3 星の意志
『感じる……「天の遺産」を持つ者たちの波動……それに高位の魔族や人間の戦士たち……おお』
感嘆するような声だった。
『かつてないほどに、力ある者が集いつつあります……あなたたちに呼びかけた甲斐が……呼びかけ続けた甲斐が、ありました……!』
呼びかけた、という言葉に、俺の脳裏に浮かぶ記憶があった。
かつて、夢で見た光景。
そして、俺を呼ぶ声。
――待っていますよ、レイン。
あのときの……声。
『彼らのうちの誰かが……戦い、力を磨き合い、やがて「天の遺産」の最終段階に至った誰かが……私を救ってくれる……ゆえに、ここで一人でも消させるわけにはいきません……』
ごうっ……!
七色の光があふれ出し、【侵食】を包みこんだ。
ぐおおおおお……んっ。
悲鳴のような声とともに【侵食】が徐々に小さく縮んでいく。
『本体ならともかく欠片程度であれば、今の私でもこれくらいは……』
声が語る。
『私の力の欠片……「天の遺産」を持つ者たち……レイン・ガーランド、ゴルドレッド・ブラスレイダー……他にも集いつつある者たちを……我が元へと誘います……』
声が、続ける。
誘う?
どういうことだ?
何が起ころうとしている――?
『誰でも構いません……最初に我が元にたどり着く者、たどり着ける者。たどり着く力と資質を持つ者――その者には、あらゆる望みを叶える力を与えましょう……』
声に力がこもった。
『その代わり、私を救ってください……待っていますよ。種族も善悪も問いません。これは――運命を懸けた競争――星の、運命を賭けた戦い……!』
次の瞬間、周囲が虹色の光に包まれた。
『待って……いますよ……』
声とともに周囲の景色が暗転し、そして――。
※
SIDE リサ
『天の遺産』保持者の一人――【魔弾】の力を持つリサは馬車で街道を走っていた。
ただの馬車ではない。
馬も御者も、すべてが人工物だった。
この『魔導馬車』はかつて彼女が作成した『作品』の一つである。
(本当は……二度と使うつもりはなかったんだ)
リサは唇をかんだ。
まだ他の保持者たちと出会う前の時期……リサ・タカマガハラが魔導研究者として活動していたあのころ。
忌まわしい記憶として封印した時期ではあるが、魔導馬車の使い勝手は抜群だ。
今は『星の心臓』を目指し、既に他の保持者たちとの競争が始まっており、彼女は過去への忌避も、感傷も抑え、この魔導馬車を使用することにしたのだ。
「久々に乗ったけど、本当に速いな、これ」
隣の席でジグが言った。
その首元に『00049』という番号――リサが彼に刻み付けた識別番号だ――が見え、彼女はわずかに目を伏せた。
それもまた忌まわしい記憶につながっている――。