13 『天の遺産』についての講義
「我らが生きる世界……あるいは無数に存在する数多の世界は、すべて『天』と呼ばれる存在が生み出したものだ」
ゴルドレッドの説明が始まった。
なんだか気持ちよさそうな表情をしている。
たぶん他人に何かを教えるのがすごく好きなタイプだな。
ときどき、そういう人いるもんな。
「天……?」
「世界を、そして神や魔王すらも生み出した『すべての根源』となる存在――その『天』が我らの世界を生み出した際、その力の一部が星の中心部に残留した。『天』が『世界の創造』に費やした力の余剰分といっていいだろう。それが『天の遺産』だ」
「『天の遺産』っていうのは、その『天』っていう存在の力の一部ってことなのか?」
「ご名答」
ゴルドレッドが重々しくうなずいた。
「星の中心部――『星の心臓』には『天』の力の残滓が渦巻いている。それが『天の遺産』として形成され、その力に適合する人間の元に宿る。俺の【変化】も君の【強化付与】も……あるいは他の者たちの【転移】や【破壊】などもすべて同じだ」
語りながら、ますます目をキラキラさせるゴルドレッド。
うん、やっぱり説明するという行為が好きなタイプみたいだ。
「人の精神力や技術の結晶である『スキル』とも違う。魔族の力を人の心によって変換・再現する『魔術』とも違う。『天の遺産』とは『天』の力によって発動するスキル、といえよう」
「『天』の力……」
正直、そう言われてもピンとこない。
俺自身は今まで魔術を使っているつもりで【強化付与】を使ってきた。
だけど、それは俺の勘違いで――この力は魔術とは違う体系の能力、ってことなのか?
「便宜上、『星』の声はこの力を『魔術』や『スキル』と呼称することもあるが――実際にはまったく別の系統の力ということになる。この辺りの定義づけはもう少しきっちりした方が、俺はいいと思うが……」
ぶつぶつとつぶやくゴルドレッド。
あ、また目がキラキラしてる。
学術的なことが好きなんだな、きっと……。
「『天』の力を操ることができるのは、力を宿した大元である『星』の声を聞き、『星』と意思を交わせる者のみ。君も能力を使うときに『声』を聞いたことがあるだろう?」
「声……?」
俺は一瞬首をかしげ、
「ああ、確かにアナウンスが聞こえることがあるけど……」
それも付与魔術の効果の一部なんだろう、くらいに思って、今まで気にしてなかったけど――。
あれは、この世界の――『星』の声ということなのか。
「君が持つ『天の遺産』はずっと君の中に宿っていたのだ。それがなんらかの理由で覚醒し――今の君が持つ【強化付与】へと成長したはずだ」
「覚醒と、成長……」
「そのきっかけは多くの場合は強い感情の発露だ」
ゴルドレッドが言った。
「たとえば、俺は――かつては宮廷錬金術師に過ぎなかった。凡庸な成績ではあったが、誠心誠意仕事に取り組んでいたつもりだ。だが、ある日――大臣たちの権力争いに巻きこまれ、冤罪によって宮廷を追放されてしまった」
「追放――」
こいつも、俺みたいに所属していた場所から追放されたことがあったのか。
「俺は無実だったし、それを必死で訴えた。だが誰も信じてくれなかった。味方だと信頼していた者たちは真っ先に離れていった。直属の上司は自分の保身しか考えない男で、あっさりと俺を斬り捨てた。俺はすべてを失い、失意のうちに王都を去った」
ゴルドレッドが遠い目で語る。
「俺の中にあったのは宮廷の連中への恨みと憎しみだった。その気持ちが最大限に高ぶったとき、俺の力が目覚めた」
「えっ……?」
「俺が使っている錬金術は、本当は錬金術ではなかった。俺の中に眠る『天の遺産』――【変化】の一部が錬金術のような効果を伴って、発現していただけだったんだ」
ゴルドレッドの声に熱がこもった
「俺は真の力に目覚め、喜びに打ち震えた。そして、俺を追放した国に舞い戻った――」
「……その国に戻って、どうしたんだ?」
嫌な予感を覚えつつ、俺はたずねた。
ゴルドレッドは俺をジッと見つめ、
「石や塩、あるいは泥……かな」
「……何?」
一瞬、意味が分からず、ゴルドレッドを見つめ返す。
「っ……!」
俺はゾッとなった。
その瞬間のゴルドレットの顔に浮かんだ喜びの表情が――あまりにも邪悪だったから。
「俺を虐げた連中を全員『変え』てやったのさ。俺を信じなかった同僚や上司は石になった。俺を斬り捨てた上司は塩になった。俺を追い出した宮廷の連中は――まとめて泥水に変えてやった」
「そ、そんなことが――」
「できるさ」
震える俺にゴルドレッドは傲然と告げた。
「超越級と言っていい、俺の『天の遺産』なら。君の力だってそうだろう? その気になれば、国一つをひっくり返すことだってできるはずだ」
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