12 【変化】と【強化付与】
ゴルドレッド・ブラスレイダー……か。
なんか強そうな名前だ、と場違いな感想を抱きつつ、俺は油断なく身構えた。
「……レイン・ガーランド」
名乗り返す俺。
「知っているさ。君が【強化付与】の『天の遺産』を持っていることも。伝説級の剣『燐光竜帝剣』を持ち、光竜王を退けたことも。そして……『星の心臓』を目指していることも」
俺を値踏みするようなその視線は、やたらと冷ややかだった。
「あんたも『天の遺産』を持っているのか」
「ああ。俺の能力は【変化】――あらゆるものを『変え』る力」
謡うように告げるゴルドレッド。
もしかしたら道や景色が急に変わったのは、こいつの力――?
「本当は君やヴィクターとやらは、もっと遠くの場所に追いやろうと思ったのだが。【変化】の効果は俺にも完全に制御することはできない。変形対象や変形後の形状について、その精度は一定ではないからな」
ゴルドレッドが軽くため息をついた。
「もっとも手ごわい君が『正解』のルートに来てしまった」
「あんたのところに来る道が『正解』ってことか?」
「そうだ。遺産持ちを分断し、一人一人始末する――」
ゴルドレッドの視線はますます冷たさを増したように感じた。
俺のことを、まるで道端に落ちているゴミでも見るかのような無感動な視線だ。
俺とヴィクターさんや他のメンバーを引き離し、俺一人を狙い撃ちにする――つまりは『天の遺産』持ちの各個撃破がこいつの狙いか。
かつて戦ったディータやシリル、ジグたちがいずれも圧倒的なスキルを持っていたことを踏まえて、おそらくゴルドレッドの力も俺の【強化付与】と拮抗するだけのレベルはあるだろう。
「『天の遺産』とは何か――君は考えたことがあるか」
ゴルドレッドが不意にたずねた。
「すごく強力なスキル、ってイメージくらいしかないな」
「……ふむ。通常のスキルとは比較にならないほど強力というのは事実だが、それは真実ではない」
ゴルドレッドが首を左右に振る。
「真実を知りたくはないか、レイン・ガーランド」
「何が言いたい?」
俺は周囲に気を配った。
【変化】というのが、具体的にどんな能力なのか、何を仕掛けてくるのかが分からない。
奴との会話にあまり気を取られていてはいけない――。
「知りたいだろう? 知りたくはないか? ん?」
ゴルドレッドがたずねる。
「いや、別に」
本当のところは興味があるけど――。
「……ちっ、いいから『教えてください』って言えよ。こっちは説明したくてウズウズしてるんだ、まったく」
「へっ?」
なんかゴルドレッドの口調と雰囲気が急に変わったような……?
「……失礼した。一瞬、自分を見失ったようだ」
ゴルドレッドが咳払いをする。
「今、キャラ違ってなかったか?」
「気のせいだ」
「そうかなぁ」
「気のせいだ」
「いや、明らかに違ってたよ」
ゴルドレッドがやけに否定してくるから、よけい気になってきたぞ。
「気のせいということにしてくれ頼む」
「もしかして、ツッコまれたくないポイントなのか……?」
「『天の遺産』とは何か――君は考えたことがあるか、レイン?」
ゴルドレッドがさっきと同じ質問をした。
うーん、しょうがないから話に乗るか。
「いや、そもそも俺の付与魔術がその『天の遺産』って奴だと知ったのも最近だし……いったい、なんなんだ、『天の遺産』って?」
「ふむ。まず君の力は付与『魔術』ではない」
「えっ」
「魔術と近似した術式で発動しているが……本来はまったく別の異能力なのさ」
ゴルドレッドが言った。
「俺の【強化付与】は魔法じゃない……?」
「どこから説明するべきか……そうだな、まずは世界の成り立ちから語ろう。ゆっくり、じっくりとな」
ゴルドレッドが言った。
妙に目がキラキラしている。
「なんなら数日単位で語ることもできるぞ」
「いや、できれば簡潔にお願いしたいんだけど……」
「むむ」
ゴルドレッドは残念そうな顔になった。
「まあ、あまり時間をかけると、他の遺産持ちに出し抜かれるかもしれないしな……今回は残念だが簡潔に話そう」
……というわけで、ゴルドレッドの講義のターンのようだ。