37 未来を切り開く戦士たち
戦いは一進一退だった。
「強い――」
こちらは保持者が四人もそろっているというのに、ヴェルテミスの防御をなかなか崩せない。
同時に複数の『天の遺産』を使い、巧みなコンビネーションでヴィクターたちの攻撃を寄せ付けない。
それどころか向こうの反撃を受け、じりじりと押し込まれている。
「どうした? そんな程度でこの先に進もうなど――笑止!」
ヴェルテミスが右手を振り上げる。
ちかっ……。
何かが光るのが分かった。
「なんだ……!?」
思わず身構えるヴィクター。
そういえば、先ほども攻撃の時にこんな輝きを見たような気がする――。
と思った瞬間、ヴェルテミスから光の玉が飛んできた。
【魔弾】による攻撃だ。
「くっ……」
ヴィクターは【幻惑】で分身を生み出し、【魔弾】にぶつける。
囮だ。
だが【魔弾】はその分身を貫通して、そのまま突き進んできた。
囮に気づき、こちらの本体を狙撃するために、目標以外は貫通するタイプの弾を撃ってきたらしい。
「まだまだ」
さらにヴェルテミスは数発の【魔弾】を放つ。
こちらの対処を上回る飽和攻撃を仕掛けようというのか――。
と、
「ローザ!」
ヴィクターは叫んだ。
そのうちの一発が後方で待機している彼女に向かっていくのが見えたのだ。
「ちいっ……」
ヴィクターは前衛の位置から下がり、彼女の元へ向かった。
『翠風の爪』による超加速で、一気にローザとの距離を詰める。
さらに【幻惑】で無数の幻影を生み出して盾代わりにした。
「がっ!?」
それでも攻撃を防ぎきれず、ヴィクターは傷を負う。
「ヴィクターさん……!」
ローザが表情を歪めた。
「怪我はないか」
ヴィクターがローザに声をかける。
「私より、ヴィクターさんが……」
「問題ない……」
言って、ヴィクターは苦笑した。
「多少痛いが」
「……ごめんね。私は治癒魔法を使えないから……」
「いや、怪我をしたのは私の不覚だ。あなたが謝る必要はないだろう」
ヴィクターが笑う。
「【停止】」
と、ジグがヴィクターの負傷箇所に手をかざした。
「む……?」
とたんに出血が止まる。
「傷口の出血を『止め』た。応急処置だよ」
と、ジグ。
「感謝する。優しいな、君は」
「っ……!? な、何言ってるんだ! 今は一時的に共闘しているし、戦力保持のためだからな! それだけだからな!」
「またツンデレになってるぞ、ジグ」
リサがツッコミを入れる。
「あの……敵の攻撃に合わせて【探索】の魔法を使って、何かヒントをつかめないかと思って――一つ気付いたんだけど」
ローザが言った。
「あの女は攻撃するときに爪が光るみたい」
「爪……?」
言われて、ヴィクターはハッと思い出す。
確かに攻撃の一瞬前、ヴェルテミスの爪が発光していた。
「能力を使う時にそれぞれ光ってるみたい。たぶん能力の種類ごとに違う爪が……発動の少し前に」
「それを見分ければ、奴の行動を先読みできるか」
うなずくヴィクター。
「……たぶん、向こうはそれを弱点だと自覚していて……だから、基本的にあたしたちの攻撃に対してカウンターを仕掛けている」
とメリーアン。
「なら、話は簡単。向こうに先に攻撃させればいいんだぞ」
リサが言った。
「言うほど簡単か?」
ジグがツッコんだ。
「ともあれ、爪の発光で攻撃の種類を見分けられるのはありがたい。助かるよ、ローザ」
ヴィクターは彼女に礼を言った。
『天の遺産』保持者だけが戦闘面で活躍できるわけではない。
ちょっとした気づきだが、それは立派に彼女のお手柄だ。
「適材適所でしょ?」
「ああ」
ローザが悪戯っぽく笑い、ヴィクターも同意した。
そして――決着の攻防が始まる。
「見えた! 次は【魔弾】よ!」
「なら、僕が『止め』る!」
ジグが両手を突き出す。
「むっ!?」
ヴェルテミスが戸惑ったような声を上げた。
「【魔弾】が発動しない――先読みされたのか……!?」
「いっけぇぇぇぇぇっ!」
その一瞬の隙を突き、リサが【魔弾】を放った。
「ならば、それを『止め』るまでだ――むっ!?」
またも戸惑うヴェルテミス。
そう、今のリサの言葉はフェイク。
放たれた【魔弾】はヴィクターが作り出した幻像だ。
「しまっ――」
「こっちが本命だぞ」
リサが右手を突き出した。
しゅうううう……んっ!
そこに光の粒子が集まっていく。
「【魔弾】第三術式起動――33万3333ポイント消費を承認」
リサの右手に光の竜が出現する。
「大量のポイント消費は痛いけど、これで――【螺旋竜滅弾】!」
くおおおおおおおんっ……!
光の竜は咆哮を上げ、体をくねらせながら、ヴェルテミスへと突き進む――。
――ばしゅんっ。
その瞬間、光の竜がいきなり消滅した。
「何……!?」
ヴィクターたちがいっせいに驚きの声を上げる。
「まさか、未来が変わる――何、こいつは……!?」
そんな中、メリーアンが表情をこわばらせている。
次の瞬間、前方に黒い何かが染み出すようにして現れた。
「あ……あああ……ああ……」
リサとジグがうめく。
「『奴』か――」
ヴェルテミスがその『黒』をにらみつけた。
黒い染みはどこまでも広がっていき、周囲全体を飲みこむような勢いだった。
「なんだ、いったい――」
ヴィクターは全身の震えが止まらなかった。
本能が警告している。
逃げろ、と。
だが、両足がその場に張り付いたように動けない。
完全に、恐怖に呑まれていた。
「何が、現れるというんだ――」
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