16 『星の心臓』第二階層
「ここが『星の心臓』の第二階層か」
俺たちは扉を通り、新たな階層に入った。
外見は第一階層とあまり変わらない。
外壁の色合いが多少違う気もするけど、基本的に赤を基調とした色合いだ。
「待て、先へ進む前に、もう一体の『盾役』を出しておこう」
ゴルドレッドが言った。
「黒の魔王を消してしまったからな」
うん、お前が容赦なく消したんだよな。
「また、例の第三術式か? 確かポイントを大量に使うから、あんまりやりたくないって言ってたよな?」
「ああ。ただ、ポイント消費を渋って俺自身が倒されてしまっては本末転倒だ」
ごもっとも。
「ポイント333333を消費し、【変化】の『天の遺産』、第三術式を起動――【変化】【タイプ・生物】【カテゴリ・伝説級】」
ゴルドレッドは懐から彫刻を取り出し、掲げた。
閃鳳王や黒の魔王を生み出したときと同じだ。
あふれた光が、その彫刻に吸い込まれ――、
「出でよ、『王』の称号を持つ星の獣!」
新たなモンスターが、現れた。
全長は100メートルほど……閃鳳王と同じようなサイズだ。
全身が青い甲殻に覆われ、額から三本の角を生やした四足獣――。
「【輝獣王】。かつて勇者ラドヴァインが伝説級の剣『蒼天牙』で打ち倒した魔獣だ」
ゴルドレッドが説明した。
「こいつも光竜王や閃鳳王と同等の力を持っている。盾役としては申し分ないだろう」
「勇者ラドヴァイン……」
確か俺の持つ燐光竜帝剣も大昔に勇者たちが使っていた剣なんだよな。
「ラドヴァインもレーヴァインやエルヴァインと同じ血筋だ。現在ではウラリス王国のジーラ家に連なっているはずだが……確か、君の仲間はその末裔だったな」
「ああ。現在の蒼天牙継承者だよ」
「……ふん。忌々しいジーラの血筋の者がここにいれば。八つ裂きにしてやるのだが」
と、輝獣王がうなった。
――物騒な味方(?)が加わったみたいだ。
俺はゴルドレッドと一緒に進んでいた。
閃鳳王と輝獣王が先導し、俺たちの盾になってくれている。
「俺は『星の声』を聞いたんだ」
歩きながら、ゴルドレッドに言った。
「星は、助けを求めているように感じだ。俺に対して……いや、たぶん『天の遺産』の保持者全員に」
「何が言いたい?」
ゴルドレッドが俺を見た。
「お前は、星を救う気はないのか? 例えば、この星が壊れてしまったら、ここに住んでいる俺たちだって最悪死んじゃうと思うんだ。だから――星を救うっていうのは最優先事項だと思う」
「星を救う? 俺にとっての最優先事項は『俺自身の望みを叶えること』だ」
ゴルドレッドの答えはそっけなかった。
「君の話は仮定に仮定を重ねたものに過ぎない。なるほど、星が一定の危機に瀕しているのは確かなのかもしれない。だが、それは星が崩壊するほどのものなのか? それとももっと軽度のものなのか? それを見極める必要がある」
「まあ……それはそうかもしれないけど」
「君の言うように星が崩壊寸前というなら、確かに星を救うことを最優先にしなければならないだろう」
「じゃあ――もし俺たちが一緒に最終階層までたどり着いたとして、そのときに星が崩壊寸前の危機だったら」
俺はゴルドレッドを見つめた。
「一緒に戦ってくれるか? 星を救うために」
「……検討しよう」
ゴルドレッドは得体のしれない男だ。
それに、かつて自分を虐げた連中にすさまじい復讐をした男でもある。
以前、保持者のジグやリサ、フローラとは一時的に『共闘』のような状態になったことはあるけど、果たしてゴルドレッドと同じことができるのか――。
難しいかもしれない。
不可能かもしれない。
ただ、それでも俺は――。
できるなら、争いたくはない。
この後、最終階層までたどり着き、星の危機についての情報を得たとき――もしできるなら協力したいんだ。
それが甘い考えだと分かってはいるけれど。
「どうした? 思索にふけっているのか?」
ゴルドレッドが俺を見た。
「だが、そろそろ戦いの時間だ」
「えっ」
「そうだな、閃鳳王、輝獣王」
きゅいいいいんっ。
うおおおおおんっ。
前方で二体が鳴き、吠える。
さらにその向こうから、すさまじいプレッシャーが押し寄せてきた。
なるほど、この階層の『番人』登場というわけか。
新たな【天星兵団】が――。
と、
「兵士が全滅とは……星が呼び寄せただけあって、それなりの力は有しているようね」
と、新たに現れたのは青い騎士服を着た少女だった。
「君は……?」
「私は【天星兵団】に所属する【青の指揮官】。個体名はファルニケという。自己紹介終わり」
彼女はぶっきらぼうに言った。
「こいつもさっきの奴らと同じ――」
俺は剣を抜いて構えた。
いや、さっきの奴らは『名前を与えられていない』って言っていた。
対して、こいつは名前有り……となれば、さっきの連中よりも『格上』の可能性がある。
「――ふん」
俺の隣でゴルドレッドがニヤリとした。
「【青の指揮官】――【天星兵団】の中でも上位のクラスだ。それが第二階層でもう出てくるとは……」
「侵入者は早い段階で処理する。最終階層まで行かせない」
ファルニケが言った。
「俺たちは星を救うために来たんだ。戦いたいわけじゃない」
俺は彼女に言った。
「通してもらうわけにはいかないのか」
さっきの【戦騎兵】は問答無用な雰囲気だったし、集団で攻撃してきたから『説得』に持ち込むことができなかった・
けど、今回は相手が一人だし、もしかしたら話し合いで解決できる可能性があるかもしれない。
「無駄だ」
そんな俺の考えを見透かしたようにゴルドレッドが言った。
「彼女たちが道を譲ることは絶対にない」
と、
「砕けろ」
ファルニケが俺たちに向かって右手を突き出した。
ばきんっ!
俺が身に着けている加護アイテムが一つ砕け散った。
この感じは――!?
こいつも【緑の戦騎兵】と同じように【破壊】が使えるのか。
「【天星兵団】が相手だと、俺の防御も無敵ってわけにはいかないか――」
緊張感が高まる。
「まさか怖気づいてはいないだろうな、レイン」
ゴルドレッドがたずねる。
「――少しね。俺は戦士じゃない。しょせんは裏方の付与魔術師だ」
俺はニヤリと笑う。
「怖気づいても構わない。虚勢を張るより、素直に恐怖心を認める方が」
ゴルドレッドが俺を見つめた。
「相棒としては信頼度が高い」
「相棒――」
もちろん、それは打算を前提にした関係だ。
別にこいつと心の底から信じあって、仲間になるわけじゃない。
それでも……正直言って、少し嬉しい気持ちがあったのも確かだ。
おめでたい考えだろうか……?
「さあ、お前たちに星を救うだけの力量があるのか、その資格を有しているのか――見極めさせてもらうぞ」
ファルニケが告げる。
「じゃあ、見せてやる。俺たちの力を」
俺は隣にいるゴルドレッドに目配せをした。
「俺たちの連係を――」
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