表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

194/220

11 進む先で出会うもの

 ヴィクターとローザは正体不明のダンジョンを進んでいた。


 薄赤色の外壁がどこまでも続いている。


 その壁はかすかに明滅し、どくん、どくん、という鼓動のような音が聞こえてくる。


 まるで――『心臓』のようだ。


「『星の心臓』……か」


 ヴィクターがつぶやいた。


「なんかすごい場所に来ちゃったって感じ……大冒険ね」


 ローザが目を輝かせている。


「楽しそうだな」

「んー、私って子どものころから冒険譚を読むのが好きだったからねぇ。冒険に憧れて冒険者になったのよ……そのまんまの理由ね」


 ローザが遠くを見るような目になった。


「貴族の娘なんだから、礼儀作法の本でも読みなさい、ってお母様によく怒られたっけ」

「あなたは貴族令嬢なのか?」

「もう家を出ちゃったけどね」


 ローザが苦笑した。


「生まれは竜王国(ガドレーザ)なの。ベルティーナ伯爵の娘として生まれて、年頃になると婚約させられて……で、その相手がまた傲慢で嫌な奴だったのよ。私を奴隷みたいに扱おうとしてた。そんな相手と結婚するのは嫌だったし、何よりも――」


 と言いながら、ため息をつくローザ。


「人生設計も結婚相手も全部両親に決められる……自分の意志なんて何一つ介在しない人生、っていうのが嫌になってねぇ……ただ自由が欲しくて、家を出たの~」

「自由が欲しくて、か」

「私は……風のように生きたいんだと思う。ただ愛でられるだけの温室の花じゃなく、どこに吹くかも分からない風に」

「風……なるほど」


 ヴィクターがフッと笑った。


「案外、似た者同士かもしれないな、私たちは」

「えへへ、でも私は、ヴィクターさんほど自由には生きてないけどね」


 ローザも同じく微笑んだ。


 互いに、見つめ合う――と、そのときだった。


「これは……!?」


 ふいにローザが立ち止まった。


 ほわんとした表情がキッと引き締まる。


「どうした……?」

「さっき使った【探知】の魔法に突然反応があったの……」


 言って、ローザは目を閉じた。


「私の探知魔法は頭の中に対象のイメージが浮かんでくることが多いんだけど……あ、待って、何か浮かんできた――」


 言いながら、険しく眉を寄せる。


「何、これ……!? 天……星……兵……えっ?」

「どうした?」




「【天星兵団(アークレギオン)】――」




 ローザが厳かに告げた。


「アーク……? なんだ、それは」

「分からない。私の頭の中にその文字列が浮かんだ。何を指し示しているのか分からないけど、でも――」


 そこまで言って、彼女は体を震わせた。


 両腕で自分の体を抱きしめるようにして、不安げに語る。


「とてつもない力を感じる、何かよくないものが――」


 彼女が言いかけたそのときだった。


 ――どくん。


 心音が自然と高鳴る。


「? どうしたの、ヴィクターさん?」

「いる……」


 キョトンとしたローザに答えるヴィクター。


「えっ、いるって――」


 ローザはハッとなった。


「まさか私が探知した【天星兵団(アークレギオン)】が……?」

「いや、おそらく違うな」


 彼女の問いに首を振るヴィクター。


「私と同じ『力』を持つ者がいる」


 ごくりと喉を鳴らす。


 かつ、かつ、かつ……。


 床に足音が響き、近づいてくるのが分かった。


 しかもその足音は複数だ。


 心音がますます高鳴り、緊張感が増していく。


「誰だ――」


 ヴィクターは剣を抜いた。


 ほぼ同時に、通路の向こうから三つの人影が現れる。


「あら~?」


 一人の女がこちらを見つめていた。


 顔の中央に巨大な眼帯を付けた、紫色の髪の女だ。


 さらに十代前半くらいの少年と少女。


「なるほど。やっぱり保持者(ホルダー)たちがここに集められているわけか」


 少年がこちらをにらむ。


「競争はもう始まってるわけだね」

「うふふふ、あたしたちが先に行くからね~」


 眼帯の女が笑った。


「そちらの二人とは前にも会ったな。リサとジグ……だったか」

「【幻惑】の保持者……!」


 リサがこちらをにらんだ。


「あんたたちがいるってことは、あの【付与】の保持者もいるんだよね?」

「あいにく、はぐれてしまった」

「――ふん、あいつと一緒じゃないのか」


 つぶやくジグ。


「ふふ、会えなくて寂しがってる?」

「だ、誰が!」


 からかうようなリサに、ジグは顔を赤くして反論した。


 かつて彼らに出会ったとき、レインはリサ、ジグ、そしてこの場にはいないがフローラという保持者と一時的に協力した。


 その際、多少なりとも心を通わせたんだろうか。


 レインのことを話に出したとき、ジグの反応にはどこか好意的な雰囲気があった。


 ……まあ、気のせいかもしれないが。


「あんたたちも『力』を求めてきたんでしょうけど……先に最終階層まで到達するのは、あたしたちだぞ」


 リサが言い放った。


 つぶらな瞳には強い光が宿っている。


 強い――決意を感じさせる光が。


「私はただレインに協力するために来ただけだ。私自身はここで何かを成し遂げようという気持ちはない」


 ヴィクターは素直な心情を告げた。


 レインは星の声を聞き、助けを求められたのだという。


 どうやらそれは世界の危機らしく、彼はそれを救おうとしている。


 ヴィクターはその手伝いをするつもりだった。


 だから、別に自分自身が力を得ようという大それた望みはない。


「ただし――私たちに仇為すつもりなら、抵抗させてもらう」


 大それた望みはない、と言っても、降りかかる火の粉は当然払わなければならない。


 生きるために。


 これからも生きていくために。


 そして今は――側にいる仲間を守るためでもある。


「へえ? 三対一でも?」


 リサの瞳に宿る光が、剣呑な雰囲気を帯びた。


「言っておくけど、容赦はしないよ」


 隣でジグが両手を突き出す。


 これは、彼が自分の『天の遺産』――【停止】を発動するときの予備動作だとレインから聞いていた。


「また『止め』てやるか。命までは取らないけど、僕らは先へ進まなきゃいけない。誰よりも早く」

「……!」


 以前に出会った時、ヴィクターは彼に不覚を取り、【停止】をまともに食らっている。


(どうする――)


 相手は『天の遺産』の保持者が三人。


 まともに戦って勝ち目があるとは思えなかった。

 ならば、


「私たちは闘争を望まない。私たちは、ただ仲間と合流したいだけだ」


 戦いを回避すること。


 まずそこに注力するべきだろう。


「そう言って出し抜くつもりかい? 僕らはそこまで甘くない。それに――懸けるものがある」


 ジグが真剣な表情で告げる。


「譲れないものもある。確実に一番になるために……競争相手は確実に排除する」

「そういうことだぞ。未来がかかってるからね……あたしもジグも。メリーアンはよく知らないけど」

「うふふ、あたしにだって『理由』はあるよ~」


 メリーアンが微笑む。


 ――やはり戦いは避けられない、か。


「ならば!」


 ヴィクターは一歩踏み出した。


 ごうっ!


 その体を突風が包み込む。


 同時に地を蹴り、すさまじいスピードで突進した。


『翠風の爪』の能力――使い手に風をまとわせることによる超加速だ。


「速い!」


 ジグ、リサ、メリーアンが同時に叫んだ。


「いける――」


 相手は三人だが、いずれもヴィクターの速度について来られていない。


 このまま一人ずつ戦闘不能に――。


「……なんて、ね」


 ニヤリと笑ったのはメリーアンだった。

「『視え』てるよぉ。あたしの【探査】はすべてを見る力だからね。そう、あなたの動きの『先』までも――」

「なっ……!?」


 加速するヴィクターの背後に、メリーアンが回り込んでいた。


 ぴたり、と背中にナイフを突きつけられる。


「くっ……」


 まるでヴィクターの行く先があらかじめ分かっているかのような動きだった。


 いや、違う。


 本当に分かっているのだ。


「まさか、未来さえも見えるのか……!?」

【お知らせ1】

明日の夜0時(正確には明後日ですが)にマガポケで、明後日の昼12時には月マガ基地、コミックDAYS等でそれぞれチー付与コミカライズの更新がありますので、よろしくお願いします~!


【お知らせ2】

『死亡ルート確定の悪役貴族 努力しない超天才魔術師に転生した俺、超絶努力で主人公すら瞬殺できる凶悪レベルになったので生き残れそう』の書籍版がKADOKAWA様より11/29発売予定です!

大幅に加筆して新規章もいくつか書き下ろしていますので、既読の方もぜひ! 予約受付中です~!(広告の下に公式サイトへのリンクがあります)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
↑の☆☆☆☆☆評価欄↑をポチっと押して
★★★★★にしていただけると作者への応援となります!


執筆の励みになりますので、ぜひよろしくお願いします!


▼書籍版2巻がKADOKAWAエンターブレイン様から6/30発売です! 全編書き下ろしとなっておりますので、ぜひ!(画像クリックで公式ページに飛べます)▼



ifc7gdbwfoad8i8e1wlug9akh561_vc1_1d1_1xq_1e3fq.jpg

▼なろう版『死亡ルート確定の悪役貴族』はこちら!▼



▼カクヨムでの新作です! ★やフォローで応援いただけると嬉しいです~!▼

敵国で最強の黒騎士皇子に転生した僕は、美しい姉皇女に溺愛され、五種の魔眼で戦場を無双する。






▼書籍版2巻、発売中です!▼



ifc7gdbwfoad8i8e1wlug9akh561_vc1_1d1_1xq_1e3fq.jpg

コミック最新17巻、10/9発売です!

4e8v76xz7t98dtiqiv43f6bt88d2_9ku_a7_ei_11hs.jpg
― 新着の感想 ―
ヅィレドゥルゾが使うのが探知で ローザが使うのは探索(サーチ)じゃなかったでしたっけ(探索魔法使いという触れ込みですし) メリーアンの探査もあってこんがらがってきそうです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ