36 VS赤の魔導師ヴェルテミス2
「ふん、調子に乗っていられるのも今のうちだぞ」
リサが鼻を鳴らした。
「相殺できるということは……裏を返せば、僕らにも同じことができるってことだ」
ジグが淡々と告げる。
強大な未知の敵が相手でも、二人とも恐れる素振りも、慌てる素振りもない。
強いな、と感心する。
こちらはこみ上げる不安や恐怖を抑え込むのに苦労しているというのに――。
と、
「むしろ感謝するよ。【停止】に【停止】をぶつけることで相殺できるなんて知らなかった。こればっかりは一人では試せない――」
言いかけて、ジグはハッとした顔になった。
「いや、待てよ……一人でも……」
何かに気づいたようにブツブツとつぶやく。
「強がりか? 自分たちの力が絶対だとうぬぼれていたか?」
ヴェルテミスは自信に満ちあふれた様子で言った。
自分は絶対的な強者なのだと言いたげな態度だ。
「己の能力を封じられてなお、未来を切り開けるのかどうか……お前たちに求めるものは、それだ」
「未来を――」
リサとジグが真剣な顔になってつぶやく。
「……未来、ねぇ」
一方のメリーアンは渋い表情をした。
「うーん……」
「どうした?」
ヴィクターがたずねる。
「ざっと七つの未来を【探査】してみたけど……全部、あたしたちの全滅エンドなのよねぇ」
「七つの未来……?」
彼女が持つ『天の遺産』は【探査】だ。
先ほどヴィクターと交戦していたとき、その能力のバリエーションで未来を【探査】していた。
実質的に、未来予知のようなものなのだろう。
「そ。あたしの【探査】で読み取った未来。ただね――未来っていうのは不確定なの」
メリーアンが説明する。
「あたしが一回の【探査】で見いだせるのは、一種類の未来だけ」
「私の動きを読んだときは、その通りに的中させていたな」
と、先ほどの戦いを思い起こしながら、ヴィクターが確認する。
「『次の動きを読む』くらいの単純なものなら高精度で的中できる。でも、今回みたいにいくつもの要素が絡む未来は、いろんなパターンがあるわけ」
メリーアンがさらに説明する。
「的中させるのは難しいのよねぇ」
「ねえ、何十回も未来を読んで、最適な戦術を探せばいいんじゃない?」
と、ローザがたずねた。
「…………」
メリーアンは沈黙した。
渋い顔だ。
「ん?」
「手の内をあんまり晒したくないけど……まあ、言っちゃうか」
メリーアンはため息をつき。
「【探査】には回数制限があるのよねぇ。『天の遺産』を使用するためには『ポイント』というのを消費する。保持者によって魔力や体力、精神力をもとにしたものだったり、元になるものが微妙に違ったりするけど――とにかく無制限には使えない」
「じゃあ、何十回も使うのは無理ということ……?」
「正直、今ので十回くらい未来を読んだけど、これで手いっぱいね」
言いながらメリーアンの瞳がぎらつく。
どことなく嘘を言っているような雰囲気があった。
もしかしたら、これも駆け引きなのかもしれない。
回数制限があるように見せかけて、本当はないのか。
回数制限が厳しいように見せかけて、案外そうでもないのか。
あるいは、そう思わせるところまでが相手の狙いで、本当に回数制限が厳しいのか――。
ともあれ、確証がない以上、読み合いは無意味だった。
裏を読み、裏の裏を読み、裏の裏の裏を――と無限に続くだけだ。
「とりあえず共闘がベターだと思うよ」
「私は異存ない」
うなずくヴィクター。
「私はそもそも戦闘能力がほとんどないけど……賛成」
と、ローザ。
「全員でかかるしかなさそうだぞ」
「だね」
リサとジグも同意した。
「そうだ、全員まとめてかかってこい」
ヴェルテミスが言った。
「我を倒し、先へ進むだけの力を証明してみせよ」
「……まるで倒されたがっているようだな、あなたは」
ヴィクターがヴェルテミスを見据える。
「その通りだ。我は星の分身であり、星の意思の一部――この星を救える者を欲している」
ヴェルテミスがうなずいた。
その瞳に宿る光が温かく、優しいものであることに、ヴィクターは気づいた。
「どうか、この星を救ってほしい。だからこそ、我に勝てるだけの力を示すのだ。保持者たちよ」
「星を救う……か」
ヴィクターがつぶやく。
そんな大それたことを言われても、実感がわかないのが正直なところだった。
自分はもともとレインの力になるために、ここに来たのだ。
だが――、
「私には私の目的がある。その延長線上に、この星を救うための戦いがあるならば――私にできることを尽くすだけだ」
と、剣を構えるヴィクター。
「あたしたちも同じだぞ。あくまでも目的は個人的なこと」
「けれど、それを叶える過程で星を救えるなら救ってやるさ」
リサとジグが言った。
「いくら『願い』が叶ったとしても……住むべき星がなくなってしまったら、どうにもならないからね」
「……ノーコメントで」
メリーアンが微笑む。
「私は……そもそも蚊帳の外っぽいので」
苦笑するローザ。
「けれど、仲間のために力を尽くしたいかな」
「ふん。志がどこにあろうと、最終的にこの星を救うという目的を果たしてくれるなら、なんでもいい」
ヴェルテミスが言った。
「前衛はヴィクター……あんたに任せるぞ」
リサが言った。
「ああ、【幻惑】を駆使して敵の攻撃を凌ぎつつ、隙があれば反撃を試みる」
「あたしは後衛から【魔弾】で援護。ジグは【停止】で敵の攻撃をできるだけ無効化。メリーアンは【探査】で敵の隙を探って」
「了解」
「まあ、妥当な役回りよねぇ」
うなずくジグとメリーアン。
そして――。
「…………」
「ち、ちょっと、私にも何か言ってよ!?」
ローザが汗ジトになりながら叫んだ。
「いや、あなたは基本的にサポート要員だ。今回は下がっていてもらった方がいい」
と、ヴィクター。
「さあ――始めよう」
そして、戦いが始まった。
それぞれの未来を、切り開くための戦いが。
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