表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

221/222

38 すべてを飲み込み、絶望をもたらすもの

 そして――そいつは唐突に現れる。


 黒いモヤのような何かだった。


「なんだ、こいつは……!?」


 ヴィクターは眉をひそめた。


 ただの自然現象などではない。


 絶対に、ない。


 本能がそう告げていた。


 これは――もっと恐ろしくて。


 もっと絶望的な何かだ――。


「久しぶりだぞ……【侵食】」


 リサがうめいた。


「研究所が壊滅したとき以来、五年ぶりか」


「できれば【最終階層】で力を得てから会いたかったね……」


 ジグもうめいた。


「【侵食】の本体は星の中心部に封じられているはず……こいつは、たぶんその端末ね」


 メリーアンが言った。


「とはいえ、その能力は本体と大して変わらない。まともに立ち向かえば消滅は免れない……」

「……よく分からないが、超強力なモンスターと考えればいいのか、あれは?」


 ヴィクターがリサたちにたずねる。


「簡単に言えば、そう」


 リサがうなずいた。


「ただ、その能力は『超強力』どころじゃない。国そのものを消し去るレベルだぞ」

「すべてを飲み込み、すべてを奪う――それが奴の力だ」


 ジグが言った。


「僕とリサも、それぞれ奪われている……未来を」

「奪われてない。一時的に取られただけ」


 リサが訂正した。


「あたしとジグは必ず未来を取り戻す――だから、こんなところでやられるわけにはいかない」


 と、


「……ふん」


 ヴェルテミスがこちらを見た。


「お前たちは中々有望だ。こんなところで【侵食】に飲みこまれるのは惜しい――」

「えっ……?」

「先に行け。こいつは我が抑えよう」


 言って、ヴェルテミスは黒いモヤに向かっていく。


「はあっ!」


 気合いの声と共に輝く光球を次々に撃ち出した。


【魔弾】だ。


 しかし、それらの光球は次々にモヤの中に呑まれていく。


「効かない――」

「奴はすべてを飲みこむんだ」


 リサが言った。


「ただ……たぶん、まったく効かないわけじゃない」


 と、ジグ。


「リサが受けた奴の爪痕は――僕の【停止】である程度は『止め』ることができた」

「爪痕……?」

「……なんでもない」


 ジグの表情が歪む。


 おそらく、彼らは【侵食】絡みで何かを背負っているんだろう。


 先ほど『未来を取り戻す』と言っていたことと関係があるのかもしれない。


 ただ、それは自分が無遠慮に聞き出していい話でもなさそうだ。


「私たちが総攻撃をすれば、あの【侵食】を倒せると思うか?」


 ヴィクターは話を戻した。


「倒せるかどうかは分からないけど……思いついたことが一つある」


 ジグが言った。


「さっきヴェルテミス相手に試そうと思った新しい戦法なんだけど――」

「新しい……戦法?」


 たずねるヴィクターにジグはうなずく。


「動きを『止め』た状態で、さらに『止め』るとどうなるか――僕も試したことはないが……今ならできる気がするんだ」


 ジグはリサに視線を移した。


「『天の遺産』の能力や効果は使い手の精神力によって――心の在り方によって、大きく左右されるとゴルドレッドは言っていた。今の僕の『心』なら使える」

「ジグ……?」

「君を、守るために――こいつに出会った今、僕の精神はあの時に立ち戻っている。だから、今なら――君を、君だけは守ると願った、あのときのように――」

「ジグ……? あんた、何を……!?」


 驚いたように目を見開くリサ。


「まさか、あんた――」


 と、そのときだった。


「ぐっ、ここまで……か……」


 黒いモヤに飲みこまれたヴェルテミスは、そのまま光の粒子となって霧散した。


 あっさりと――信じられないほど簡単に。


『天星兵団』のヴェルテミスは消滅した。


「やっぱり、あいつの力は半端じゃない。やるか、やられるか……そういう戦い方をするしかない」


 ジグがうめいた。


「……もしもの時は、リサを頼むよ」


 言って、ジグは前に出る。


「もしもって何よ!? 急に変なことを言わないで!」


 リサが叫んだ。


「仕方がないんだ……こんな場所で【侵食】に襲われるのは想定外。せめて君だけでも――」


 ジグが振り返る。


「僕に『ジグ』という名前をくれて、友だちになってくれた君のために」

「ち、ちょっと……待っ」

「行くぞ、【侵食】――!」


 ジグは走り出した。


 ふいに――ヴィクターの胸に不吉な予感が走り抜ける。


 側に居るローザを、さらにリサとメリーアンを、さらに走っていくジグの後ろ姿を見つめる。


 そして前方の黒い巨大なモヤを。


 あの【侵食】を前にしていると、どうしようもないほどの絶望を感じてしまう。


 まるで、自分の大切なものがすべてのみ込まれてしまうのではないか、と。


 絶望の未来の予感を、どうしようもないほどに――感じてしまうのだ。


【お知らせ×2】

・コミック17巻、本日発売です! 広告下の画像から各種通販リンクが載っている公式ページに飛べますので、よろしくお願いします~!


・新作ラノベ『死亡ルート確定の悪役貴族~』(エンターブレイン刊)2巻が発売中&コミカライズ企画進行中です! こちらもよろしくお願いします~!

広告下の書影から公式ページにジャンプできます~!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑の☆☆☆☆☆評価欄↑をポチっと押して
★★★★★にしていただけると作者への応援となります!


執筆の励みになりますので、ぜひよろしくお願いします!


▼書籍版2巻がKADOKAWAエンターブレイン様から6/30発売です! 全編書き下ろしとなっておりますので、ぜひ!(画像クリックで公式ページに飛べます)▼



ifc7gdbwfoad8i8e1wlug9akh561_vc1_1d1_1xq_1e3fq.jpg

▼なろう版『死亡ルート確定の悪役貴族』はこちら!▼



▼カクヨムでの新作です! ★やフォローで応援いただけると嬉しいです~!▼

敵国で最強の黒騎士皇子に転生した僕は、美しい姉皇女に溺愛され、五種の魔眼で戦場を無双する。






▼書籍版2巻、発売中です!▼



ifc7gdbwfoad8i8e1wlug9akh561_vc1_1d1_1xq_1e3fq.jpg

コミック最新17巻、10/9発売です!

4e8v76xz7t98dtiqiv43f6bt88d2_9ku_a7_ei_11hs.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ