14 最終勝者への道のり
そこで、俺の意識は覚醒した。
どうやら夢を見ていたみたいだ。
気が付けば、さっきまでとは違う場所にいた。
直前に聞こえた声から推測すると、たぶんどこかに移動させられたんだろう。
「シリルの【転移】と同質の力……いや、これは星が持つ『オリジナル』の力というべきか」
ゴルドレッドがつぶやく。
「興味深い……俺の知識欲が疼くが、まあ今は我慢だ……我慢だぞ、ゴルドレッド・ブラスレイダー……我慢我慢」
奴の内心でなんらかの葛藤が起きているみたいだ。
と、ゴルドレッドは不意に真顔になり、
「どうやら【星の心臓】に【転移】したようだな」
「えっ」
ここが――!?
俺は驚いて周囲を見回す。
そこは巨大な迷宮だった。
壁も天井も床も、すべてが薄赤色。
「俺たちがあれほど探し、どうしてもたどり着けなかった聖域に、まさか星の方から迎え入れてくれるとは。それだけ星の危機が間近に迫っているということか、あるいは――」
ゴルドレッドがブツブツとつぶやいた。
「まあ、その辺りの推論は後々じっくりたっぷり語るとして」
「じっくりたっぷり語るんだ……」
「ここはおそらく【第一階層】だろう」
と、ゴルドレッド。
「俺が調べた文献によると【星の心臓】は多層構造になっている。中心部である【最終階層】に至るまで、いくつかの階層を通らなければならない」
説明するゴルドレッドの顔が妙にイキイキしていた。
こいつ、本当に教え好きなんだな……。
「そして、ここは最外縁である【第一階層】だと推測される。質問は、レイン・ガーランド?」
「いや、特には……」
とりあえず状況は分かった。
「なんだ? 質問はないのか? 君は【星の心臓】のことを何も知らないだろう? 俺から情報を得たくないのか?」
「とりあえず現在地は分かったし」
「本当に質問はないのか?」
めちゃくちゃ残念そうな顔をしている。
「その【最終階層】ってところを目指せばいいんだろう? 後のことは進みながら考えるしかないんじゃないか?」
「それはそうだが……」
実際、ここに留まって考えていても仕方がない。
俺はもともと助けを呼ぶ『星の声』に導かれて、ここまでやって来た。
その【最終階層】というところまで行けば、星を救うことができるのか、あるいは他に必要な行動があるのか。
今考えていても分かることじゃない。
行くしかないんだ、【最終階層】へ。
「確かに、ここに留まる意味はなさそうだな。俺とて【星の心臓】について知っていることは多くない。後は実地で行こう。フィールドワークは嫌いじゃない。くくく」
嫌いじゃないどころか、目がキラキラしている。
俺たちはダンジョン内を進んだ。
どこまでも薄赤色の外壁が続き、周囲からは心臓の鼓動にも似た音が、どくんどくん……と聞こえてくる。
まさしく『星の心臓』という名前がぴったりの場所だ。
「おそらく、他の保持者もここに呼ばれている」
ふいにゴルドレッドが言った。
「俺だけが先に抜け出して【星の心臓】に到達する予定だったが、その目論見は崩れた。そこで――提案がある、レイン」
「……なんだ?」
こいつの方から『提案』なんて、嫌な予感しかしない。
「俺と君で手を組み、【最終階層】を目指さないか? もし他の保持者が立ちはだかったときは協力して戦おう」
「……お前と、手を組む?」
さっきまで俺を襲って――殺そうとしてきた奴に、いきなり手を組もうと言われて、すぐにうなずけるわけもない。
当然、百パーセント打算だろうけど、どういうつもりだろう?
言葉通り、互いの利益が一致しているという目論見で言っているのか、それとも――。
どこかの段階で俺を裏切り、背後から刺そうというのか。
……うん、ありそうだな。
「どうした、俺が信用できないか?」
「全然」
「即答か」
ジト目の俺に、ゴルドレッドは全然動じずに微笑んだ。
「俺が保持者を集めたのは、いずれ【星の心臓】にたどり着くためだ」
と、続けるゴルドレッド。
「そこに到達した者は、大いなる力を得る。あらゆる望みを叶えられるほどの絶大な力を星から授かって、な」
「お前は『誰よりも上に立つ』って言ってたよな? その力を使って、世界の王にでもなりたいのか」
「そうだ」
ゴルドレッドは即答した。
「王になる――俗な言葉だが、突き詰めれば俺の望みはそこに行きつくだろう。それもちっぽけな国一つの支配者ではなく、この世界すべてを従える究極の王……未だ人類が誰も成し遂げたことのない至高の場所へと、俺はたどり着く」
その言葉は、聞いているだけでむせ返りそうな野心に満ちていた。
「君は何を望む、レイン?」
ゴルドレッドがたずねる。
「なんのために最終階層を目指すんだ?」
「俺は――」
ゴルドレッドを見据える。
「助けてくれ、って呼ばれたんだ。だから、行く」
「星を救うために、か?」
「そういうことになるのかな……行ってみないと分からない」
ゴルドレッドの問いに答える俺。
と、
「――止まれ、主よ」
前方を進む黒の魔王グランディリスが突然言った。
ちなみにこの黒の魔王と閃鳳王が俺たちに先行している。
ここから先にどんな危険があるか分からないから、その二体を盾にしようということらしい。
「敵だ」
「何?」
ゴルドレッドが眉を寄せる。
俺も前方を見つめた。
暗がりの向こうには何も見えない。
「やれやれ。人間とは感知能力がここまで低いのか」
グランディリスがため息をついた。
「【ファランクス】」
突き出した右手から数百の光弾が飛んでいく。
さすがに魔王だけあって、無詠唱でもこれだけの数の魔力弾を放てるのか。
飛んでいった光弾は前方に着弾し、連鎖的な爆発を起こした。
ダンジョンが崩落したらどうしようと思ったけど、周囲の壁や天井、床はビクともしない。
「案ずるな。『星の心臓』はこんなことでは壊れん。名前の通り、星の心臓部だからな」
俺の懸念を察したのか、ゴルドレッドが言った。
「ここが崩壊するときがあるとしたら、それは星そのものが崩壊するときだ」
「星そのものが……」
――ぴしり。
が、その時、俺のすぐ側で小さな音が聞こえた。
「えっ……?」
壁の一部に亀裂が走っている。
ごく小さなものだけど――確かに、ヒビが入っていた。
「壊れてるじゃないか」
「……!? 文献で得た情報とは違うな。いや、まさかこれは――」
ゴルドレッドがうめく。
「星の崩壊が始まろうとしているのか……?」
「――魔王ごときの攻撃で我らを屠ることはできん」
ざっ、ざっ、ざっ……。
整然とした靴音が響き、前方から緑の衣装をまとった集団が現れた。
「我らは【天星兵団】――個別の名を与えられておらず、【緑】と【戦騎兵】の称号を持つ者」
兵士ってことだろうか。
なら、彼らが身に付けているのは、さしずめ軍服か。
数は全部で三十ほどだ。
それにしても――【天星兵団】ってなんだろう。
「奴らは【星の心臓】を守る護衛役といったところだ。とある文献で存在を確認している。おそらくは……この星による『星自身を守りたい』という意志が具現化したものだろう」
ゴルドレッドが説明した。
「だが、しょせん俺たち保持者の敵ではない。やれ、閃鳳王、グランディリス」
命令とともに巨大な魔鳥と魔王がそれぞれゴルドレッドの前に出る。
ごうっ!
閃鳳王の火炎と雷撃が、魔王の魔力波が、前方の兵団を薙ぎ払った。
「強い……容赦なしだな」
俺は思わず苦笑した。
ゴルドレッドは俺に手を組もうと提案してきたけど、こいつとしもべたちだけで十分なのでは……?
「どうした? その程度の戦闘能力で最終階層への侵入を食い止められるのか?」
ゴルドレッドが口の端を吊り上げ、ニヤリと笑った。
理知的で整った顔立ちが、とたんに邪悪な印象に変わる。
……こいつ、笑うと悪人顔だよな。
俺は場違いな感想を抱いてしまった。
「我らを、あまり舐めるな」
と、爆炎の向こうから兵士たちが現れる。
さすがにノーダメージではなかったらしく、体のあちこちが焼け焦げているけど、見た感じでは弱っている様子はない。
あの二体の攻撃を受けても、まだまだ元気なのか。
「ほう? 【戦騎兵】は【天星兵団】の十三の階級の中でもっともランクが低かったはずだが……ここまで強いとは」
ゴルドレッドがつぶやく。
「認識をあらためるとしよう。やはり実地での研究はいい。書物では分からないことが次々に明らかに――」
「ゴルドレッド、俺たちも戦った方がいいんじゃないか?」
何やら悦に入っているらしいゴルドレッドに言って、俺は燐光竜帝剣を構えなおした。
「俺は直接戦闘タイプじゃない。戦闘は閃鳳王と黒の魔王に任せる。それと君に」
「直接攻撃はできなくても、お前の【変化】で色々とサポートできるだろ」
俺はゴルドレッドを軽くにらんだ。
「ふむ……それもそうだな。危険はなるべく冒したくないが」
「俺を危険に放り込むのはいいのかよ」
「いや、最終階層までたどり着く前に君を失うのは痛い。とはいえ、ライバルが減ることにもなるから、必ずしもマイナスとないえまい」
「ったく、どこまでも打算なんだな、お前……」
「俺は君と利害が一致して共闘するつもりだが、友人や仲間になったわけじゃないからな。君だって同じだろう」
ゴルドレッドが真顔で言った。
「俺は君を、君は俺を、それぞれ利用する――それ以上でも以下でもない関係だ」
まあ、分かりやすくていいか。
「じゃあ、俺が攻撃するから、その余波で周りに被害が出たり、崩れそうだったらサポートしてくれよ」
「ここは『星の心臓』だ。ただのダンジョンとは違う。壊れることはない」
ゴルドレッドが言った。
「もし、ここが壊れることがあるとしたら、それは星そのものの崩壊を意味するからな」
「なるほど……じゃあ、攻撃の余波とか衝撃波がこっちまで押し寄せてきたときは防御を頼めるか?」
「それについては、もちろん引き受けよう。俺も、自分が攻撃に巻き込まれそうなときは身を守るつもりだからな」
よし、それなら遠慮なく敵を攻撃できそうだ。
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
「健闘を祈る」
ゴルドレッドは他人事みたいに言った。
いや、完全に他人事気分だな、こいつ……。
俺は苦笑しつつ、前に出た。
「では、我らと共闘といこうか」
「足を引っ張るなよ、人間」
閃鳳王と黒の魔王に声をかけられる。
こいつらはオリジナルではなくコピーのような存在だ。
とはいえ、こんな超常の存在たちから『仲間』として認識されるのは妙な気分だった。
「まあ、頼もしいと言えば、頼もしいか」
以前に戦った光竜王が味方に付くようなものだもんな。
しかも二体も。
「全員で奴らを蹴散らそう」
俺は二体に言った。
相手は得体のしれない敵――【天星兵団】。
先へ進むためには、倒すしかない。
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