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26 黒き刃の見つめるもの


 これが本当のフローラ・ヴァーミリオンなのか。


 これこそが伝説のS級冒険者と謳われた実力なのか。


 バーナードは驚愕とともに、突然現れた女剣士の力を目の当たりにしていた。


 以前出会ったときは力を抑えていた、というが――そんな次元ではない。


「人間の限界を、明らかに超えている――」


 両腕を失ったラゼルセイドがうめく。


 ずんっ。


 その両腕が瞬時に再生した。


「随分と治りが早いのですね」

「我が持つ遺産の一つ、【再生】だ」


 ラゼルセイドが言った。


「しかし、それほどの速度と強度で動けば、体の方が持たないはず……なぜ、そんな動きができる?」

「お忘れですか? あたくしが持つ遺産は【防壁】。あらゆる物から守る力です」


 そういえば、とバーナードは気づいた。


 フローラは先ほどの攻撃を仕掛ける前に、体に黒いオーラをまとっていた。


 あれは、彼女の力の発露だったわけだ。


「人体強度の限界を超えた動きをしつつ、その動きが自らの体を破壊しないように【防壁】で肉体を保護する――これがあたくしの基本戦術であり体術」


 フローラが告げる。


「つまり、あたくしは――己の肉体強度を気にせず、全力で動き回れるということです。そして、あたくしが操るのは最強の古流剣術――!」


 ざんっ!

 ざんっ!



 一瞬、だった。


 黒い光が瞬いたと思ったら、またラゼルセイドの両腕が切断されている。


「せっかく治したのに申し訳ありませんわね」


 淡々と告げるフローラ。


「ふふ……」


 と、薄く笑う。


「ぐっ……まだ速くなるとは――」


 ラゼルセイドの顔は心なしか青ざめているようだった。


「す、すごい……なんて速さだ――」


 バーナードの隣でラスがポツリとつぶやいた。


 彼は弱冠十四歳ながら天才と呼ばれる少年剣士だ。


 フローラのような超達人の剣技を間近で見ることができるのは、彼の今後の成長にとって大きなプラスになるだろう。


 バーナードはまるで親のような目線で、そんなことを考えていた。


「あんな前傾姿勢で、まるで四足獣みたいな動きで加速して――俺、あんな剣術は初めて見た」

「何……!?」


 いきなりフローラの体術の詳細を解説した彼に、バーナードは驚いて振り返る。


「お前、今の動きが見えたのか?」

「えっ?」


 ラスはキョトンとした顔でこちらを見る。


「これだけ離れていれば、動きくらいは十分見えますよ?」

「いや、お前――」


 バーナードは呆然とした心地だった。


 確かに至近距離で見るよりも、ある程度の距離を保った方が動きの全容を把握しやすいだろう。


 だからといって、今のフローラの動きは――本人の弁の通り、まさしく『人間の限界を超えた動き』のはず。


 それを見切ったというのか、ラスは。


「お前は……」


 もしかしたら、とバーナードは思った。


 もしかしたら――ラスの剣の才能は、自分や周囲が思っているよりずっと高いのではないだろうか。


 あるいは。


 彼のような人間が、いつかフローラと同じく人間を超えた領域に到達するのだろうか?

 と、


「あたくしは長らく、己の心を燃やすことができる戦いを探していました」


 フローラが遠い目をして述懐する。


「十代のころに古流剣術を修め、それから十年――傭兵の世界に飛び込み、幾多の戦場を経験してきました。ですが、そこに心躍らせる戦いはありませんでした。すぐに辞めました」


 淡々と、告げる。


「二十代半ばにして冒険者の世界に飛び込んでみましたが、そこでもあたくしの心を躍らせる戦いはありませんでした。あっさりと頂点のS級まで駆け上がり、当時所属していたギルドも最上級のランクまで押しあがりましたが……なんの感慨もわきませんでした。すぐに辞めました」


 また淡々と告げる。


 冒険者の世界に突然現れ、たった一年で姿を消した『黒天閃のヴァーミリオン』――それはただ彼女があっさりと冒険者を辞めてしまったからなのか。


 初めて知る事実にバーナードは驚きを持って、彼女の話を聞いている。


「お前は、この我を前にしても全力を出していないというのか……! おのれぇっ……!」


 ラゼルセイドが突進する。


「体当たりですか」


 フローラがため息をついた。


「攻撃手段のネタが尽きましたか?」

「そうだ。だが、我は最後まで戦う!」


 ラゼルセイドが吠える。


「それこそが我が星から与えられた使命! この星を守ることができる戦士を見極める――そのためにすべてをぶつけ、その者の力を引き出す――」

「残念ながら――その程度の能力では、あたくしの『すべて』を引き出すことは叶いませんわ」


 フローラが黒い刀を掲げた。


「秘剣」


 ぱりっ……!


 刀身に紫色の稲妻が這いまわった。


 魔法――ではない。


 おそらくは剣技による、なんらかの術理で稲妻を発生させられるのだろう。


 剣士ではないバーナードに、その術理を読み取ることはできないが――。


「【天爪黒雷斬(てんそうこくらいざん)】」


 黒い雷光がほとばしった。


 一瞬でラゼルセイドは首を刎ねられ、さらにその体が細切れになって消滅する。


「いくら【再生】を持っていても、ここまで細断すれば元には戻れないようですわね」

「この我が……こうもあっさりと――」


 首だけになったラゼルセイドは呆然としたままだ。


「これが【天星兵団】の実力とは拍子抜けですわね」


 フローラはため息をついた。


「あたくしの心を躍らせてくれる戦いは、どこにあるのやら……」

「言っておくが、この先にある第二階層や第三階層に控える天星兵団は……わ、我とは比べ物にならない猛者だ……」

「あら、それは期待できるかもしれませんわね」


 フローラの目に輝きが宿った。


 同時に、口の端がわずかに吊り上がった。


 喜色の笑み――。


 やはり彼女は根っからの戦士ということなのだろう。


 戦うことだけに喜びを覚え、戦うことだけに幸せを見出す、剣の鬼――。


 バーナードには彼女がそう見えた。


「我は……期待している。この我をこうも簡単に倒せるほどの猛者なら、あるいは――」


 ラゼルセイドがまっすぐフローラを見つめた。


「滅びに向かうこの星を救えるかもしれん……そして、奴を倒すことも――」

「あたくしが興味を持つのは、あたくし自身を心躍らせる戦いだけ。星を救うなどという話に興味はありませんわ」




「さて、と」


 フローラはバーナードたちに向き直った。


「あら、あなたは魔族――でしょうか?」

「ヅィレドゥルゾだ」

「発音しにくい名前ですわね。ヅィレドゥルゾさん……でよろしいかしら」

「OK!」


 いきなりテンションが上がるヅィレドゥルゾ。


「お前、なかなか見どころがあるぞ!」

「ぢりりんのテンション上げ上げポイント分かりやすすぎ」


 ミラベルがツッコミを入れた。

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