15 ゴルドレッド
「俺とヴィクターさんのおかげで『星の心臓』の位置をつかんだ……? どういう意味だ?」
「『つかんだ』のではなく『つかめる』のだ」
ゴルドレッドが冷然と言った。
「感謝するよ、レイン。俺は君のおかげで『星の心臓』へ――すべての遺産保持者が望む終局の地へと向かう。そして神や魔王をも超える至高の存在へと進化する」
「そんな大それた力は、俺は望まない」
俺はゴルドレッドをにらむ。
「けれど、お前にそんな力を渡してはいけない気がする。お前は――」
「邪悪に見えるか、俺は?」
ゴルドレッドが俺を見つめる。
静かな瞳だった。
闘志や敵意は感じない。
けれど……だからこそ、俺はこいつの目に怖さを感じた。
「俺は常に虐げられてきた。親からは捨てられ、周囲からは騙され、搾取され続けるだけの人生を送ってきた」
ゴルドレッドが語る。
「血のにじむような思いをして錬金術を学び、宮廷付きとなり――そこでも陥れられ、宮廷から追放された。俺の人生はその繰り返しだ。他者から虐げられ、追い落とされる」
その眼光に宿る光が――濁った。
「だから、この力に感謝する。さらなる力を得て、俺は……俺を虐げてきた者すべての上に立つ。そして奴らを踏みにじってやる」
「虐げられてきたから……今度は虐げる、っていうのか?」
「結局、この世界は支配するかされるかだろう? いつまでも虐げられたままじゃない。俺は支配者の側に立つ」
ゴルドレッドが言い放った。
「その目的に立ちはだかる障害はすべて排除する。まずは君だ、レイン」
「戦いは好きじゃないけど、降りかかる火の粉は払うよ」
俺は燐光竜帝剣を構えた。
モンスターを討伐するのとはわけが違う。
相手は人間だ。
けれどディータやシリルのときと、あるいはジグたちのときと同じ。
黙って殺されるわけにはいかない――当たり前だ。
当たり前……なんだ。
「ここは狭いな。一面の荒野に『変え』ようか」
ぱちんと指を鳴らすゴルドレッド。
宣言通り、大理石の廊下も、壁も、天井も――すべてが消え失せた。
同時に、黒褐色の荒野が地平線まで広がった場所に移動する。
いや、こいつの能力は【変化】だ。
環境や地形そのものが一瞬で変わったということか……?
「そして、さらに――」
ゴルドレッドがニヤリと笑う。
懐から何かを取り出した。
小さな鳥の形をした彫刻だった。
魔道具の類だろうか、それとも――?
「警戒する必要はない。これ自体はただの彫刻に過ぎない」
ゴルドレッドが言った。
「ただの――形代に過ぎない」
「形代……?」
「今よりこの形代をイメージの核として、我がしもべに『変え』る。ポイント333333を消費し、【変化】の『天の遺産』、第三術式を起動――」
朗々と、謳うように告げ、鳥の彫刻を掲げるゴルドレッド。
「【変化】【タイプ・生物】【カテゴリ・伝説級】」
しゅおおおおお……んっ。
まばゆい光があふれたかと思うと、その光が彫刻に吸い込まれていく。
「出でよ、『王』の称号を持つ星の獣――」
次の瞬間、爆発的な閃光が弾けた。
「うっ……」
あまりのまぶしさに俺は目を細める。
数分後、光が晴れると、そこには巨大なシルエットが出現していた。
全長100メートルはありそうな鳳凰だ。
漆黒の全身を黄金に輝く紋様が彩っている。
「伝説の魔獣、閃鳳王ベル・ファ・ゼリル――」
ゴルドレッドが鳳凰を見上げて言った。
「かつて伝説級の剣『紅鳳の剣』によって討たれた最強の魔鳥さ」
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