18 出会えて、よかった
今年もよろしくお願いいたします<m(__)m>
後書きにお知らせ色々あります~!
「えっ?」
「『天の遺産』は現在9人が保持している。君が倒した光竜王を除いてな」
と、ゴルドレッド。
「俺の【変化】や君の【付与】、君の仲間であるヴィクターの【幻惑】、さらに【破壊】【転移】【停止】【魔弾】【防壁】【探査】――」
最後の一つは俺が知らない遺産だった。
「だが、『天の遺産』はそれですべてではない。ディータとシリルが光竜王に【強化】を与えに行ったように。あるいはその後の戦いでヴィクターが【幻惑】に目覚めたように。遺産には保持者が存在せず、能力だけが宙に浮いているものもある。それを俺は【空白】の『天の遺産』と呼んでいる」
と、ゴルドレッド。
「それらの遺産は、普段は異空間に漂っている。シリルは【転移】の第三術式を使って、それを取り出すことができるし、あるいは何者かが保持者として覚醒した場合は、その異空間から遺産が呼び寄せられてその者に宿ることもある……君の仲間であるヴィクター・ゼオラもそのパターンだな」
「ヴィクターさんって、そんな苗字だったんだ」
「知らなかったのか?」
「むしろ、なんでお前は知ってるんだ?」
俺は首をかしげた。
「情報収集は俺の趣味……いや、戦術の基本だろう」
「今趣味って言ったよな、明らかに」
「知識欲と言え」
「趣味って言ったって、絶対」
俺はジト目でゴルドレッドを見たが、今は戦闘中だ。
これ以上ツッコんでいられない。
「歓談している余裕はないわ。警告終わり」
ファルニケがこちらに手を伸ばした。
「――発動」
その声と共に、
どんっ!
急に体が重くなる。
「な、なんだ、これは――」
「『重力の変化』か、それに類する能力だろう」
ゴルドレッドが言った。
しゅんっ……。
次の瞬間、体の重さが消える。
「あれ……?」
「俺たちの体感の重力を通常の重力に【変え】た」
ゴルドレッドが平然と告げる。
「便利だな、【変化】って。万能の力じゃないか……」
俺の【付与】より応用力がずっと高い――。
「確かに便利だが、万能とはいえない」
驚きと感心の入り混じった感想をもらした俺に、ゴルドレッドが言った。
「【変え】るためには、確固たるイメージが必要だし、ポイント消費の問題もある」
「ポイントか……俺はモンスターを倒したときに、その残存魔力を強化ポイントに変えられるんだけど、お前もそうなのか?」
「少し違うな」
ゴルドレッドが首を横に振る。
「俺たちの『天の遺産』は『ポイント』を消費することで高位の術式を使用できる。これは俺の【変化】だけじゃなく、君の【付与】やあるいは他の『天の遺産』もすべて同じだ」
うん、そこは分かる。
「この『ポイント』は簡単に言うと『万物に宿るエネルギー』だ」
「万物に、って……つまり世界のあらゆる物に、ってことか?」
「ご名答だ」
ゴルドレッドが満足げにうなずいた。
なんだか生徒を教える教師みたいだ。
「このエネルギーはおそらく星が持つ力――その微小な欠片なんだろう。万物はすべて天から――そして母なる星から生まれたわけだからな」
と、ゴルドレッド。
「俺たちはそのエネルギーを周囲から少しずつ取り込み、ため込んで『ポイント』として使う。ただし、急激に取り込むことはできないから、使えば基本的に目減りして、回復までは時間がかかる」
「俺はモンスターを倒したときに強化ポイントに変換していたけど、もしかして、そんなことをしなくてもポイントを得られるのか?」
「理論的には、そうだ」
俺の問いにうなずくゴルドレッド。
当然、今も教師みたいな顔をしている。
「とはいえ、君はそれを付与魔術の術式の一部だと誤解し、長年そうしてポイントを得てきたのだろう? だから、君の感覚はおそらく『討伐したモンスターからポイントを得る』というものに特化しているはずだ。その感覚を修正しない限り、俺たちのように周囲の万物からポイントを得る、ということは難しいかもしれない」
「……なるほど」
「これはなかなか興味深い考察になりそうだが――今は目の前の敵に集中するとしようか」
珍しく、自分から話を切り上げるゴルドレッド。
「そろそろ――決着だ」
と、ファルニケに右手を向ける。
「君の両足を石に『変え』る」
その言葉と同時に、
ぴきぴきぴき……。
音を立て、彼女の両足が石化していく。
「【停止】」
が、その石化が途中で止まった。
ぱりいいんっ。
石が砕け散り、その下から元の両足が現れる。
かつてジグが俺の【付与】の効果を【停止】によって無効化したみたいに、ゴルドレッドの【変化】の効果を打ち消したのか!?
「【魔弾】」
どんっ!
さらにエネルギー弾を連続して撃ってくる。
これはリサの【魔弾】と同質の攻撃だ。
俺は身に着けた防御アイテムで、ゴルドレッドは空間歪曲で、それぞれ防ぐ。
「強い――」
俺は息を飲んだ。
【防壁】で強固な防御を敷きつつ、【破壊】や【魔弾】、【重力操作】で多彩な攻撃を仕掛けてくる――やっぱり強敵だ。
「いや、勝機は見えた」
ゴルドレッドがニヤリと笑う。
敵に回ったときは不気味だけど、こいつって味方にすると頼もしいな。
「彼女は五つの『天の遺産』を使えると言っていた。今までに使ったのは【破壊】【防壁】【停止】【魔弾】……そして『空白』から取り出した重力操作の類と思われる遺産だ」
「あいつの手札は全部出そろった、ってことか」
「さらに、もう一つ」
と、ゴルドレッドが笑みを深めた。
「彼女の弱点は同時に二つ以上の『天の遺産』を使えないことだ」
「同時に……でも、そんなの俺たちだって同じじゃないか。というか、俺たちは一つの能力しか持ってないわけだし――」
言いかけたところで、ハッと気づく。
「俺と君が今まで以上に連係すれば、それは二つの能力を重ねて使うことと同義だ」
「今まで以上に……連係……」
できるだろうか、俺とこいつで。
「できるさ」
ゴルドレッドが笑う。
「俺たちは相性がいい。俺はそう感じているよ」
「そうかなぁ……」
俺はジト目になった。
こいつと一緒にいると、ついこういう表情になるんだよな……。
「同意が得られず残念だ。まあいい」
ゴルドレッドが表情を引き締めた。
「少なくとも連係面なら俺と君は無敵だ。そう信じる」
「ま、お前の強さは信じるよ」
「俺も、君を信じる――さあ、いくぞ。彼女の手札で俺たちの連係は防げないはず――!」
そして――最後の攻防が始まる。
「いっけぇぇぇぇぇぇっ!」
俺は燐光竜帝剣を振り下ろした。
すでに【付与】の特性振り分けを変更し、【衝撃波】にすべてのポイントを振り直してある。
最大級の威力の衝撃波が、ファルニケに迫る。
さらに二撃、三撃――剣を振り回しつつ、その合間に例の『最大値まで強化付与をした石』を投げつける。
衝撃波と石の爆撃――その連打でファルニケに反撃のいとまを与えない。
「このまま押し切ってやる……!」
「その程度では私の防壁は貫けない。説明終わり」
ばちぃぃぃぃぃっ!
衝撃波と無形のシールドがぶつかり、火花が散った。
さらに石が次々にぶつかるが、これも火花とともに防がれて終了だ。
だけど、
「石に【変われ】」
ゴルドレッドが右手を突き出す。
「!?」
ファルニケの全身が灰色に変化した。
「これは――」
「詰みだ、【青の指揮官】」
ゴルドレッドがニヤリとした。
「君は同時に二つの遺産を使えない。レインの衝撃波と石の爆撃を【防壁】で止めるか、俺の石化を【停止】させるか……どちらにしても、もう一方の攻撃で君は終わる――」
「むむ……」
「レインの攻撃が君を釘付けにした時点で、勝負はついていた。さあ、石化しろ」
「むむむ――」
ファルニケは一瞬表情を歪め、
「――分かった。私の負けを認める。説明終わり」
その表情が微笑みに変わると、彼女の全身が石に変わった。
なんだか――あっさり負けを認めたな。
「いや、違うな……俺たちを認めてくれたのか……?」
厳密な意味で、たぶん彼女は敵とは違う存在だった。
彼女は――たぶん『審判役』なんだ。
俺たちの力を認め、先に進むのにふさわしいと認めてくれた……のかな?
俺は石になったファルニケを見つめていた。
「【天星兵団】……か」
ファルニケにしろ、その前に戦った戦騎兵たちにしろ、俺たちの前に立ちはだかる敵ではあるけど、純粋な敵とも少し違うという気がする。
だって、ファルニケが石になる直前の表情は――。
俺たちを慈しんでいるように見えたから。
――と、そのときだった。
「ん……?」
ふいに額に熱を感じた。
なんだ……!?
病気で発熱したときの感じとは違う。
もっと体の内側から熱が湧きあがり、その熱が額に集まっていくような――。
「……!」
ゴルドレッドが俺を見て、驚いたような顔をする。
「どうしたんだ、ゴルドレッド?」
「君は――」
その声がわずかに震えている。
「出せるようになったのか……?」
「えっ」
出せる?
何を?
ゴルドレッドの言っている意味が分からず、俺は首をかしげた。
「……いや。分からないなら、いい」
『【青の指揮者】×1の戦闘不能状態を確認』
『「星の力」によるボーナスポイントが発生……「強化ポイント」に変換』
『「強化ポイント」999万9999を取得しました』
『術者に「強化ポイント」を移譲しました』
『術式を終了します』
突然、脳内にアナウンスが響く。
ボーナスポイントとか、普段と微妙に用語が違うな
そういえば、これって星の声だよな、きっと――。
あいかわらず無機質にアナウンスしてくれるだけだけど、俺が今『星の心臓』に向かっていることに対して、なんらかの感情を示したりはしないんだろうか?
それとも、あくまでもシステム的なもので、そういう感情とは無縁なんだろうか?
「――っていうか、強化ポイントの量がすごい!?」
ワンテンポ遅れて俺は驚いてしまった。
あまりにも大量だったからな……。
「それにしても、今までと桁が違う――」
「【天星兵団】の上級クラスを倒したんだ。それくらいのポイントは得られるだろう」
と、ゴルドレッド。
「あ、でも決め手になったのはゴルドレッドの石化攻撃だよな? 俺もポイントを得られるのか」
「俺たち二人の連係が勝利の決め手になった、と【青の指揮官】が判断したんだろう。あるいは彼女なりに俺たちを認めた証として、特別に俺たち二人に授けてくれたのかもしれない」
「『俺たち二人』? ってことは、ゴルドレッドも強化ポイントをもらったのか」
「当然だ。君と同じ999万9999ポイントをな」
ゴルドレッドがニヤリと笑う。
「これだけ莫大なポイントがあれば、第三術式までなら使い放題だ。誰かと協力して戦う、というのも中々いいものだ」
その笑みが嬉しそうな微笑みに変わった。
「君は俺の能力を信じてくれた」
「お前だって俺を信じてくれたんだろう?」
「俺は、俺の判断を信じただけだ。君は、強い。その強さは俺が今までに集めた情報を元に、自分で解析したもの――要は俺自身を信じたに過ぎない」
と、ゴルドレッド。
「だが君は違う。俺に対する十分な情報などなかっただろうに、俺の言葉をそのまま信じてくれた。お人よしとも言えるが……その人の好さが、俺には心地よかった」
「ゴルドレッド……?」
「君に出会えてよかったよ、レイン」
どんっ!
その瞬間――強烈な違和感を覚え、俺は後ずさる。
「っ……!?」
「ほう!? よく避けた!」
ゴルドレッドが笑う。
「お前……っ!」
右足が動かない!
「これは――」
俺の右足が、すねの辺りまで灰色に変色していた。
石になっているのだ。
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