23 凡人の役割
「どうかしたんですか、バーナードさん?」
ラスがたずねた。
「今、心ここにあらずって感じでしたけど」
「ん? ああ、ちょっと……な」
バーナードは苦笑した。
「ウラリス王国時代に、こういうダンジョン探索をよくやっていたのさ。そのことを思い出していた」
「確かウラリスの宮廷魔術師だったんですよね。その後も、冒険者ギルドをいくつか経験してるって……」
「まあ、な」
「すごいですよね。色々な場所で戦ってきたんだ、バーナードさんって」
「はは、流れ流れていっただけさ。俺自身は大した腕じゃない。上には上がいる」
「いえ、バーナードさんは十分すごいですよ」
「すごいのはお前やレインだろ。レインは知っての通りだし、お前だって――剣の天才だ」
正直言って、凡人の範疇を出ない自分からすれば、規格外の力を持つレインや、天才的な剣の腕前を持つラスはまぶしく感じる。
だからこそ、力になりたいとも思う。
その才能をまっすぐ発揮できるように――支えたい。
と、そのときだった。
「――何か、いる」
ミラベルが足を止めた。
「なんだと?」
バーナードは前方を見据える。
こんなときローザがいてくれれば、敵の探知ができるのだが、あいにく別の場所に飛ばされた模様だ。
ヴィクターもいないから、二人一緒なのだろうか?
無事でいてくれればいいが――。
「私は元暗殺者。気配を察知するのは得意。すごく得意」
ミラベルがドヤ顔で言った。
「有能」
「ま、待て、まさかこの気配は――」
ヅィレドゥルゾが声を震わせた。
「魔界の伝説で聞いたことがある……星の守り人……人も魔も神も超える、天の力を持つ――」
「ここから先を通りたくば、我を倒して行け」
突然、そこに一人の男が出現した。
先ほどまでは一切気配も、魔力も感じさせなかったというのに――。
「こいつは……!?」
「我はこの階層、このエリアの守り人。星の中心に行きたいならば、我を超える力を示せ」
紫色の甲冑に全身を包んだ武人だ。
手には三又の銛を持ち、甲冑のデザインも魚を模したもので、全体的に『海』を感じさせる雰囲気があった。
「我は【天星兵団】において【紫の猛将】の階級にある者。名はラゼルセイド」
武人が名乗った。
「アークレギオン……? いきなりなんなんだ……?」
眉間を寄せてつぶやくバーナード。
それに――もう一つ気になる単語があった。
星の中心に行きたいならば、と。
「レインが目指している場所、ということか」
バーナードはラゼルセイドを見据える。
「お前を倒した先に……レインやヴィクター、ローザが待っているなら」
杖を構えた。
かつてレインに強化付与してもらった杖だ。
「倒すしかないな」
闘志が、燃え上がる――。
「倒す? お前たちが、この我を?」
ラゼルセイドが右手の銛を掲げる。
「我ら【天星兵団】の役割は『選別』だ。星の中心部に行き、大いなる力を得る資格があるかどうか……そして星を救う意思があるのかどうか」
ごうっ……!
銛の切っ先に紫の輝きが集まった。
「お前たちが真の強者か、取るに足らぬ雑魚か――この一撃で見極めてやろう」
ごおおおおおおおおっ……!
輝きは水流と化し、たちまち激流となって襲い掛かった。
大量の水は、その大質量そのものが凶悪な武器となる。
避けようのない広範囲攻撃に対し、対抗手段は二つ。
防ぐか、消し飛ばすか。
「ちいっ、【ファイアストーム】!」
バーナードは後者を選んだ。
ありったけの魔力を込めて火炎系魔法を放つ。
ばしゅっ……。
が、ラゼルセイドの激流は一瞬にしてその火炎を消し去ってしまった。
「こいつ――」
バーナードは戦慄した。
「魔力の桁が、いや次元が違う――!」
紫の輝きが迫ってくる。
まずい、と背筋が寒くなった。
ミラベルやラスは魔法を使えない。
この術に対抗する術を持っているのはバーナードだけだ。
いや、あるいは――、
「魔族級魔法――【緋滅波濤】!」
横から飛び出したのはヅィレドゥルゾだった。
その両手から赤く輝く魔力の波が放たれ、敵の水流を受け止める。
「重い……っ!」
ヅィレドゥルゾが顔をしかめた。
ずずずず……っ!
紫の水流と赤い魔力の波。
両者の力比べは少しずつ、紫が赤を押し込んでいく――。
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