「……分かった。ジグを頼む」


 リサがヴィクターをまっすぐに見つめた。


 その瞳に宿る真摯な光は、ジグへの想いに満ちているように感じた。


 やはり――大切な仲間ということなのだろう。


「全力を尽くす」


 力強くうなずくヴィクター。


「あたしも【探査】で敵の動きを解析するね」


 メリーアンが言った。


「私は……力になれないかも」


 ローザが申し訳なさそうな顔をする。


「ヴェルテミスの爪のことに気づいてくれただけで十分だ。ここからは任せてほしい」


 ヴィクターは彼女に微笑み、ジグのところまで進んだ。


「……なんだ、ついてきたのか」

「護衛だ。このメンバーの中で近接戦闘能力が一番高いのは私だろう?」


 もちろん『翠風の爪(ローゼリア)』の能力込みの話だが。


「ジグは隙を見て【停止】を」

「僕一人でいいのに」


 ジグは眉をひそめた。


「危険だよ」

「心配してくれているのか?」

「……無駄な死人を増やしても仕方ないだろ」


 ヴィクターの問いに、ジグはフンと鼻を鳴らした。


「つまり心配してくれているわけだ」

「だ、誰が……っ」


 たちまち顔を赤らめるジグ。


「こんなときまでツンデレ……」


 後方でリサのつぶやきが聞こえた。




 うおおおおおんっ……!




 その瞬間、不気味な咆哮が響き渡った。


 いや、それが生物における声なのか、それとも【侵食】が鳴動した音に過ぎないのかは、分からない。


 そもそも、目の前の怪物が生命体なのかどうかすら分からないのだから。


 ただ、それが攻撃の合図になったかのように、黒いモヤから無数の触手が繰り出された。


 黒いモヤが収束し、物質化したもののようだ。


 数十本単位のそれらがジグとヴィクターに向かってくる。


「楽しい歓談はここまでのようだ」


 ヴィクターが剣を構える。


「別に楽しんでないけど」

「私が守る! ジグは隙を見て【停止】を!」


 ごうっ!


 言うなりヴィクターは剣を旋回させ、衝撃波を放った。


 触手群と衝撃波が衝突し、


 ヴンッ!


 衝撃波が跡形もなく消える。


 おそらく――飲みこまれたのだろう。


 さらに何発か撃ってみるが、結果は同じだった。


「あの触手も本体と同じように『飲み込む』能力があるのか……」


 ヴィクターはうめいた。


「なら、それ自体を『止め』るだけだ」


 ジグが両手を伸ばした。


 ヴンッ!


 その手から放たれた閃光が黒い触手群を打ち据える。


 同時に、蛇のようにうねる触手群がまとめて凍り付いたように動きを止めた。


「これは――」


 ジグの【停止】がここまで強力だとは。


 いや、もしかしたら以前よりも能力が上がっているのか……?


 ともあれ、彼の『天の遺産』によって【侵食】の動きはことごとく止まっていく。


 その間にジグとヴィクターは前進した。


 時折、触手が蠢くと、そのたびにジグが【停止】をかけ直し、それを止める。


 また別の触手が蠢いても即座に『止め』る。


 その繰り返しで徐々に本体らしき部分まで近づいていく。


「いける……か?」


 つぶやいたジグの顔は、しかし青ざめていた。


 呼吸が荒くなってきている。


「ジグ……?」


 単純な疲労ではない。


 まるで――彼の中の何かが抜け落ちていくように、生気そのものが失せているように見えた。


「……大丈夫か?」

「はあ、はあ、はあ……も、問題ないさ……このまま近づくぞ」


 ジグの息がさらに上がる。


「ち、ちょっと、あんた、力を使いすぎだぞ……っ」


 背後からリサが言った。


「ポイントを出し惜しみせずにつぎ込んでいるだけさ。【停止】の出力を限界まで上げている――」


 ジグは振り返らずに言った。


「思ったより体への反動がきついけどね……」

「駄目! それじゃ、あんたの体は――!」


 リサが叫んだ。


「生命維持ぎりぎりの状態の……くせに……っ」

「リサ……?」


 ヴィクターは思わず振り返った。


 リサは今にも泣きだしそうな顔だった。


「行くぞ、ヴィクター。もう少しで本体までたどり着く」


 それでも、ジグは止まらなかった。




 そして――ついに本体部分の前までたどり着く。




「『止まれ』!」


 ジグが【侵食】にギリギリまで接近したところで【停止】を発動する。


 ずんっ――!


 無形の圧力か、不可視のエネルギーか……ともかく、なんらかの『力』が働いて、黒いモヤ全体が停止した。


「やった……か?」


 ヴィクターは【侵食】の動きを注視する。


 ずずずず……ずっ!


 激しく振動する【侵食】。


 だが、止まったのはしばらくの間だけだった。


 ふたたび黒いモヤは全身を震わせて、活動を開始する。


 先ほどまでよりは格段に速度が低下しているが、それでも止まってはいない。


 止めることができない――。


「……だろうね。そんな甘い相手じゃないことは分かってるさ」


 ジグがうめいた。


「だからこそ、これで――」


 ふたたび両手を突き出す。


「【支配の紋章】を起動。既定のポイントを消費し、停止・第四術式を発動する――」


 告げると同時に、彼の額に輝く紋章が浮かび上がった。


「【多重停止】!」


 ふたたび【停止】を発動する。


【侵食】の動きが止まる。


 それでも、また動き出し――。


 さらに、止まる。


 まさに術名の通りの『多重停止』だ。


 動くたびに止め、また動くたびに止める。


 永遠に、止め続ける――。


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