33 漂う終末の気配
「ゴルドレッドの命令に従い、私たちは光竜王のもとに【強化】を届けに行った。保持者の一人を倒すために」
「あたしたちに加えて、光竜王までいれば――三対一なら確実に勝てる、と」
「まあ、実際は向こうにもう一人遺産持ちがいたわけだが……奴の目的は別にあったのではないかと踏んでいる」
「別の目的……?」
「奴は私たちの戦闘記録が欲しかったんだろう。来たるべき対決に備えて」
ディータが告げる。
「【星の心臓】の最終階層に到達するための戦い――その最後の敵になるのが私や君だと、奴は考えているのかもしれない」
「ふふ、高評価じゃないですか」
「【支配の紋章】を顕現し、『第四術式』にもっとも近いのは私たちだからな」
言って彼女の額に紋章が浮かんだ。
王冠を意匠化したような紋章だ。
「――ですね」
答えたシリルの額にも同じ紋章が浮かぶ。
【支配の紋章】。
それは『天の遺産』の能力を、より高次元に導くための一種の『増幅装置』のような役割を担っているらしい――とゴルドレッドは言っていた。
『天の遺産』の発現時などに一時的に浮かぶことはあるが、己の意思で自在に発現できる者は少ない。
おそらく、自分たち二人だけではないだろうか、とディータは考えていた。
そして、『天の遺産』の『第四術式』を使うためには、約444万という大量のポイント以外に、この【支配の紋章】の発現が必須だ。
そう、ポイントさえ蓄えれば、ディータとシリルには究極の術式ともいえる『第四術式』を行使できる――。
それは二人にとって、他の保持者に勝る決定的なアドバンテージになるだろう。
とはいえ、嫌な予感を覚えているのも確かだった。
あまりにも強大すぎる力を行使したとき、果たして自分は無事でいられるのだろうか?
果たして自分は――自分のままでいられるのだろうか?
と、そのときだった。
「――!」
ディータが不意に足を止めた。
背筋がゾクリとするような悪寒が走ったのだ。
しかも、その悪寒は初めて感じるものではなかった。
忘れるはずもない。
この五年か、片時も忘れたことはない。
「……シリル」
「分かってます、ディータ」
うなずくシリル。
「そう遠くない場所に……いるぞ、奴が」
「【侵食】――」
シリルが硬い表情でうめく。
「できれば、まだ会いたくはないですね」
と、シリルが言った。
「あたしたちのどちらかが『力』を得てからでなければ……」
「そうだな」
うなずき、ディータは小さくつぶやいて付け足す。
「――いや、どうかな」
本当に『力』がなければ立ち向かえない敵なのだろうか、【侵食】は。
「今の私なら……あるいは」
と、そのときだった。
ざっ、ざっ、ざっ……。
整然とした靴音が前方から響く。
「あれは――」
緑色をした軍服風の衣装をまとった集団だ。
「我らは【天星兵団】――個別の名を与えられておらず、【緑】と【戦騎兵】の称号を持つ者」
緑色の【戦騎兵】たちがいっせいに告げた。
「こいつらは――ゴルドレッドが言っていた『天星兵団』とやらか」
ディータが周囲を見回した。
数は――ざっと三十体。
【天星兵団】は星が生み出した存在であり、高位魔族すら凌ぐほどの戦闘能力を持っているという話だが――。
「蹴散らすぞ」
「りょーかい」
ディータとシリルは短い掛け合いのみで、すぐに動き出した。
「【砕けろ】」
意志を込めて【破壊】の攻撃を放つ。
万物を破壊するこの攻撃は、一種のエネルギー波になっている。
攻撃自体はディータの手のひらを通して、一直線に進んでいくため、攻撃の軌道が読まれやすいという弱点がある。
「ただし――」
「あたしがいますからね~」
と、シリルが右手を伸ばす。
「ぴょーん」
おどけたような声とともに【破壊】のエネルギー波が『緑の戦騎兵』たちの中心――もっとも密集している地点に【転移】した。
彼らにも予測不能の、不意打ちの一撃――。
がおんんっ!
三十体のうちの半分ほどが一瞬にして消滅する。
「むっ……」
「さすがは『天の遺産』を持つ者たちだけはある――」
「【天星兵団】といっても、どうやら雑兵のたぐいらしいな」
ディータが右手を突き出した。
「悪いが先を急ぐ――即座に消し去ってくれよう」
がおんっ!
がおんっ!
がおんっ!
【破壊】の連発であっという間に【緑の戦騎兵】たちはすべて消滅した。
「あらら……あたしと連携するまでもなかったですね~」
「――へえ、人間の中にも恐ろしい連中がいるものね」
前方から、さらに声が響く。
「新手の【天星兵団】か……!?」
ディータが身構えた。
「そんな連中と一緒にしないでよ。あたしは誇りある魔族リッツェラ」
現れたのは、すらりとした長身の女だった。
「新たな魔王になる女よ」
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