15 VS緑の戦騎兵
「超越級攻撃スキル――【フェニックスブラスト】!」
「魔王級魔法――【暗黒魔王滅戦咆】!」
閃鳳王の羽ばたきが衝撃波となって戦騎兵を吹き飛ばし、黒の魔王の放った攻撃魔法が別の戦騎兵を消滅させる。
さすがに二体とも攻撃力は超一級だ。
「だが――一撃の後に大きな隙がある」
言いながら、別の戦騎兵が閃鳳王の背後に移動していた。
「【破壊の剣】!」
ざしゅっ!
繰り出した剣が、閃鳳王の片方の翼を切り裂いた。
「むうっ……」
後退する閃鳳王。
「我の翼を切り裂くとは……ただの剣ではないな」
「【破壊】の『天の遺産』か」
ゴルドレッドが言った。
「えっ」
「奴らは『天の遺産』を――いや、その力の一部を使えるようだな」
と、ゴルドレッド。
「文献にもはっきりとは記されていなかった情報だ。興味深――」
「考察は後にして、先に能力の説明と対策を教えてくれ」
俺は奴の言葉を遮った。
「む……まあ、いいか」
俺が放っておいたら、また延々と説明しそうだったので、さえぎって正解だったらしい。
ゴルドレッドはちょっと寂しそうな顔だったけど……。
「【フェザーキャノン】!」
閃鳳王の羽毛が無数の矢となって撃ち込まれる。
今度は数体の戦騎兵を倒せたようだ。
けれど、まだまだ兵の数は多い。
「【破壊の剣】!」
「【破壊の矢】!」
「【破壊の槍】!」
兵たちから次々に攻撃が飛んでくる。
そのいずれもが『天の遺産』である【破壊】の力を含んでいるみたいだ。
「こいつらの攻撃って、【破壊】がデフォなのか!?」
さすがに、それは厳しい――。
「【変化】――『空間歪曲』」
と、ゴルドレッドが前方の空間を歪め、戦騎兵の攻撃をまとめて防いでくれた。
「助かったよ、ゴルドレッド」
「奴らの攻撃はしょせん『天の遺産』の保持者には及ばない。【破壊】に関しても、本家であるディータ・クリシェのそれよりは威力が劣るはずだ。ならば――俺の『空間歪曲』で簡単に防げる」
おお、頼もしい。
「君たちが敗れたら、次は俺一人で戦う羽目になるからな。やむを得ない」
ゴルドレッドは不満げだった。
「味方だろ。今は」
「……さっきの『空間歪曲』は【変化】の第二術式相当だ。使えばポイントを消費する」
苦笑する俺に、ゴルドレッドはますます渋い顔をした。
「しかも【破壊】を防ぐためには最大レベルの『空間歪曲』を使わなければならない。第三術式に近いポイントを消費するから気軽には使えない」
「ああ、要はポイントをケチってるわけだ」
「当然だろう」
なぜかドヤ顔のゴルドレッド。
「この先も『天星兵団』と、そして君や他の保持者との戦いが待っているはずだ。自分の力を温存するのは鉄則だ」
どこまでも利己的だなぁ……。
青の水晶の仲間たちや、リリィたちと一緒に戦う時とは、全然違う。
いや、以前に異空間に閉じこめられて、ジグやリサ、フローラたちと共闘したときだって、もうちょっと互いに助け合う雰囲気だったのに。
こいつは、全然違う――。
ただ、そこまで『己のためだけに戦う』という姿勢を徹底しているなら、それはそれで逆に信用できるともいえる。
こいつは……自分の利益になることに関しては、徹底的に力を尽くしてくれるし、その範囲で俺たちを助けてくれるだろう。
――今のところは、だけどな。
「そうだ、閃鳳王」
俺はあることを思いつき、呼びかけた。
「さっきの【フェザーキャノン】っていう攻撃スキルは羽毛を飛ばしているのか?」
「そうだが?」
「羽毛って物理的なものだよな? 魔法エネルギーで生み出してるわけじゃなく」
「うむ。我が翼の生える羽毛を魔力でコーティングして飛ばす。羽毛自体は物質だ」
意外に丁寧に教えてくれる閃鳳王。
「じゃあ、俺の【付与】が使える。次にやるときは。お前の羽毛に俺が強化ポイントを+300ずつ付与するよ」
「なるほど、さらに強力になるわけか」
「黒の魔王、お前の方はどうだ? 何か物理的な武器があったら貸してほしい」
俺は魔王グランディリスに向き直った。
「物理的な武器……では、我が宝物庫から所有している限りの魔剣を放出しよう」
と、戦騎兵がいっせいに向かってくる。
「無駄だ――【黒妖殻】」
魔王が右手を掲げると、俺たちの周囲に無数の黒い板が出現した。
手のひらサイズの小さな六角形の板。
それが数百……いや数千単位で浮かんでいる。
「【破壊の剣】!」
「【破壊の斧】!」
「【破壊の鞭】!」
戦騎兵たちが繰り出す攻撃は、無数の『板』に弾き返され、俺たちまでは届かない。
「魔王級防御結界だ……いかに『天の遺産』といえど、易々と突破はできん」
黒の魔王が悠然と告げた。
さすがに魔王の風格という感じだ。
「では、次だ。【宝物庫・解放】【魔剣召喚】」
グランディリスの背後に巨大な門が出現した。
その門が左右に開き、内部から数百、数千単位の剣が飛び出す。
おそらく、それらすべてが『魔剣』なんだろう。
「よし、魔剣に強化ポイント『+300』をそれぞれ付与する」
俺は目に付いた魔剣に片っ端から強化ポイントを【付与】していった。
さすがに数が多すぎるので全部は難しいけど、できる限りは【付与】できたはず――。
その直後、
「いけ」
魔王の指示のもと、すべての魔剣がいっせいに射出され、戦騎兵たちをズタズタにした。
斬り刻まれた戦騎兵たちはそのまま無数の光の粒子と化して消滅する。
まさに――一掃。
「すごい――」
俺は息を飲んだ。
まるで俺の付与魔術・第三術式だ。
俺の【付与】の上乗せがあるとはいえ、戦騎兵たちをここまで切り裂けるとは。
閃鳳王に【フェザーキャノン】を使ってもらうまでもなく、カタがついてしまったな。
そういえば――。
今、この魔剣群を目にしたことで、俺が第三術式を使う際にこの魔剣群を現出することが可能になった、ってことか?
だとすれば、今後の第三術式はさらに強力になる――。
「……レイン・ガーランドは一度見た武器を創成し、さらに強化付与して撃ち出すという切り札を持っている。うかつに物理武器を見せるんじゃない」
ゴルドレッドが黒の魔王をにらむ。
「ふん、ならば最初からそう言っておけ。我はお前の部下ではないぞ――むっ!?」
どろり……。
黒の魔王の姿が泥のように崩れ、小さな像へと変わった。
いや――戻ったんだ。
「いくら強くても、俺の意のままに動かない手駒は害悪でしかない。君の役目は終わりだ、魔王陛下」
ゴルドレッドがふんと鼻を鳴らした。
「容赦ないんだな、お前……」
「なんの話だ?」
俺の言葉にゴルドレッドは不思議そうに首を傾げた。
「いや、さっき魔王を消しただろ」
「あれは魔王ではない。魔王と同じ能力や人格を備えただけの模倣品だ。ただの物質だよ」
ゴルドレッドは平然と言った。
それはまあ……理屈ではそうだろうけど。
「でも、ちゃんと意志を持って行動する仲間だろ? そりゃ、魔王ではあるけどさ……なんの躊躇もなく――」
「君は随分とお人よしなんだな、レイン・ガーランド」
ゴルドレッドが俺を見つめた。
「君の【付与】は卓越した能力だが、君自身の精神性はあまりにも甘い。そんなことで最終階層までたどり着く気か」
「仲間を消し去って、何の感情も動かないのが『精神の強さ』だって言うなら、俺はそんなものいらない」
俺が求めている強さは――もっと別のものだ。
俺たちは先へ進んだ。
「見えてきたぞ。おそらく、あれが第二階層に続く扉だ」
ゴルドレッドが前方を指し示す。
「第二階層……」
「そうだ」
「最終階層までに幾つの階層を通ればいいんだ?」
俺はゴルドレッドにたずねた。
「文献では四つの階層があるそうだ」
「四つか」
「第四階層を抜けた先に、最終階層がある。そこに最初にたどり着いた者は、星から大いなる力を授かる――」
ゴルドレッドが謳うように告げる。
「ただ、容易なことではたどり着けまい。先ほどと同様に『番人』である【天星兵団】が各階層で立ちはだかるはずだ」
「さっきの奴らはそこまで強くなかったよな?」
俺はゴルドレッドに言った。
「俺たちが力を合わせれば十分に勝てる感じだった」
「奴らは【天星兵団】で最弱だ」
ゴルドレッドがそっけなく言った。
「他の十二のクラスはもっと手ごわいと推測される。油断は禁物だぞ」
「……分かった」
俺たちは扉を開け、その向こうへと進んだ――。
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