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20 かつて、その男は宮廷魔術師だった1

 SIDE バーナード



「なんだ、ここは……!?」


 バーナード・ゾラは戸惑いをあらわに周囲を見回す。


 気が付けば、見知らぬ場所にいた。


 床も壁も天井も薄赤色の迷宮――。


「見知らぬ場所に移送された……?」


 ほんの少し前までは、青の水晶のメンバーや先ほどまで交戦していた高位魔族ヅィレドゥルゾと一緒に森の中を進んでいたはずだ。


 レインの伝説級の剣が、他の伝説級の剣と共鳴している節があり、それを【サーチ】しながら進んでいた。


 が、一瞬前に突然目の前の景色が歪んだと思ったら、赤茶けたダンジョンの中に移動した。


 そしてさらに次の瞬間、




『誰でも構いません……最初に我が元にたどり着く者、たどり着ける者。たどり着く力と資質を持つ者――その者には、あらゆる望みを叶える力を与えましょう……』


『その代わり、私を救ってください……待っていますよ。種族も善悪も問いません。これは――運命を懸けた競争(レース)――星の、運命を賭けた戦い……!』




 そんな声が聞こえたと思ったら、また移動していた。


「な、なんなんだよ、ここ……!?」


 隣にいるラスも戸惑っているようだ。


 見回すと、ここにいるのは自分以外に少年剣士のラスと暗殺者の少女ミラベル、そして高位魔族のヅィレドゥルゾだけだった。


 レインとヴィクターやローザがいない――。


「想定外の出張になった」


 ミラベルもキョロキョロと周りを見ている。


「あとでレインに割り増し手当を請求する」

「ま、待て、ここは――そうだ、伝説に聞く『星の心臓』」

「知ってるの、ヅィリドゥルゾン?」

「ちょっと違うな。惜しい」


 ミラベルの呼びかけに高位魔族ヅィレドゥルゾが仏頂面になった。


「残念賞」

「そうだ、あと一声だぞ」

「残念賞でもなんらかの褒賞が出るはず。これは世の(ことわり)

「な、何? 人間の世界ではそういうルールなのか」

「そう。何かちょうだい」

「む……ルールならば守るべきか」


 ヅィレドゥルゾは腕組みしてうなった。


 ミラベルの言葉を真に受け、真剣に悩んでいるようだ。


「いや、しかし――」

「魔族なら人間界にないレアアイテムを持ってそう」

「ん? そんなものでいいのか? じゃあ、この【黒魔の小剣(レムフィア)】はどうだ?」

「ナイフ……私の武器としてちょうどよさそう」

「お前にやろう」

「褒賞として受け取る。感謝」


 なぜか魔族からナイフを受け取るミラベル。


 ウマが合うということなのか?


 妙に仲がいいようだ。


「戦力アップ。やった」


 ミラベルはもらったナイフを満足げに見ている。


「まあ、それはそれとして」


 バーナードは全員を見て言った。


「とりあえず今は――」


 ここがどこなのか、自分たちの身に何が起きているのかを知らなければならない。


 そして、姿の見えないレインやヴィクター、ローザがどこにいるのかも――。


「情報収集だ」


 バーナードはラス、ミラベル、ヅィレドゥルゾに言った。


「ここが未知の場所であることは確かだ。情報量はそのまま俺たちの生存率に直結する」




 バーナードたちは進み出した。


 魔族のヅィレドゥルゾも敵対することなく、おとなしく従ってくれている。


 今のところは、だが。


 おそらくここは彼にとっても完全に未知の場所なのだろう。


 単独でうかつに動き、なんらかのリスクを引き寄せるよりは、現状では利害が一致するバーナードたちと行動を共にし、状況が変わった時点で、また共闘関係を続けるか解除するかを検討する――そんなところだろうか。


 ともあれ、現状だけとはいえ高位魔族が一緒にいてくれるのは戦力的にありがたかった。


「ウラリスにいたころ、こういうダンジョン探索をよくやったな……冒険者になってからもだが、特にウラリス時代は多かった」


 バーナードが述懐する。


 そう、当時のウラリスではダンジョンから現れるモンスターが近隣の都市を襲い、大きな社会問題になっていた。


 そのため宮廷魔術師だった彼はダンジョン探索とそこに住まうモンスター討伐に明け暮れたものだ。


「えっ、ウラリスにいたんですか、バーナードさん?」


 たずねるラス。


「宮廷魔術師だと聞いた」

「すごい!」


 ミラベルのツッコミにラスが叫ぶ。


「がはは、昔の話だ」


 バーナードは豪快に笑い飛ばしてみせた。


 そう、昔の話だ。


 あれはもう二十数年も前のこと――。




 当時、彼は十七歳の若者だった。


 今から二十三年前の話だ。


「こいつ、強い……!」


 ウラリス王国の若き宮廷魔術師バーナード・ゾラは敵の攻撃を間一髪で避けながらうめいた。


 バーナードは弱冠十七歳にして、末席とはいえ大国ウラリスの宮廷魔術師を務める傑物である。


 今は王国内のダンジョンでモンスターと交戦しているところだった。


 Aランクモンスター【リアクトゴーレム】


 魔法も物理も攻撃を反射する装甲で覆われていて、とにかく防御力が高い。


 これまでもバーナードの放った火炎魔法を何度も弾き返しており、決定打を与えられない。


 逆に敵のパワーに押し込まれ、防戦一方だった。


 バーナードは魔術師にしては身体能力が高く、並の戦士と同等か、それ以上のパワーとスピードを誇る。


 だから、かろうじて持ちこたえられているが、普通の魔術師なら接近戦になった時点で殺されていただろう。


 それでも――ジリジリと追い込まれている。

 

「このままじゃ、やられる……っ!」

「下がって、バーナードくん!


 と、背後から一人の騎士が突進してきた。


「エステルさん!?」

「【ブラストブレード】!」


 振り下ろした剣がゴーレムの右腕を斬り飛ばした。


「すごい――」


 バーナードが何度攻撃してもビクともしなかった装甲を、それを上回る破壊力で切断してみせたのだ。


「こっちは片づけたわ。後はこいつだけだねっ」


 彼女――エステル・グレイクが威勢よく叫んだ。


 オレンジ色の長い髪に真紅の瞳をした美しい女騎士だ。


 弱冠二十歳にしてウラリス王立騎士団の副団長を務める猛者だった。


 宮廷魔術師のバーナードとは、こうしてコンビを組んでモンスター討伐に当たることが多い。


「片づけたって、もう……?」


 バーナードは目を丸くした。


 向こうには三体の【リアクトゴーレム】が固まっていたはずだ。


 彼が止める間もなくエステルが突っこんでいき、それを援護しようとしたところで、横合いから現れた新手の一体によって、二人が分断された――という状況だった。


 本来なら、まずバーナードが先に新手を倒し、エステルの援護に向かわなければならなかったが、逆の結果になってしまった。


 自分が一体に追い込まれている間に、エステルは三体を苦も無く倒してしまったのだ――。


 騎士と魔術師としての違いはあれど、戦闘能力に圧倒的な差があることを悟り、バーナードの気持ちは沈んだ。


 エステルは一流で、自分は二流だ。


「……もしかして凹んでる?」

「えっ」

「バーナードくん、顔に出やすいからね。私、気づいちゃった」


 エステルが悪戯っぽく笑う。


 美しくも可憐な笑顔に、バーナードはこんな状況にもかかわらず気持ちが浮き立ち、ポーッとなってしまった。

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