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17 伝説のS級冒険者1

 SIDE フローラ



 フローラ・ヴァーミリオン。


 三つ編みにした金色の髪と、おとなしげな容貌。

 一見して普通の村娘のような服装。


 戦士の雰囲気など皆無である彼女は――その見た目通りの存在ではない。


 それどころか、彼女の経歴は伝説と言ってよかった。


 かつて一年だけ冒険者として活動し、その一年で所属ギルドの『堕天煉獄(だてんれんごく)』をSランクギルドまで押し上げた。


 今や『堕天煉獄』は『星帝(せいてい)の盾』や『覇王竜(はおうりゅう)の翼』などと並び、『ビッグ5』と称される大陸最強ギルドの一つとして数えられている。


『炎の聖騎士』リリィ・フラムベルがS級冒険者昇格の史上最年少記録を持っているように、フローラは冒険者になってからS級に昇格するまでの史上最短記録を持っている。


 彼女がS級昇格に要した時間は、わずか一か月。


 その期間に、彼女の代名詞とも言える『黒い刀』一本であらゆる最難度の討伐クエストをこなし、異常な速度で戦績を積み上げた。

 昇格試験を特例免除されるほどの快進撃で、あっさりとS級に成り上がったのだ。


 数々の伝説を打ち立て、『黒天閃(こくてんせん)のヴァーミリオン』の二つ名を大陸中に轟かせた彼女は、しかしたった一年で冒険者を辞めてしまう。


 以来、公の場には一切姿を現さないまま五年が過ぎ、今に至る。




 大陸随一の歴史を誇り、『氷雪の王国』と称されるリゼル――。


 その北端に位置する氷原地帯に荘厳な城がある。


 今は所有者もいなくなった古びた城の中に、彼らのアジトはあった。


『天の遺産』。


 星の力を秘めた異能力を操る特殊な素質者たち――彼らの会合場所であり、秘密基地でもあった。


 実際にはこの城はリゼル王国の管理下にあるはずだが、それを事実上私有地のように使っているのは、『天の遺産』保持者(ホルダー)の誰かが細工をしたらしい。


「……このアジトには随分とお世話になりましたが、それも終わりですわね。名残惜しいですわ」


 フローラは中庭から城を見つめ、ため息をついた。


 この美しい城も、空にかかる虹色のオーロラも、気に入っていただけに残念だ。


 もう、ここに戻ってくることはないだろう。


 旅立ちの時が来たのだから――。


(五年間ずっと追い求めてきた『星の心臓』に、ようやくたどり着けるかもしれない……『彼』の出現が、すべてを動かし始めた……)


 フローラは想いを馳せる。


「あら、まだここにいたんですね、フローラ」


 やって来たのは白いドレスをまとった金髪の少女だ。


 気品あふれる美貌には、にこやかな笑みが浮かんでいる。


【転移】の『天の遺産』を持つシリルだ。


「ジグたちはとっくに出発したそうですよ。『星の心臓』へ」

「示されたのは、伝説級の剣の共鳴による大雑把な座標にすぎません。あたくしはもう少し正確な座標を探ってから行くつもりです」


 フローラが答えた。


「まあ、ジグやリサは出たとこ勝負ですからね~。メリーアンは【探査】の『天の遺産』を持っているから自力で見つけちゃいそうだけど」


 と笑うシリル。


「『出たとこ勝負』で見つけられるほど甘くはありませんよ。そしてメリーアンに関しては自身の戦闘能力が皆無に近いですから、単独で『星の心臓』までたどり着くのは無理でしょう」


 フローラが言った。


「現状、脅威なのはゴルドレッドだけです」

「あー……大本命ですよね、この『レース』の」


 レースという表現は、正しい。


 もともとフローラたち『天の遺産』保持者はゴルドレッドによって集められた。


 一人一人では到達することが困難な『星の心臓』に、全員の力を結集して道を切り開きたい――。


 彼の言葉によってフローラ以外にも保持者たちが集まり、ここをアジトとして『星の心臓』や自分たち以外の『天の遺産』保持者の情報を集める活動が始まった。


「本命ならもう一人いる、とあたくしは思います」

「へえ、誰ですか?」

「レイン・ガーランド」


 フローラはまっすぐにシリルを見つめた。


「彼ならば、あるいは――」

「んー……星が生み出した燐光竜帝剣(レファイド)を持っているのは強みだけど、それだけでしょ? あたしは彼と会ったときに、こう言ったんですよ。『あなたにはあたしたちの仲間になる「資格」がない』って」

「資格……」

「彼には『確固たる目標』がない。ただ平和に、穏やかに暮らしたいだけ……あたしにはそう見えます」


 シリルの表情から笑みが消えた。


「でも、あたしや陛下……いえ、ディータは違う。かけがえのないものを取り戻す――そのためならどんな犠牲も厭わない。強い意志をもって戦っています」


 シリルやディータが背負っているものを、フローラは知っていた。


 彼女たちの意志の強さも、よく知っていた。

 けれど、


「あたくしは、少し印象が違います」


 フローラが首を左右に振る。


「レインさんにはレインさんの――意志の強さと目標がある、と。そう感じました」

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