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34 宿命の対峙へ

「高位魔族だと」


 ディータは突然現れた女魔族をにらんだ。


 ――油断はできない。


 先ほどの【緑の戦騎兵】よりも、一見ひょうひょうとしているこの女魔族から受ける威圧感の方が上だ。


「シリル」

「――いつでも」


 呼びかけると、頼もしい相棒にして戦友は小さくうなずいた。


 いざとなれば【破壊】と【転移】の連携で即座に倒す。


 ただし、まずは情報収集が先だろう。


 なぜ、この魔族は『星の心臓』にいるのか――。


「情報収集が先よねぇ。お互いに」


 ディータとまったく同じことを考えていたらしく、リッツェラが笑った。


「あたしはね、何者かに呼ばれたんだよ。ここにねぇ」


 と、リッツェラ。


「おおかた、あんたらも同じでしょ?」

「――そうだ」


 ディータはうなずいた。


「あたしは他の高位魔族たちと次期魔王になるための争いをしているの」


 リッツェラが言った。


「ここに来たのはそのための『力』を得るためさ。他の連中もここに呼ばれてるみたいだし競争だね」


 競争――か。


 ディータは内心でつぶやいた。


 自分たちが保持者同士で競争状態なのと同じく、魔族もまた『力』を得るために争っているようだ。


「ヅィレドゥルゾはそう遠くない場所にいるわね。メトラムは――気配がないところを見ると、ここには来ていないのか」


 彼女が周囲を見回す。


 どうやら同じ魔族の気配を探る能力を持っているようだ。


 あるいは魔法のたぐいか。


「まあ、いっか。新たな魔王になるのは、このあたし――その前に、まずはあなたたちを殺しておこうかねぇ」


 チロリ、と舌を出して唇を舐めるリッツェラ。


「殺す? 君が、私たちを?」


 ディータは冷然と彼女を見据えた。


「不可能だ」

「大した自信だね」

「確信さ。高位魔族であろうと――いや、たとえ魔王であろうと、私とシリルの前では敵じゃない」

「そういうことですね~。あたしたち、強いですよ?」


 微笑むシリル。


「さあ、【破壊】してやる――」


 静かに告げたディータの声が、開戦の合図となった。




 ――だが。




「……っ!」


 ディータはわずかに顔をしかめた。


「すべてを破壊する力とはいえ、当たらなければ意味がないわよ」


 リッツェラが笑う。


 彼女の動きは異常な速度だった。


 先ほどからディータの攻撃がまったく命中しない。


 しかも魔法によってシリルのような空間転移を使えるらしく、ディータの【破壊】は先ほどから空を切ってばかりだ。


「……少し見くびっていたか」


 ディータはため息をついた。


「非礼を詫びよう。君の力は、私の見立てよりも強い」

「ディータはキチンと謝れる女王様なんですよね」


 シリルが悪戯っぽく笑う。


「へえ? あなた、女王なの」


 リッツェラが興味深そうにディータを見つめた。


「いずれ『王』になるあたしと、女王のあなた……なかなか面白い取り合わせじゃない」

「面白くはならないさ」


 キィィィィ……ンッ。


 甲高い金属音に似た音が響き渡る。


 同時に、ディータの額に紋章が浮かび上がった。


 王冠を模した輝く紋章だ。


「それは――」

「この紋章は私の力を増大・加速させる」


 ディータが凛とした表情で告げた。


「【支配の紋章】を発動。術式を加速(ブースト)――」




 がおんっ!




 繰り出された一撃は、普段のような直線的な攻撃ではなく――。


 ディータの周辺全てを【破壊】した。


「っ……!?」


 それに巻き込まれたリッツェラは一瞬にして塵になり、消滅する。


「うわー……ひさびさに見たけど、やっぱりすごいですね」

「ふうっ……」


 ディータは大きく息を吐き出し、紋章を消した。


「あまり使いたくはない」


 使用したのはせいぜい数秒――。


 それだけで全身にびっしょり汗をかき、体力も精神力も大幅に消耗していた。


 消耗が激しいのが、この紋章の力の大きな欠点だ。


 しかも、それだけではない。


「代償を伴うからな……」


 ディータの表情は険しい。


 自分の中の何かが変質していく感覚があった。


 この力を長時間使うのは危険だ。


 自分が、自分でなくなってしまう。


 いや、何かに文字通り『支配』されてしまう――。


 本能がそう警告していた。


 まして、この紋章と大量のポイントによって『第四術式』を行使したらどうなってしまうのか――。


 ディータは恐ろしくて、まだ一度も試していなかった。


(もし第四術式を試すことがあるとしたら)


 かたわらのシリルを見つめる。


「君を守るときだけだ――我が友よ」

「ん? 何か言いました?」


 シリルが首をかしげる。


「はは、今さらこういうことを言うのは……照れるな」


 ディータがはにかんだ笑みを浮かべる。


「……えっ?」


 そのとき、彼女は異変に気付いてゾッとなった。


「シリル、【転移】だ!」

「!? はい!」


 しゅんっ!


 ディータの合図にシリルは即座に【転移】を発動した。




 ――次の瞬間、周辺に漆黒のドームが広がっていく。




『ドーム』に触れたものは一瞬にして消滅し、赤い外壁は滑らかに削り取られていた。


「こいつは……!」


 ディータの表情が険しくなる。


 間違いない。


 奴だ。


 かつてクリシェ王国を滅ぼした忌まわしき元凶。


「気配を感じていたから、いずれ現れると思っていたが」

「できれば、【星の心臓】の最深部まで行った後に会いたかったです」


 シリルがつぶやく。


「構わないさ。むしろ手間が省けた」


 ディータは目の前にたゆたう黒いドームに向かって右手を突き出す。


「待っていたぞ……私はお前を滅ぼすために、この力を得た――」

「陛下……」


 かたわらでシリルが息を呑む。


「私はエシャルディータ・クリシェ」


 ヴ……ンッ!


 ディータの右手に黄金の光が集まっていく。


 同時に、彼女の額に王冠を模した紋章が出現した。


「お前を――滅ぼす者だ!」


 覚悟は、ある。


 いつか【侵食】にもう一度出会った時には、その覚悟を決めていた。


 そう、今こそ――奥の手ともいえる【破壊・第四術式】を解放するときだ。


【侵食】を破壊し、その向こうにある王都へとたどり着いてみせる。


 仮にこの身が滅んだとしても――。


(そのときは、きっとシリルが……私の代わりに)


 ディータの右手に集まった黄金の光が、剣の形に変わった。


【破壊】の力の全てを凝縮した剣。


 その剣を掲げ、ディータは【侵食】に向かっていく――。

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― 新着の感想 ―
出てきて即やられたw 噛ませ犬にもほどがあるw 今作が敵も味方もみなさん脳みそ足りないのは今に始まったことじゃない上にこんな出オチキャラにツッコミ入れるのもアレですが >情報収集が先よねぇ。「お互い…
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