2 三つ巴
「いでよ、魔王グランディリス」
ゴルドレッドが右手を掲げた。
その手に持った石板から、ふたたび出現する魔王グランディリス。
「さすがに第三術式を三度も使うとポイント消費が痛いな……」
と、ゴルドレッドが軽く顔をしかめる。
「とはいえ、この状況を突破すれば、俺は【星の心臓】に大きく近づく。今は出し惜しみをしているときではない。グランディリス、ここから脱出する準備を。閃鳳王、お前は迎撃に専念だ」
ヴンッ。
魔王と閃鳳王の両眼がそれぞれ妖しく輝いた。
一方の俺は燐光竜帝剣を構えたまま、ゴルドレッドたちを、そして黒い怪物――【侵食】を交互に見つめている。
【侵食】は特に何かをするわけではなく、ゆらゆらと揺れていた。
けれど、攻撃の意志がなくなったわけじゃなさそうだ。
さっきみたいにいきなり襲ってくる可能性は十分にある。
ただし、
「いつ襲ってくるかが……まったく読めない――」
俺はギリッと奥歯を噛みしめた。
その姿から感情や行動を読むのが難しいため、俺は常に緊張状態を強いられてしまう。
一方のゴルドレッドは悠然としていた。
奴としても【侵食】の攻撃に備えなくてはならないから、緊張状態を強いられるのは同じ。
けれど、奴には閃鳳王と魔王がいるため、『【侵食】への対応』と『俺への攻撃』を分担して実行できる。
俺は自分一人ですべてをこなすしかない。
その差は――そのまま互いの消耗の度合いに現れてくる。
五分……十分……二十分と経過し、まだ【侵食】は動かない。
けれど、俺の集中力が途切れ始める。
「歪め」
ふいにゴルドレッドがポツリとつぶやいた。
次の瞬間、俺の足元が大きく揺れる。
地震――ではない。
ゴルドレッドが【変化】を使い、足元の地面を大きく変化させたのだ。
「し、しまっ――」
俺はバランスを崩した。
「足場が――」
あちこちが隆起し、あるいは窪み、立っていられない……っ!
その瞬間、今度は【侵食】が動いた。
「くっ……!」
俺の体勢が崩れるのを見て、好機と考えたのか。
あるいはたまたま襲撃のタイミングが一致したのか。
いずれにせよ、黒い巨体を揺らしながら【侵食】が俺に迫る――。
俺が身に着けている防護アイテムで、奴の『侵食攻撃』に対抗できるだろうか。
ばちっ、ばちぃっ……!
奴が触れたとたん、防護アイテムが次々に壊れていく。
まずい……思った以上に奴の攻撃力が高い――!
「このままだと全部壊される……っ」
そうなれば、俺は【侵食】に呑みこまれて死ぬだろう。
どうにかしなきゃ……っ。
焦りながら状況を打開する手段を考える。
と、そのときだった。
『させません』
声が、響いた。
それは聞き覚えのある声。
そう、俺がスキルを使うときに聞こえる、あのアナウンスと同じ声。
そして、俺を『星の心臓』に誘う何者かと同じ声。
星の、意志――。