17 VS青の指揮官ファルニケ
今年最後の更新です。みなさま、よいお年を<m(__)m>
「消えろ――」
【青の指揮官】ファルニケが右手を突き出す。
ほぼ同時に、
「『空間歪曲』」
ゴルドレッドが静かに告げた。
ごうっ!
彼女が放った無形のエネルギーは、ゴルドレッドが前面に展開した『ねじ曲がった空間』に阻まれ、消失した……らしい。
どっちの技も目に見えないので、俺には推測することしかできないけど――。
「とりあえず助かったよ。ゴルドレッド」
「とりあえず共闘を継続するということだ、レイン」
ゴルドレッドが俺をチラリと見た。
「ここで俺と君が反目したところで益はない。奴は俺たちにとって共通の敵だろう」
「だな」
異議なしだ。
――ゴルドレッドと短い打ち合わせをしてから、まず俺が『燐光竜帝剣』を手に、ファルニケとの距離をジリジリと詰めていく。
すぐ前方には閃鳳王と輝獣王がいる。
ファルニケがなんらかの攻撃を仕掛けてきた場合、この二体が盾になり、さらにゴルドレッドが『空間歪曲』で俺を守ってくれる手はずになっている。
で、俺はその間に攻撃態勢を整えるわけだ。
「怖いの、私が?」
ファルニケがたずねた。
「……当たり前だろ」
俺は素直に答える。
「でも、恐怖に飲みこまれてはいないようね。その恐怖を乗り越えて私に向かってくる……よき魂を持っているようね、お前は」
ファルニケが笑みを浮かべる。
心なしか――その笑みには、どこか優しさや慈しみのようなものを感じた。
そんな気がした。
……いや、今は戦いの途中だ。
そんな悠長な感想は、後だ。
「いくぞ!」
俺は燐光竜帝剣を掲げた。
最大威力の衝撃波を食らわせてやる。
剣の各特性への【付与】のバランスを変え、衝撃波を徹底的に強化した。
「おおおっ……!」
そして、振り下ろす。
ごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ……!
轟音とともに、すさまじい衝撃波が荒れ狂った。
伝説級の剣による衝撃波を『+20000』した一撃だ。
「これなら――」
「くだらない」
ばしゅんっ!
その衝撃波がファルニケの前方で受け止められ、弾け散った。
「何……!?」
「【破壊】だけを装備している【戦騎兵】と私を同じだと思わないで」
ファルニケが淡々と告げた。
「私は五種の『天の遺産』を装備し、操ることができる。説明終わり」
今のはフローラが使っていた【防壁】か……!?
+20000の強化ポイントを付与した燐光竜帝剣は、多分この地上で最強の剣だと思う。
その攻撃ですら、奴の【防壁】を打ち破れないとは。
本家であるフローラの【防壁】には劣るんだろうけど、それでもかなりの防御力だ。
どうやって、こいつを撃ち破る――?
と、
「なるほど、【防壁】も備えていたか。燐光竜帝剣の力押しは難しそうだな」
ゴルドレッドがうなった。
最初の策は、まず燐光竜帝剣の衝撃波で敵の体勢を崩し、そこを閃鳳王、輝獣王と俺が連続攻撃で一気に押し切る……というパワープレイだった。
けれど、敵の防御は想定を超えていた。
策を修正する必要がありそうだけど、どうするか――。
「確認したい。君の剣に込めた強化ポイントは『+20000』だな?」
「……そうだ」
ゴルドレッドの問いに、俺はうなずいた。
「確か君の【付与】は最大で『+30000』まで強化可能だったはずだが……違うか?」
「合ってる……っていうか、そんなことまで知ってるのか?」
「俺なりに調査しているし、山のように文献を読んでいるからな。ちなみに――参考にした資料を列強しようか?」
「……話を先に進めた方がよくないか?」
「むっ……」
一瞬、不満げな顔を見せるゴルドレッド。
「――まあ、いいだろう。今はその状況ではない」
納得してくれた。
渋々っぽいけど。
「その剣に最大値の『+30000』まで付与しないのは剣が壊れる可能性があるからで、それを気にしなければ最大値の付与は可能、ということだな?」
「ああ」
「なら、壊れても構わないものを使え」
ゴルドレッドが右手を差し出した。
手のひらの上には十数個の石粒が乗っている。
「石……?」
もしかして、こいつが【変化】で作った武器とかだろうか?
今までの戦いから察するに、こいつは伝説級のモンスターやアイテムでも【変化】の力で生み出すことができるみたいだし……。
「いや、これはただの石だ」
俺の推測を読み取ったようにゴルドレッドが説明した。
「これに最大値の【付与】をして攻撃すると、どうなる?」
「うーん……石は一発で壊れるだろうし、ダメージも与えられるだろうけど、さすがに最大値の『+30000』を何十個もの石に付与するのは無理だよ。強化ポイントの総量がそこまで多くない」
「……やはり君の【付与】の最大値は『+30000』か、覚えておこう」
ゴルドレッドがニヤリとした。
「自分のポイント量は『天の遺産』保持者同士の戦いにおいては、生命線となる情報だ。あまり簡単に明かさない方がいいぞ」
「いや、今のは俺のポイント量のことを明かさないと話が進まないだろ」
俺は憮然とした。
「誘導尋問だったのか?」
「いや、誘導するまでもない。君は素直すぎるから簡単に情報を得られる」
「……なんか馬鹿にされた気がする」
「馬鹿にはしていない。君の性格は人間としては大いに美徳となるだろう。素直に賞賛しているんだ」
全然褒められた気がしないぞ。
「まあ、いい。話を進めよう」
ゴルドレッドが説明する。
「君の強化ポイントは総量としては目減りしないはずだ。第二術式以上を使えば『消費』されるが、基本術式の【付与】なら武器から武器へ自由に移動できる」
「そうだ。けど、たとえば武器Aに込めたポイントをいったん回収して、別の武器Bに込めるとしたら、その間にタイムラグができるぞ」
そのタイムラグを見逃してくれるほど、今回の敵は甘くないだろう。
「その時間を俺が稼ぐ」
「えっ?」
「共闘の強みを活かすんだ」
ゴルドレッドが作戦を説明している間、閃鳳王と輝獣王がファルニケの前に立ちはだかっていたが、彼女は何も攻撃してこなかった。
余裕を見せているのか、あるいは俺たちなど取るに足らない存在だと見下しているのか。
どちらにせよ、ゴルドレッドから受けた説明を俺は頭の中で整理した。
まずゴルドレッドから渡された二十数個の石を地面に置き、手持ちのポイントを付与していく。
ちなみに現在の総ポイントは50万ポイントくらいだ。
さっき【緑の戦騎兵】を倒したときに、大幅に増えていた。
たぶん【天星兵団】は大量の魔力を保有しているんだろう。
だからそこから強化ポイントに変換したときに、大量のポイントになった――。
……いや、俺の【付与】は実際には魔術じゃないみたいだから、また違う理屈かもしれない。
とはいえ、それをゆっくり検証している時間はないし、そんな場合でもない。
とりあえず現状として、切り札である『第三術式』を使うための必要ポイント『33万3333』は残しておきたい。
第四術式の方は『444万4444』ポイントが必要だし、そもそも『支配の紋章を出す』という条件もクリアできてないから、今は考えなくてもいいだろう。
で、『33万33333』ポイントを残したうえで、使えるのは残りの16万ちょっとのポイント。
手持ちの石に3万ずつ割り振ると五つにしか使えない。
意外と――少ない。
ただ、基本術式の場合はポイントが目減りするわけじゃない。
まず五つの石に30000ずつ【付与】し、続けて投げつけた後で、そのポイントをまとめて回収する。
そして、新たな五つの石に【付与】して投げつけた後に、また回収――この繰り返しになるかな。
「作戦内容は整理できたか?」
「ああ」
ゴルドレッドの問いにうなずく俺。
「では始めようか」
そして――俺とゴルドレッドの共闘戦線が、ふたたび幕を開ける。
「さあ、どんどん行け」
「助かる」
俺は石に付与しては投げつけ、付与しては投げつけ……を繰り返した。
さすがの【防壁】も絶え間なく続ける攻撃に、かなり揺らいでいるようだ。
空中にいくつもの『ヒビ』が浮かんでいるのが見えた。
不可視の【防壁】に走った亀裂――。
もしこれが本家であるフローラの【防壁】だったら、たぶん何発当ててもヒビなんて入らなかっただろう。
やっぱり【天星兵団】の操る『天の遺産』は保持者のそれに比べると力が弱いみたいだ。
「もう少しで壊せる……!」
俺は勢い込んでさらに『石投げ』を続ける。
と、
「さすがに保持者二人が相手だと手ごわい。ならば――こういうのはどう?」
ファルニケが右手を掲げた。
次の瞬間、十数個の光球が天井から降ってきた。
魔力弾のたぐいじゃなさそうだ。
それらの光球はファルニケの周囲をフワフワと漂っている。
「【空白】の『天の遺産』か……」
ゴルドレッドがつぶやいた。
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